“黄魔導士の罠”
──朝。
地球とあまり変わらない清々しい朝日に、闇奈は目を覚ました。
睡眠時間は、一時間といったとこだろうか。
起きて見渡してみると、火芽香もいつの間にか帰っていたようで、隣で寝息を立てていた。
その表情は、顔色も良く、とても穏やかだ。
──どうやら平気そうだ。
ホッと安堵の溜息を吐き、闇奈は火芽香の毛布をキレイに掛け直した。
(顔洗いてぇな)
広い草原には水の気配はなかったが、とりあえず探してみることにし、散策を始めた。
「お?」
勘を頼りにしばらく歩いていたら、ラッキーにも水が流れるような音が聞こえてきた。
すぐさまその音の方へと歩を進める。
少し小高くなってる丘陵に上がり、下を見ると、そこには草原に似合わないものがあった。
「へぇ、こんな川が近くにあったんだ」
大きな岩に囲まれて、水量もたっぷりあって流れも速い、立派な川だ。
鮎や岩魚が釣れてもおかしくない程の綺麗さだった。
「こんな川があったのに、なんで昨日は気付かなかったんだろう?」
不審に思いながらも、降りていって川辺の砂利を踏みしめる。
ジャリッ──ザリッ──
いかにも砂利の上ですといった音が大きく響く。
が、石を踏んだ感触があまりしなかった事に、闇奈は気付かなかった。
「いいところだな~」
目の前を流れる清流に魅せられた闇奈は、靴を脱いで川に入ってみることにした。
靴と靴下を脱いで、その辺にあった大きな岩の上に置いた。
ハズだったのだが、
ポトン!
靴は、岩には乗らずにそのまま真っ直ぐ落ちた。
「え?」
不思議に思って岩に手を伸ばすが、手は岩に触れること無く空を切るだけ。
なんと、『実体』がない。
「な、なんだこれ」
触れない岩に気を取られていた闇奈は、背後に忍び寄る気配を察知できず、
「!?」
何者かに頭から袋をかぶせられ、そのまま頭を殴られて気を失ってしまった。
ーー
その数時間後、女達も目を覚ましていた。
「う~ん! よく寝たー! おはよー!」
闇奈の魔法で眠らされた水青は、おかげで快眠だったようだ。
「あ、お、おはようございます……」
その声を聞いて目を覚ました火芽香だが、まだ眠そうだ。
火芽香の姿を見た三人は息を呑む。
昨夜泣きじゃくっていた彼女の姿が頭をよぎる。
しかし、昨夜は盗み聞きしたから知らないフリをしなければいけない。
「おはよー火芽香。もういいの?」
璃光子は自然な笑顔で言う。嘘が上手なようだ。
演技に自信が無いのか、あとの二人は黙っている。その方が不自然だが。
「はい。ご迷惑おかけしちゃって……あれ、闇奈さんは?」
全員の顔を見渡しながら謝罪していた火芽香が、闇奈がいない事に気付き、キョロキョロと辺りを見回す。
「そういえば」
と声を揃える三人。火芽香に気を取られて闇奈がいない事に気付かなかったようだ。
そこへ、男達がやってきた。
「おはよう。みんな、よく眠れたか」
そう言う刀矢の顔は寝不足でクマができており、あとの三人も欠伸をしている。
どうやらあまり眠れなかったらしい。
「あ、ねぇ、闇奈見なかった?」
璃光子が聞くと、男達はフルフルと力なく首を振った。
「どこ行っちゃったのかなぁ~?」
水青が心配そうに言うと、
「そのうち帰ってくるだろ~。闇奈は強いし千里眼だから」
と剣助があくび混じりに言った。
千里眼とは、闇奈がよく色んなものの気配を察知することを指しているのだろう。
剣助の姿が目に入ると、火芽香は昨夜のことを思い出してしまい、恥ずかしさで下を向いた。
女達が心配そうに辺りを見回していると、最後の一人が到着した。
「おお、みんなもう揃ってるのか。感心だな」
と、やって来たのは満面ニコニコ笑顔の四色だ。
昨夜、闇奈に攻撃していたことを思い出した三人の娘は、少したじろぐ。
唯一、その事件を知らない火芽香は、引率者の登場に安心したように報告。
「四色さん。闇奈さんがいないんです」
「なに!?」
四色は表情を強ばらせた。
そのただ事ではない様子に、ボーッとしていた男達もパチッと目を覚ます。
四色は辺りを見回しながら、苦い顔をして長い顎髭を撫でた。
「しまった。まさか……忠告すべきだったな」
「どういうことですか?」
刀矢が説明を求める。
「この辺りは、黄魔導士の集団が出没するという情報があるんだ」
そんなことを言われても、地球人には理解できない。
「オウマドウシって?」
風歌が眉をしかめる。
すると四色は少し考え込んでから、
「少し理解しておく必要があるな。この世界の魔法について説明しよう」
と言って女達を見ながら語り始めた。




