“記憶の中の男”
闇奈をやり込めた後、四色は火芽香の様子を見に訪れていた。
火芽香と剣助はまだ抱き合って泣いている。
それを見ていたら、ふと記憶の中の何かとシンクロしたような気がした。
(ん? どこかで見たような。誰かに似ている?)
しかし、明確に思い出すことは出来なかった。
暗闇の中に二人の姿を照らしだす焚き火は、もう燃料の薪が無くなっているにも関わらず、まだ燃え続けている。
それを見て四色はほくそ笑んだ。
(火芽香は、すでに火を使いこなしている。地球で発火能力を発揮したぐらいだから、相当な魔力を持っているに違いない。もしかしたら、火芽香は七色の素質があるかもしれないな)
無意識でも焚き火を燃え続けさせることができる火芽香の潜在能力に期待を寄せていた。
ふとその時、抱き合っていた火芽香と剣助が離れた。
火芽香は鼻をすすりながら俯いていて、剣助はそんな火芽香を微笑んで見つめている。
それを見て、さっきまで靄がかかっていた記憶がハッキリと浮かび上がった。
(あれは……剣秀!)
剣助の微笑んだその顔は、今も脳裏にこびりついている男の顔にそっくりだった。
それもそのはず。
銅剣秀は、剣助の先祖の兄に当たる男だ。
直接ではないが、DNAは繋がっている。
――ただ似ているだけなのか。それとも……転生?
その時の四色は、『輪廻』という言葉に怯えていた。
(もし、剣助があの男だとしたら。あの子らの中に必ず七色が潜んでいる……)
しかし、それは最悪な状況を意味するのだった。
(いや、取り越し苦労かもしれん。様子を見よう)
四色は二人を観察するのを止め、頭を冷やすためにその場を離れて行った。
--
「すっかり迷惑をかけてしまって……」
か弱そうな声で囁きながら、火芽香は泣き腫らした目で遠慮がちに剣助を見上げる。
その顔は、可愛いかった。
「ああ……。あいや! 全然! 迷惑なんかじゃない……ですよ」
見惚れていた事を必死に隠して答える剣助。
実は、少し残念だった。もう少しあのままでもよかったのに。
「あ、服が」
火芽香は剣助の胸元が汚れているのを見つけて少し慌てたように言う。涙の染みがついて、鼻水も少しついていた。汚い。
「ご、ごめんなさい!」
ポケットからハンカチを取り出して、あわあわと拭く火芽香。
さっきまでもっと近くで抱き合っていたのに、剣助は何故だかドキドキしてしまう。
「だ、大丈夫だよ。いいって」
触れられる恥ずかしさで、思わず火芽香の手を取って止めてしまった。
しかしその手にまた照れて、すぐにパッと離してしまう。
自分でも、奇妙な行動をしているのが分かる。
「そろそろ、戻ろうか」
これ以上は間が持たなくなると思い、剣助は皆の元へ帰ろうと立ち上がる。
「そうですね。あ、」
火芽香は同意して立ち上がろうとしたものの、中腰で止まるとまた座り込んだ。
「私は、もう少しここにいます。こんな顔じゃ、心配させるかもしれないから」
と言いながら頬や目を両手で押さえたり、離したりしている。どうやら、泣き腫らした顔を皆に見られるのが気になるようだ。
それももっともだな。と思った剣助は、
「じゃあ、俺も付き合うよ。一人じゃ危ないし」
また隣に座る。
火芽香はとんでもないと言わんばかりにブンブンと両手を振り、
「いえ、剣助さんは先に戻って休んでください。疲れたと思いますから。ありがとうございました。本当に」
そう言うと、やっと笑顔になった。
その笑顔もかわいくて、剣助は照れてしまって自然な返答が出来なかった。
「いいよ。付き合うよ」
照れ隠しから、ややぶっきらぼうな言い方をしてしまう。
「本当に大丈夫ですから、休んでくださ──」
「いや、俺もここにいる」
つい遮るように言ってしまった。
その強い言い方に、火芽香はドキッとした。
そして、抱き締めてくれた剣助の腕の強さを思い出して急に恥ずかしくなってきてしまい、剣助の顔が見れなくなってしまった。
その夜。
お互いに顔が見れずに俯いたまま、二人は時々「寒くない?」「いえ……」等のたどたどしい会話をしながら、共に時を過ごした。
二人がお互いに意識しだすのは、『不自然なほど自然な事』だった。




