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“四色”

 恐竜の爆破で吹っ飛んだ剣助(けんすけ)闇奈(あんな)だが、体操競技『鉄棒』のフィニッシュのような見事な身のこなしで、くるくると前転して軽やかに着地した。


さすが。よく訓練されている。



 そこへ全員が走り寄ってきた。


「二人とも大丈夫か!?」


 息を切らせた刀矢(とうや)は心配そうに言う。



「ぁぁ……俺は何ともないです」


「私も、別に何ともない」


 剣助はボーッと答え、闇奈は目を逸らしてから答えた。


 闇奈はみんなの目を見るのが怖かったのだ。みんなが自分を怖がっているのかもしれないから。



 気まずそうにそっぽを向いている闇奈に、刀矢は少し興奮したように問うた。


「闇奈、あれは、もしかして気功術(きこうじゅつ)か?」


 闇奈は驚いた顔をして刀矢を見たが、黙っている。


 だが刀矢は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「やっぱり。君のお母さんは使えなかったから、初めて見たんだ。話には聞いていたが。すごいな」


 刀矢が誉めたように言うので、闇奈は拍子抜けした。


 ──怖がっていないのだろうか?



「じゃあ、さっき風歌(ふうか)さんが息を吹き返したのも、その気功術ですか?」


 火芽香(ひめか)が聞くと、闇奈は恐る恐るゆっくり頷いた。



「そうだったんだ。すごい! ありがとう闇奈!」


 風歌(ふうか)は手を合わせて目を輝かせた。


 それでも、闇奈の表情から緊張は消えない。


 さっきから沈黙している闇奈を、剣助は案じていた。いつも自信あり気で高飛車な闇奈らしくない。


 剣助は腕組みをして闇奈の正面に立った。


「お前、俺を投げるなんて、怪力もいいところだよな」


 これでも励ましているつもりだ。


 それでも、闇奈は口を開こうとはしない。


 剣助は少し苛立った様子で、


「俺はなぁ! お前があのカメ○メハ出さなかったら食われるとこだったんだぞ!」


 手をばたつかせて抗議する。どうもキレ所がおかしいようだが。



「じゃあ感謝しろよ」


 闇奈がボソッと言うと、剣助は押し黙った。



「そうだよ。剣助、礼言えよ」


 刀矢が更に追い討ちをかける。



「な、なんで俺が。投げられたのに?」


 バカな剣助は本当に礼を言わなければならないのか真剣に考えている。



 それを見た闇奈がフッと笑い、


「悪かったよ剣助。エサに使ったりして」


 と言って、剣を差し出した。


「あ、俺の剣! いつの間に?」


 大事そうに受け取り、(はかま)(そで)でゴシゴシと汚れを擦り落としている。



「爆発でこっち飛んできたんだよ。私も危うく刺されるとこだったんだぜ」


 すっかりいつも通りの闇奈が皮肉っぽく言った。


 幼馴染みとはいい間柄だ。ちょっとケンカするだけで元気が回復するのだから。


 しかし、闇奈に笑顔が戻った、その時──



「いや~見事なものを見させてもらったなぁ~」



 聞きなれた日本語、しかし聞き覚えのない声が、背後から聞こえてきた。


 全員が振り返り、その声の主を見る。


 そこには、白い長い(ひげ)を生やした、恰幅(かっぷく)のいい老人が立っていた。


頭の毛はほぼ無くなっているが、両サイドにだけ残っていて、その全ての毛も真っ白。


服も真っ白で、この老人を象徴する色は白でしかなかった。


(神様ってこんな感じかしら)


 と火芽香は思った。


 皆が、誰だ? と思いながらその老人を見ていると、


四色(よしき)さん!」


 刀矢が嬉しそうにその老人に駆け寄った。


「おお、刀矢か? 大きくなったなぁ」


 四色(よしき)と呼ばれた老人は、皺だらけの顔をくしゃっとさせて微笑んだ。



「16年ぶりか。あの時はまだ11歳の砂利(じゃり)っ子だったのになぁ。いくつになった? 立派になったもんだ」


 四色(よしき)は刀矢の肩をポンポン叩きながら感慨深そうに刀矢を見ている。


「27歳になりました。四色(よしき)さんも、お変わりないようで」


 刀矢も笑顔で答える。


 そんな二人のやり取りを皆、呆然と見ている。


 剣助は、『16年』という数字に何となく引っ掛かったが、それ以上は考えきれなかった。



「お前たち、何でこんなところに落ちたんだ? いつもの場所と違うから、探すのに手間取ったぞ」


「ああ、それは、ちょっとタイミングがずれたみたいで」


 と言いながら刀矢はチラッと闇奈の方を見る。


 それに気付いた闇奈は、サッと目を逸らす。


 闇奈がタイミングを考えずにワープを実行したから着地場所がおかしくなったのだと、刀矢は思っているのだ。



「そうだ、紹介しないとな。この惑星(アシュリシュ)でガイドをしてくれる、四色(よしき)さんだ。俺は前回会ってるんだ」


 刀矢はにこやかに紹介する。


 ──そういえば案内役がいるって言ってたな。


 と誰もが思い出したように頷く。


 ついでにこの星の名前が『アシュリシュ』だということも聞けて、火芽香は少し安心した。


「よろしく。では、自己紹介をしてもらおう。

男たちから、名前と年齢を教えてくれ」


 と言って、よっこらしょと腰を下ろす四色(よしき)


 剣助たちは顔を見合わせると、年齢順にやることにした。


鉄槍太(くろがねそうた)

22歳、です」


銅剣助(あかがねけんすけ)

16歳です」


「く、金大牙(くがねたいが)

15歳です」



 名前と年齢を聞き終えた四色(よしき)は、満足そうに目を細めて大牙(たいが)を見る。



「そうか。最年少は大牙だな」



 その言葉に、刀矢は一瞬にして凍り付いた。


そして視線を地面に落とすと、険しい顔をしてキュッと唇を結んだ。


 しかし、それに気付く者はいない。



「じゃあ、次は女性陣だ。ああ、君たちは16歳である事は知っているから、名前だけ頼むよ」



 女たちは顔を見合わせて、継承式順にやることにした。


音黄野璃光子(おとぎのりみこ)です」


緑御森風歌(みおもりふうか)です」


赤地火芽香(あかつちひめか)です」


天蒼水青(てんそうみさお)です!」


気紫(おきむら)──」


 闇奈が言い掛けた時、


闇奈(あんな)だね。さっきの活躍見させてもらったよ。気功術も使いこなせるとは、当代は手練(てだ)れだな」


 と四色(よしき)が遮って誉めた。



(知ってんなら聞くなよ)


 と闇奈は少しムッとした。



「ありがとう。これで名前を覚えられるよ」


 四色(よしき)は満足そうにニッコリ笑って立ち上がる。


そして一呼吸置くと、大牙(たいが)に向かって手招きをした。


「大牙、ちょっとこっちに来てくれ」


「は、はい」


 突然自分が呼ばれたことに戸惑いながらも、大牙は小走りで駆け寄って行く。


 四色(よしき)は到着した大牙にニコリと笑いかけると、大牙が背負っている刀を指さした。


「重そうな刀だな。ちょっと貸してくれるか」


「あ、は、はい」


 大牙はおたおたと背中の鞘に納められている刀を引き抜いて四色(よしき)に手渡す。


「おお、立派な刀だ」


 四色(よしき)は愛でるように刀の峰を撫でた。



 すると、その様子を黙って見ていた刀矢が、ふいに闇奈の腕を掴んできた。


「な、なんだよ……刀矢?」


 闇奈は驚いて聞いたが、刀矢は険しい顔をしたまま黙って大牙を見つめている。



 不審に思いながらも、闇奈も視線を大牙に向けた、その時──



 ドスッ!



 聞いた事無いような鈍い音と共に、大牙の背中から大量の血が噴き出した。



 女たちの悲鳴がこだまする。



 大牙は、その大きな刀で身を貫かれていた。



「なっ!」


 闇奈が駆け出そうとする。


 だがその瞬間、刀矢は腕を強く掴み、闇奈の動きを封じる。


 その不可解な行動に、闇奈は戸惑い刀矢に叫ぶ。


「刀矢!?」


 それでも、刀矢は無言だ。



「大牙!」


 闇奈の後ろにいた剣助(けんすけ)槍太(そうた)も、大牙(たいが)を救出しようと駆け出す。


 だが、刀矢は素早く自身の刀を抜き、二人の目の前にビュッと刀を突き付けて行く手を阻んだ。


 鋭利な刀に邪魔されて、二人は慌てて立ち止まる。


「刀矢さん!? 何のつもりだよ!」


 剣助が叫ぶと、刀矢は素早く刀を振りかぶって二人を峰打(みねう)ちで突飛ばし、


「黙って見ておくんだ!」


 と大声で怒鳴った。



 その鬼気迫った表情に、闇奈を含めた三人は圧倒されて声を失った。




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