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story8

あわわわ、書いていて一言。


何か、先生√入り始めてね?

  side : 大原真坂


「はぁ」

 多賀が和服を着ていた日から4週間後。つまり一ヶ月。

 あれから何回目になるかわからないため息を着いていた。

 いつも生徒から注意されてる煙草も何か吸う気になれない。

 昼休み、放課後、気が付けば旧茶道室に足を運んでいる。もちろん仕事はすぐに終わらせてる。

 普段はだらだらと終わらせてるので学年主任がガミガミうるさいのだが、最近は「道端に落ちている変なものでも食べたのか?」と心配される始末だ。

 旧茶道室には割と高い確率で一年の浜井と多賀がいる。

 浜名と多賀が仲睦まじく和菓子やケーキ、色々なものを食ってたりしてたまにもらうのだがそれが結構うまい。

 基本的に甘いものが好きだと言うのがあるのかもしれない。

 そういえば多賀が何時もだしてくれる缶コーヒーは甘めのものだ。

 どうして甘めの物なのかを聞くと、急に慌てて、

「え、先生甘いもの苦手でした?一応、先生に何時ぞやケーキを出した時に『美味しい』と言っていたし、抹茶は『苦くて俺は得意じゃない』と言ったので、簡単に考えて甘いものがいいと思ったので出したのですが、苦手なのでしたら他のものにしますが……」

 と急ぎ早に行ったので、それが何かよく見てくれていると思って嬉しくなった。 大丈夫、と言っておいたので問題はないのだろう。

 ……ちょっと待て。

 なんで俺は、多賀の事ばかり考えて嬉しくなってるんだ?

 いやいや、おかしいだろ。まず、アイツは教え子。そして男。転向して来た越後江や椎名とも仲がいい。後輩とも普通に話をして勉強も教えている。うん、いい奴だ。

 先生方が荷物を運んでいると率先して手伝ってくれると聞き、そのことがよく職員会議に出て、担任の俺がもうちょっとシャキッとしろと怒られる。つまり、先生方からの評価も非常にいい。

 座学、運動においても常に一位。運動の面においては総合的に一位なだけであって主に筆記の成績がすごいことになる。それでも運動神経は中間より上だ。

 長くこの学校にいた用務員さんから聞いた話では多賀の成績は中等部1年の時から続いているある意味快挙だそうだ。それに張り合って向上していく生徒も少なからずいるらしく良い刺激にもなると言う。

 それでも見下すような態度はとらないし、仲もよく、友人も多い。

 どの面をとっても良い生徒。ただしたまに友人をからかうが、それも明るい一面だと言うことでやはり評価が高い。

 それがこの学校の教師による評価。

 ………確かに俺もそれを頼って理事長から投げられた旧茶道室の管理を多賀に任せているわけだ。

 そんなことを考えていると、

「俺は、異常だ………」

 頭を抱えて机に突っ伏す。

 なんでここの所、多賀の事しか頭にないんだ?

 何か思考がループしてる気がする。

 つまりどういうことなんだ?

「どーしたんだ、大原先生。頭抱えこんじまって。今夜一杯どうだい?もちろん俺の嫁には内緒だぞ?」

 と、急に俺の肩を叩いて声をかけてきたのが同じ職場の先生。

 所謂、同僚の田中太郎先生だ。御年58の定年間際。

 中年の頭が残念になっている先生だが、授業が面白い、明るく、よく相談に乗ってくれる。

 今、孫が中学校に入り、可愛くて仕方がないそうだ。

「いえ、そこまで重要なことでは……」

「何?酒が飲みたい?良いだろう。今日は私の驕りだ」

 そう言って、さっさと用意を死なされと背中を押される。

 呆気取られていると無言の重圧が田中先生から急いで着替え始める。

「それじゃ行こうか」




「久々のおでんは良いねぇ」

「は、はぁ」

「ほら遠慮せずに食べな。オヤジ!卵とスジくれよ!」

「あいよ」

 武骨で不器用そうな大男がやっているおでんの屋台に連れられてきた。

 久しぶりに飲む酒と糸こんにゃくが旨かった。

「それで、どうしたんだ、大原先生」

「ちょっと、最近頭の中が一人の生徒のことでいっぱいでして……」

 アルコールが体を回っていたのかすんなりと現在の状況が言えた。

「はて、大原先生のクラスに問題児がいましたかな?」

「逆で優秀すぎます」

「は、はっは!まるで君の反面教師じゃないか。教師……君もその生徒から学んでみては?」

「学年主任と同じこと言わないでくださいよ」

「そりゃ失敬した」

 一本取られたよ、と呟きながら俺のコップに酒を注ぐ。

「何と……言いますか、ちょっとしたことがありまして、それ以来そいつのことを目で追って、体が勝手に仕事を終わらせて、足がいつもそいつがいる所にあるってしまってるんですよ……」

「……なあ、大原先生。キミは恋と言うものをしたことがあるのかい?」

「いや、学生時代は勉強にアルバイトにでそんなことを考えてる暇もなかったですよ……」

 しかも、大学を卒業したら即就職。

 学生の頃、自分が化け物だと知って一度学校を登校拒否したことがあって、その時に部活動の顧問の教師に救われて、人の支えになることができる職業だと思い、教師になった。

 そういえばあの頃は夢ばっか追いかけてそんなことを気にしたことなんて一度もなかった。

「どうして田中先生はそんなことを?」

「いや、ね。生徒からたまに恋愛のことで相談を受けたりするんだが、キミがどうも恋をしたような顔をしていたものだがらね」

 ……恋?

「その様子じゃ初恋も経験したこともない初心な少年のようだ」

「一応、これでも自分、今年で23になるんですが」

「恋に歳は関係ない。と私は思ってるんだよ。まぁ、私が六つ年下の人とゴールしたから思うだけなのかもしれないが」

 ちょっと意外だった。

 いつも嫁に尻に敷かれている発言をしているものだから同年代、年下でも1つ程度だと思っていた。

「私が結婚したのは24で、結婚した相手は当時の教え子。要するに高校の女子生徒だった」

 その話にはポカンと口を開けてるしかない。意外すぎるものであった。

「惚気話にはなるが、いつの時代も教師と生徒の恋愛なんてご法度でね、当時、私は美大を卒業して非常勤講師として高校へ美術を教えにいっていたんだ。今のこの体格からは想像できないだろうが結構モテたんだ。もらったチョコレートは紙袋一杯分」

 今の生徒会なんて言う若いものにあっさり負けているがね、と苦笑い。

「美術の先生だけあって放課後に絵の指導なんかしててね。ある日、私は一人の女子生徒に恋をしてしまったんだ。特に大きな特徴があるとは言えない、普通の、そうごく普通の女子生徒だった。彼女がキャンパスに向かって筆を持って絵を描いてる姿がどこかはかなくて、美しかった。ただ、それくらいの単純な理由だよ」

 ……どこか今の自分に重ねてしまった。

 あの和服姿は、本当に綺麗で、幻想的とさえ思ってしまった。声をかけることさえ戸惑った。

 これが厳格で消えてしまうのではないかと。

「それからと言うもの、美術室にいたんだよ。自然と体が勝手にね。そんなある日彼女にこう言われたんだ「先生、いつも思うのですが目線が気になるんです。私勘違いしますよ?」と。その後、僕は彼女に手を出してしまったんだよ。それからひっそりと彼女と愛し合っていたんだが、突然校長室に呼ばれた。

 恋愛がバレてしまったんだ。もちろん私はその学校の非常勤講師をやめさせられた。その後、1年半の間は彼女と音沙汰もなし。もう、彼女に会えないことだけが悲しくて気が狂いそうだった。けれども私に連絡が入ったんだ、彼女からの呼び出しだった」

「呼び出されたのは教会。一年半ぶりにあった彼女はとてもきれいになった。うっかり「どちら様でしょうか」と言ってしまったほどに。対する彼女は、「先生も大人の魅力が出てきたのと同じで、私もちょっと大人になったんです」なんて言ったな。

 その後、今までのお互いあった事を話した。「私の隣で、一生を共にしていただけませんか?」なんて教会の中央で言われたんだ。もちろん、私はオッケーを出した」

 まるで小説の説明をしているようだった。

 現実は小説より奇なり。

 よく言ったものだ。

 現実味のない話だが、どこかリアリティーがあった。

 実際体験したことなのだから当たり前だろうけど。

「色々と苦難があって、ようやく式を挙げた。その時の祝電披露でその時の同僚のセリフが胸にしみて、今があるんだと思うんだ」

 

『ご結婚、心よりお喜び申し上げます。田中太郎なんてまるでお手本のような名前で、そのくせ格好の良いアンバランスな同僚だと思っていました。まぁ、私は肩苦しいことが苦手なのですこしだけ、あなたに言いたいことがあったのでこの祝電を通して伝えたいと思います。

 あなたは教師になるべきだ。教師と生徒の恋愛なんて禁忌に等しい。けれどもあなたはそれを達成することができた。愛は素晴らしいものだ。けれども時には恐ろしいものにも感じる。人の成長過程を大きく左右する学生時代。それには恋愛は付き物だ。あなたにそれを子供たちに教えてあげてほしい。成績なんかが煩い時代だが、人の大切な感情を教えてあげてほしい。

 いつか、また居酒屋に行きましょう』


「泣いてたよ、その時の私は。それから私は教員免許を取り、教師になった。非常勤講師をやってただけあって一度、ギリギリ人に教えられる資格を持ってたんだけど、ちゃんとした高校教師になるためにとったんだよ。まさか、生徒じゃなくて教師にこんな恋愛について言うのは初めてだよ。この話もね」 

 道理で重みのある話だ。

「生徒と教師。割とどうにかなってしまうモノなんだよ。それより前の段階で、自分の気持ちに素直になることから始めなさい。オヤジ、会計」

「あいよ」

「そろそろいかないと妻が怖いんで。それじゃ、また明日大原先生」

 言うだけ言って帰ってったな、田中先生。

 素直になる………か、


 でも、多賀。男じゃないか……。


 あーもう、性別なんて考えてられるか!

 俺はあいつが好きになっちまった。それだけで十分だ。

 

 夏休み前には林間学校もある。そこが勝負なのかもしれない。

 思いを伝えて、成就させたい。

 もしかしてこれは初恋なのか?

 

 そんな気持ちを胸におでんの屋台を出た。


……やってモータ。


反省はしているが後悔はしていない。

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