story6
町外れの公園。夕日が沈んでいきそうな時間帯になっていた。
……お互い無言でベンチに座っていた。
6時を告げる鐘がなり、懐かしさを覚える。
「……明日香、であってるよな。問答無用で連れてきちまったけど」
「大丈夫、悠馬であってるんだよね?」
「嗚呼」
そして再び無言になり、その時間がどれくらい経ったかがわからないほど、無言で目を合わせてた。
座ったベンチも小さな机を挟んで向かい合って座っている。
ゆっくりと悠馬の口が動いた。
「本当に悪かった!」
それは謝罪の言葉で、何を言っているのか分からなかった。
「あの時、俺が馬鹿みたいに意地になったせいで意識不明の重体にさせちまって……」
あの町で起こった大きな災害。その時、私と悠馬はケンカをしていた。
浜井先生に誕生日にもらった髪留めのリボンを隠されたことが原因だった。
そのショックで私は部屋に籠ってた。
一時間当たり160mm以上の豪雨でだんだんと教会の部屋も浸水し始めた。
そんな中、悠馬が部屋を飛び出だしていったというのをドア越しに聞いた。
その時思った。多分あのリボンを探しに行ったんだ、と。
急いで私も悠馬を探しに部屋を飛び出した。
教会の近くに川があり、そこの付近は川か道路なのか分からないほど雨は凄かった。
そのあたりで悠馬を見つけた。大声で「危ないから早く戻ってきて」と言っても大雨の音でかき消されてしまっていた。
声が届かないのなら直接。と思い、急いで悠馬に向かって行った。
けれども脛のあたりまで水があり、ものすごく動きずらかった。
あともう少し。近所のおじさんの声がその時聞こえた気がした。「危ないからこっちに来なさい!」って。
その時に悠馬と、私のリボンが見えた。ちょうど枝にひかっかていて悠馬はそれに手を伸ばすけど、足を滑らせて流されそうになる。
すぐに私は手を伸ばしてひぱった。
その時、近所のおじさんもすぐ近くに来ていて、その手を掴んで、悠馬もどうにかおじさんの手を掴んだ。
それで、すぐに私は悠馬と口げんか。
その時に手が出て、私が押され、捕まえていたおじさんの手が滑って、体制が立て直せず、流されてしまった。
その後は、先生に聞いたところ、奇跡的に流されていた木の 上にのっかていて、背中が切れてしまったものの、どうにか助かったらしい。
それが、悠馬には心の重荷になってたのだろう。
「気にしないで……って言うのも無理か。もう5年も前の話だし、今私がこうして生きているのだから問題は無し」
「へっ?」
「私が結構大ざっぱなのはわかってるでしょう。私のことは気にしたら負け。これで終了。オッケー?」
私個人的にはそんなことまるで気にしてない。
まぁ、そよかぜ園の事しか基本頭になかったし。
「ちょっと待て、それじゃあ俺はどうすればいいんだよ!」
「普通に生活して、青春を謳歌すれば良いと思う」
「俺には何の罰もねえじゃねえかよ!俺が大けがさせたようなもんなんだろが!なんで責めないんだよ!こんな俺に対して楽しめなんてふざけるなよ!」
確かに本人的には糾弾でもしてもらった方が楽なのかもしれない。
私は殆ど気にしてないし、むしろそんなことがあったからこそ今の生活がある。
強いて言うなら、
「私のことでぐちぐちと無駄にしてきた時間。それが私からの罰って言っておく」
「なんで、なんでそんな事が平然と言えるんだよ、俺はお前を殺しかけたんだぞ」
「けれども私は今ここで生きている。5年前から今まで困ったことは特になし。割と幸せに生きているんだよ私は。つまり、何にも私のことで気に病む必要は無いんだよ。そんなことを気にして生きて行かれる方がよっぽど迷惑だよ」
そう、私の事なんかで一生を無駄にするより、普通の生活をしてもらいたい。
こいつは攻略対象だ。
ストーリーでも自分の過去のことを引きずっていって最終的には和解して、主人公とくっついてる。
今がかなり時期は早いけど和解の時なんだ。
「と、言うことでこれで和解、終了だよね。強引だけど個人的にはこれでいいと思ってる」
「けど、」
「けどじゃない。あなたは私に許してもらいたかった。それだけでしょう。それにこれで会えなくなるわけじゃないんだからさ」
「………」
「ゴールデンウィーク明けに学校で。私はそろそろ家に帰らないといけないから」
どうせ席が隣なんだからすぐに会えるだろう。こいつは二日も待てないのか?
「…………………………ちょっと待ってくれ、さっきなんて言った?」
「家に帰らないと」
「その前」
「ゴールデンウィーク明けに学校で」
「…………はぁ!?お前、て、ててって転校してくるのか!?」
「いや、席隣でしょう。ついでに言えば寮の部屋も」
バカにするような口調で言うと悠馬は硬直する。
いや、どこに硬直する要素があった?
「ま、っまままままままっままままままっま、まさか多賀なのか?」
「私が多賀明日香だけど何か問題でもあるのかな?越後江悠馬君」
「なんで俺にあった時にノーリアクションだったんだ?」
「いや、苗字違うし5年あってないとやたらと格好良くなってるから気が付かなかった。そもそも初めて悠馬が養子に入ったって浜名先生から聞いたし」
「………お前、趣味悪いぞ」
「何で玲奈ちゃんと同じことを言うかな……」
そよかぜ園の人は大抵そう言う。
いや、ごく普通の趣味のはず。
「………まさか紅王学園に玲奈がいるのか?」
「え、一年に居るけど」
なんか、悠馬がもうなんも言わねえぞって感じの顔をしている。
そこで電話なってがあって、
『明日香さん、遅いけど何かあったの?』
腕時計で時間を確認すると6時59分。
いつも6時30分ごろにご飯食べるのが当たり前だったからたぶんそれで心配しているんだと思う。
「いや、ちょっとクラスメートにばったり会ったから話をしてただけ」
『…もしかして、男の子?』
「そうだけど」
『お義母さんに紹介しなさい。すぐに、迅速に、早急に!』
「いや、孤児院で一緒に暮らしてた幼馴染なんだけど……」
『……夕食に招待しなさい。もうすぐ武君も帰ってくるから』
……なんかすごく面倒なことが起りそう。
軽く電話越しに笑ってるのが聞こえるもの。
「一応、本人に確認取ってみる。悠馬、夕食の予定何かある?」
「いや、特にない。一応そよかぜ園に顔だしてどっかで食って帰る予定だっただけど」
『あらあら、名前で呼んでるなんて仲がいいのね』
「だから、十年とかその単位の付き合いなんだからそれくらい普通だと思うんだけど。はぁ、悠馬よかったら家に夕食を食べに来ない?お義母さんがうるさいから」
『うるさくて悪かったわね』
「あ、ああ、大丈夫だ」
「ってことで、これから帰ります」
『わかったわ。そろそろ武も部活終わると思うから早めに帰ってくるように連絡入れておいて』
「分かった。それじゃ家で」
そう言って電話を切る。
何かすごく含みがあった気がするのは気のせいだろうか?
「バスに乗ることになるけど大丈夫?」
「大丈夫だ。なんで急に夕食に?」
「お義母さんに呼べって言われて。急に迷惑な話ぶつけてごめんね。家帰ったら母さんに勘違いされないようにちゃんと特別な関係は何一つないって言っておくから」
「勘違い?」
「いや、悠馬も年頃の男子だし、気になる子の一人や二人いるでしょう。それで勘違いされたら申し訳ないから」
「……はぁ」
何かすごい勢いで落ち込んでる。
普通の対応取ったはずなんだけど。
どこで間違えたんだろ。
あ、武に連絡入れないと。
携帯のアドレス表には植木と家族の電話番号ぐらいしか入っていないのですぐに連絡先をすぐに選択できる。
一応これで携帯電話は2代目で昔はガラケーを使ってたものだからスマートフォンが使いずらい。
ちなみに初代はお義父さんが、すぐに連絡が取れるようにと中学の入学式に持たされた。
家から学校がそれなりに遠かったのが理由だろう。
『もしもし、明日香から連絡なんて珍しいな』
「あ、武は今大丈夫?」
『問題はない。それで何の用だ?』
「お義母さんが早く帰ってくるように伝えろって」
『いったい何があったんだろうな……』
「多分、私がクラスメート夕食に呼ぶからだと思う」
『念のため聞いておくが女だよな?男じゃないよな?』
「え、男子d『その男に首を洗って待っていろと伝えておけ』……武、一応私の幼馴染だから乱暴なことはやめてね」
『……幼馴染とな?』
「まぁ、十年来の付き合いで……」
『監督!急用で来たんで帰ります!』
そう言って電話が切れた。
……練習はちゃんとやろうよ、エース。
さぁ、帰ろう。と声をかけようとしたら、すごい勢いで頭を抱えていた。
「どうしたの?悠馬」
「さっきの電話相手って彼氏?」
「いや、ただの義理の兄。取りあえず、首を洗って待ってろだって」
……なぜ義兄は突然そんなことを言いだしたのだろうか。
悠馬は悠馬でブツブツと何かを呟いてるし。
この後、家で修羅場が起きた。
後半、まさかのシスコン暴走!
家での修羅場騒動は後程。