story1
いやー、ノリで書いてたら割と長くなってた。
多賀夫妻は渋々了承してくれたが、それに一つ条件を付けてきた。
「高等学校卒業まで、必ず成績1位でいること。それが出来なくなったらこちらの言うことを聞いてもらう」
だった。
多賀夫妻の養子となって早五年目の春。
私は、中学、高校共に私立の学校に進学した。
もちろん常に一位を死守した。
前世の学力があるからとはいえ、私立と言うべきかレベルが高く、少しでも気をぬけば必ず順位は落ちそうになった。
それを思い知らされたのが高等学校の入学直後のテストだった。
点数が2位と1点差。
これは危機を覚えた。その後は全力で勉強をし、ガリ勉の癖に美形と言われるようになった。
女子なのに何故美形?かと言われれば、男子の制服を着ていることに理由がある。
学力には一切の妥協はしないが、女と言うだけで社会的には不利になっていくので、男と偽らせてもらっている。
中1から続けている事なので何の苦労もない。さらに言えば前世と意識は男なんだ。多賀明日香の体はそれなりに発育がよく、年々サラシの量を増やさなければいけないことが悩みである。腰には括れができ、女らしい体を隠すのがいっぱいいっぱいだ。そのために厚い服装や、口調などを注意する必要があった。声が少し変わって低くなってよかった。
前世は二十歳で有名企業の支部長を任せられるくらいは優秀だった。
それだから何とか学力を継続することができるのだ。
自分でした約束は絶対に守り抜く所存だ。
「それでは椎名さん、越後江君入ってきてください」
はい、と短い声で男女の声が聞こえる。
黒髪ロングの美少女と、黒髪短髪で目つきが鋭いのが特徴の背の大きい美男、それとこの学園には似合わないケバケバしい女子だった。
椎名梓と越後江悠馬+α。
主人公と攻略キャラと謎の人物だった。
○○○○○○○○○○○○○○○
「恋舞う季節の中心で」
携帯用ゲーム機で発売された人気ゲーム。
人外率が非常に高く、吸血鬼(Vampire)狼(Wolf )さらには銀狐(Silber Fuchs)など色々な種族がいる。
そんな人外率の高い、私立紅王学園に一人の少女が転入してきた。彼女は純潔の人であり、彼女との子は強き『呪詛』を持ち生まれ、外界の主になることができると言われている。
そんな彼女を巡った学園ラブストーリー。
前世で3つ下の妹に「無趣味はどうかと思うよ?」と言われ、ゲームを勧められた
。単純な思考がなす結果なのか私はすっかりとその世界にのめりこんでいった。
ちゃんと仕事はしていたが。
そして自分の記憶でプレイしたことのあるもっとも新しい作品が「恋舞う季節の中心で」だ。
この作品の純愛性にハマった。
女子向けのゲームとあってかシュチュエーションとかどこか現実味のないものなのに引き寄せられていく人気作品だった。
とにかく、目の前にはその登場人物がいる訳である。
それでも……謎の人物、ちょっとケバケバしくないか?
メイクをがっつりやってますさらにつけまつげは当たり前、みたいな格好でせっかくの髪が色々と傷んでいた。ポッチャリ体系が入っていて、しかも背が低い。
……残念すぎる。これが噂の逆ハー狙いのトリッパーって奴なのか。
「えっとぉ、松原梨乃ですぅ。転入してきたばっかりでぇ何もわかりませんがぁ皆さんにぃ色々とぉ教えてもらいたいと思いますぅ」
…ギャルかっ!
いけない。無駄にツッコミを入れそうになってしまった。
あー。つくづく自分は攻略対象じゃない女でよかったとこの時ばかりは思った。
それにしても撫で声はないよ、撫で声は。
「越後江悠馬です。この高校は親の母校と言うことと、親の転勤の都合でこの学校に転入してきました。よろしくお願いします」
こっちはごく普通に攻略対象で何一つ変わって……あ、謎の人物もとい、松原を見る目が汚物を見る様なものになっている。
「椎名梓です。私は家系の関係で公立高校から転入してきました。よろしくお願いします」
主人公……さすがです。
すごく可愛いです。思わず同性でも百合百合な展開に入れると思えるほどだ。
身長は松原より8センチほど高そうな感じで少し凛とした空気を放っている。
黒髪のロングで枝毛とか気にならなそうな髪で非常におしとやかな雰囲気もある。
クラスの男子もそこそこの人数がやられている。
そして担任が3人を各席を指定し座らせた。
私の左側に椎名さんが座り、右隣に越後江が。松原は……中心の最前列。
「ちょっと、せんせぇなんでゎたしの席は越後江君とぉ離れた一番前なんですかぁ?」
正確な席の位置と言えば、椎名が窓際の一番後ろの席。その隣が私で、真ん中の列の一番後ろが越後江。
「あ?たまたま春休み中に実家の用事で退学した奴の席がそこだったんだから仕方ねえのかだろ」
と言うのがダルダルのスーツを着て欠伸を連発する風紀委員の顧問兼2-Aの担任教師の大原真坂。攻略対象だ。捕捉で言えば狼男。
「まー俺の顔が近くで見れると思って納得しとけ」
「はぁい」
そう言ってなんだか気持ちの悪い笑みを浮かべる松原。
すごくうぜぇ。今世紀最大のウザさ。
何なんだよその凄い撫で声。気持ち悪い。ものすごく。
そんなことと裏腹に、時間は進んでいった。
「えー、越後江と椎名。それと松原隣の奴に教科書見せてもらいなさい」
と言うことで、私は椎名さんに教科書を見せることに。
「椎名さん机の高さ違うから椎名さんの机に置かせてもらってもいいかな?」
「はい、大丈夫です。えっと」
「自己紹介がまだだったね。多賀明日香って言います。女の子みたいな名前だからって苛めないでね?」
「私は椎名梓です。よろしくおねがいします」
……すごく自然に回避された。
おかしいな。ユーモアを取り込んでみたんだけれども。
それでもスル―は痛い。
現国の授業は進んでいった。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
放課後になって寮の自室の隣の部屋のドアの前でダンボールを抱えて立っている奴がいた。
お隣さんへの引っ越しか……
「越後江君、どうしたの?」
「嗚呼、確か隣の席の奴か。ここの部屋のルームメイトを待っていてな」
「あ、ごめん。今開けるからちょっと待っててくれる?」
急いで部屋を開ける。
「702号室であってる?」
「寮母さんからはそう言われた」
「それじゃ、植木はそのうち帰ってくると思うから鍵よろしく」
そう言ってカギを越後江に投げて隣の701号室に入ろうとするが、
「待て待て待て、なんでお前が隣の部屋のカギを持ってるんだ?」
「その部屋の植木が私の部屋に夕飯を食べに来て、いったん自分の部屋で寝て朝飯まで食って行くからほとんどその部屋は使われてないも同然で私に鍵が渡されてるんだ。俺の部屋も使っていいよ、って」
「そうゆうことは結構埃がたまってたりするのか?」
「週に一回は掃除機かけたりしてるから、それは無いと思うんだけど……」
「―――お前は恋人か!?」
「初めて聞く人は大抵そう言うけど、どちらかと言えばだらしのない息子に世話を焼く親みたいなもんだよ。そうだ、よかったら越後江君も今日夕食を食べにくるかい?」
と言っても洗濯物を洗って干したり、朝食と夕食を集られ、と言うより食材を買ってきてもらってるから調理してるだけだな。
「いや、俺はいいや。寮の食堂を……」
「分かった。それじゃまた明日」
「ああ」
「今日はカレーでいいんだよな?」
「そうだね、植木のリクエストだからちゃんと作るさ」
「嗚呼、俺のルームメイトひぱって来た」
「よろしくお願いします」
植木大地。身長約180前半。気前がよく、同級、後輩、先輩など顔が広く、この校内に基本的に彼を嫌っている奴はほとんどゼロに近いだろう。
成績は良いと胸を張って言えるレベルではなく、家事が壊滅的。基本的に社会に出て大事な人間性の優れている奴だ。
「3ヵ月に一度食堂がやってないなんて初めて知った」
「私は基本食堂は使わないから今日だとは知らなかったよ」
なんでも今日は3カ月に一度の食堂がやってない日らしい。
そういえば学校が始まって一番最初にあった3カ月に一度の定休日の存在を知らず、玄関前で倒れているのを発見して夕食を誘ったのが始まりだったか。
「運がなかったと思って、大人しくしてください」
この無駄な丁寧口調は自然と着いたもので、今のご時世男が敬語で私と言っても違和感のない時代だからよかった。
『私』と言う一人印象は義母の多賀麻耶さんに強制された。
リクエストで今朝作ったカレーを温め、炊いておいたお米をお皿によそってその上にカレーのルーをかける。
ちょっと表面に生クリームを足してなんちゃって英国風カレー。
植木はどうもからすぎるものが苦手なようなのでマイルドに、と言うか少し辛さを感じるような感じで作っている。
「植木、手伝って」
「あいよ」
あらかじめ簡単な感じでサラダを作っておいたのでそれを渡す。
お盆の上にカレーとスプーンそれと水を乗せてリビングのテーブルに並べていく。
この寮の部屋は一つ一つがいい感じに広く、基本2人一組で部屋を使うのが一般的だ。
けれども成績優秀者には一人部屋を与えられる。
まぁ、植木が入り浸ってる時点で意味がないのだが。
「ほれ、越後江。味の保証は俺がするから食っておけ」
「人を味覚異常者みたいに言うな。嗚呼、ごめんねこのカレーいらなかったら捨ててくるk「申し訳ございませんでした明日香様」よろしい」
バカにしたのでカレーを没収してやろうと思ったのだが、許してやることにした。
「……明日香って言うのかお前」
「そうだよ。多賀明日香。女みたいな口調と名前たからって苛めないでね?」
「いやちょっと知り合いと同じ名前だから驚いただけだ」
……またスルーなのか。
ちょっと心が、
「安心しろ。そこら辺の女子よりはよっぽど女子っぽいから」
「植木―もう大好き、愛してる!」
隣に座ってる植木に抱きつく。ラグビーの選手だけあって筋肉がすごい。
いつもこいつはちゃんとボケを拾ってくれる。
ありがとう親友!
「――こいつが女だったら押倒してるぞ俺」
「……料理旨くて、家事ができてて顔も女顔なのになんで男なんでしょうね」
「おーい本人の前で失礼じゃない?」
「言われたくなかったらちゃんとしっかり飯を食え」
「無理。そんなに食べられない」
私は割と小食である。
前世は牛丼大盛り食べても他のモノ食べたれたんだけどな……今はせいぜい並が限界だ。
「ごちそうさん。んじゃ、部屋にいるから後よろしく」
「夜食はプリンでいい?」
「おー、10時ごろ頼む。洗濯物いつものとこ置いてあるから」
「分かった」
そして奴は自分の部屋に行った。
「越後江君はたりた?」
「あ、おう。十分足りた。それと美味しかった」
「お粗末様。一応越後江君の分も持っていくけど植木に食べられないように気を付けてね。食い意地すごいから」
一応忠告を入れておく。
「ありがとな」
「いえいえ。あ、基本植木とか勝手に出入りしてるからいいけど10時半からは絶対に入ってこないでくれるかな。睡眠妨害されるのが一番イラつくから」
と笑顔で脅迫。
「わ、わかったからその笑顔をやめてくれ」
伝わったようなので良しとしよう。
○○○○○○○○○○○○○○○
「ふぅ……」
現在の時刻10時45分。
寮の部屋に完備されてる浴槽で足を延ばしてくつろぐ。
長く、腰まで伸びた赤みがかった黒髪は頭の上へタオルなどを利用してどかしてある。
一日で一番癒される時間だ。
もうこの体で5年が過ぎようとしている。そのせいかこの体はもう普通に見慣れた。
改めてみると、肌は無駄に白く、シミひとつない。手足はすっとしていて胴より普通に足が長い。昔は絶壁だったのがすでにCだ(何がとは言わないが)
顔もそれなりに整っていて親が判らないので正確なことは分からないが目が瞳が赤い。そのせいで昔虐められていた。
シミはないがちょっと大きめの傷が背中にある。川の事故で大きな木が背中に当たって出血したからだ。左肩から右わき腹まである傷だ。
この傷があるから、あのそよかぜ園のことをしっかりと思い出せる。
嫌な事故の時のことも思い出すが。
一回大きく息を吐いてまた吸う。軽く頬を叩いて気持ちをリセットする。
それから風呂から出て体を拭いて髪を乾かす。髪が長いのはどうしても母が許してくれなかったからだ。一回、肩にかかるぐらいに勝手に切ったのだが、もう大激怒して、泣いた。それもう勘弁なので髪は伸ばしている。
そのせいでウイッグをかぶっているのだが。
乾いた髪を先日母からもらったシュシュで縛って寝た。
明日から面倒なことが起きると知らずに。