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story9

うぅぅ、アイデアがキレてきた……



「……暑い」

 現在、平日夕方。エアコンも扇風機もない旧茶道室で力尽きております。

 6月下旬、元々暑さに弱く、服装も面倒なことに厚着で死にそうです。

 ……簾、どこにあったけ……

「あった、けどダメになってる」

 この旧茶道室には昔ながらの簾がある。

 日光を遮ってくれるあれだ。

 けれどもその隙間から漏れる明かりがどこか行ったことのないお婆ちゃん家を連想させる。後で買っておかないと。

 わざわざ此処に来なくても寮の部屋ならここに来なくてはいけなかったのは、浜井に相談を受けたから。

 本来なら部屋、もしくは図書館で勉強をしている時間帯だ。お義母さんから、一位を取らなくても別に問題がある訳でもない宣言を食らっているのだが、

 時間指定から50分も遅れている。

 いくら通気性の良いウイッグでもこれは流石にキツイ。

 …まだか。

「すみません遅れました!これアイスできゅぁぁぁぁぁ!?」

 生きよいよく入ってきたと思ったら、盛大にこけた。

 そして、彼女が持って来たアイスと思しきモノは溶けて来ており、

 『ベチャッ』と言う効果音と共に頭に落ちる。

 私の頭に。そしてこれはソフトクリームだったからなのかコーンが滑って床に落ちる。顔から白い液体が滑ってくる。溶けたアイスだ。何かベトベトしていて嫌になる。

 ……何と言うか、お約束と言うか、あれだね。

「玲奈」

「は、はいなんでしょうか先輩!」

「私が着替えてくるまで遅れた言い訳を考える時間をあげる」

「……先輩、笑顔が怖いです」

「それはどうでもいいから、返事は?」

「わ、わかりました不肖、浜井玲奈しっかりと考えておきます!」

「よろしい」

 そう言って、この旧茶道室唯一の水道のある部屋に入る。ウイッグを外して洗い、自分の地毛も結構汚れていることに気付き、同時にもう一つ気づく。

 ……タオル、更衣室だ。

 この部屋と更衣室がつながっていたのが唯一の幸いだった。

 鞄からタオルをだし、制服のズボンのベルトにひっかけておいて髪と顔を洗う。あー制服もベタベタしてきた。ジャージに着替えよう。

 さすがにシャンプーとかは無いが、我慢する。

 髪が長いと本当に洗うのが大変で困る。文句を言っても仕方がないのでさっさと済ませる。

 今日、体育があったわけではないが、もしも忘れてしまった時のためようにここに置いておいた。……ジャージの上着、注文間違えてデカい奴にしちゃったんだよね……。

 はっきり言って軽く物置代わりにしてることがあったりする。

 制服を脱ぎ、サラシも当然ダメになってしまっていたので、外す。

 さすがにサラシの予備はなかったのであきらめる。

 着替えた結果。

 ジャージの短パンを着ているのだが、上着がデカすぎてちょっと来ているのがジャージ一枚だけですよ?って感じになっている。

 ジャージの注文が春休み前にあったんだけど、その時に植木に俺の分も頼むと任され、うっかり自分の上着を植木と同じサイズにしてしまっていたのを届いてから気が付いた。

 全校生徒がそれなりに居るからかジャージに名前の刺繍が入っているので返品するにもできず、ここに置いてあったのだ。

 髪は鞄の中にゴムがあったのでそれを使ってポニーテール。

 乾いていなかったので少しは服から話そうと思った結果がこれ。

「言い訳、思いついた?」

「……い、いえ―――――せせせせ、先輩、多賀先輩ですよね?」

「そうだけど。どこか変?」

「へ、変ですよ!なんですかその裸にYシャツ方式みたいな裸にジャージ状態!……あれ?先輩胸がありますけど詰め物ですか?髪も長いし……はっ、まさか先輩の双子の妹さんと入れ替わったとか!」

 まぁ、人間髪型が変われば驚くよな。

 ってなんでこのは私が女であることの前に服装に突込みを入れたんだ!?何か色々とおかしいと思うのは私だけ!?

「違う、違う。説明遅れたけど一応言っておく。私の下の名前覚えてる?」

「多賀、明日香先輩ですよね?」

 ……気づかないのかこの子は。 

「はぁ、瑞希に最近連絡入れた?」

「いいえ、入れてませんが……あれ?」

「この学校に悠馬が転校してきたの知ってた?」

「…………………………まさか、ですけど明日香お姉ちゃん?」

「瑞希と同じくらい反応が遅いとか泣くよ?」

 よよよ、とオーバーリアクション。

 ちゃんと床で女の子座りみたいに足を崩して。

「あわわわわ、お姉ちゃん、やめて!」

 仕方ない、やめるか。

 そこまで慌てられると逆にこっちが困r、


「生足がすごく綺麗で目の毒だから!」


 ツルッ、思わずバランスを崩して再び座ってしまう。

 危なかった、すぐ近くでアイスのコーンが落ちててまた汚れるとこだった。

 お姉ちゃん、どこでこの子の教育間違えたんだろう。

 あんなに純粋な子だったのに……だましてしまったツケなのかしら……。

「はぁ。ま、それは良いとして、相談って?」

「え、あ、そうだった」

 ……忘れてたの?

「えっと、ね…」

 結果。ザックリ言えば今度は副会長がやらかした。

 玲奈的には言葉を濁したんだけど、『キスマーク的なものを付けられた』とか、『お前は、俺のものだ』と、やたら甘くてカッコいい声でささやかれたそうだ。おかげで混乱レベルマックスの模様。

「ねえ、一つ聞いてもいい?」

「な、何?」

「副会長って吸血鬼なの?」

 ……………何時ぞやの生徒会室のように時が止まった。

 まぁ、なんでこんなことを確認したかと言えば、この子が前世の記憶持ちかを確認するため。

 言わずとも結果は日頃の行動で分かっている。

 茶道室でお茶を飲んでて、茶菓子を取りに一度、部屋に戻ってからまた行くと一人でブツブツと喋ってることがあった。

 耳を澄ませば、イベント、なんで私が…、何でうっかりあの時間に、とか言っていた。

 昔っから考え事をしているとブツブツと何かを言う癖があったのでそのこともあったのかな…

 後、四月の後半ごろ、変態鬼畜吸血鬼とかもろに声に出してたし。

「な、ななな何にかなお姉ちゃん?」

 おーい、喋り方が昔に戻ってるよー。

「イベントって何かな?」

「……どこでそのことを?」

「いや、普通に口に出してたけど」

「へ?」

 完全呆気を取られたような様子で私を見る。

「ブツブツといつも何かしら言ってたけど?『乙女ゲー』とか。私は非常に興味津々です」

「………白状する。口外に出せば殺されるよ?」

 と言って喋り始めようとしたが、

「大丈夫だよ、なんとなくその手の小説は読んだことあるから予想はつくし」

 まぁ、前世で妹にR指定の作品を読破しろと渡されたことや、これお奨めとご丁寧に2次作品のサイトのURLをメールに添付して送ってきたこともあった。

 松原の行動がその中の敵キャラ的なものによく似てたから逆ハー狙いってやつかなって思ったりした。

「……意外です。その手の世界に手を染めてたとか」

「前世の妹に洗脳されてしまった可哀想な社会人だったものだからね」

「はひゅ?…前世?まさか、知ってて私をからかったの!?」

「ごめん、ごめん。顔の変化が面白くてつい妹で遊んじゃった」

「無邪気に言わないでください、すごく可愛いので!」

 ………やっぱこの子ズレてるよ……。

「それで、そのことを知っているのにどうして私に相談したのかな?」

「……自分の気持ちがいまいち分からなくて」

「くっついちゃえば?」

 割と即答で答える。

 私自身が関係することではないので割とあっさり答えを出す。

 相談内容的に多分、この子は逆ハーを回避しようと努力してなってしまうパターンなのだと思う。その手の話ってhappyが多いと思う。

「……ずいぶんとあっさりですね」

「ま、いざとなったら同じ境遇みたいなものだから助けるよ。精神面ぐらいしか助けられないけど」

「……」

「恋なんて自分自身の中で決まるモノで、他人はあくまでサポーター。答えはあなた自身が決めること。それに、これは一つの現実。あくまでゲームに沿ってるだけ。イレギュラーが出た時点でそれは別の話になっている。自由に生きちゃいなよ、後輩」

 ズキッ、自分で言った言葉で自分を否定してる。

 これは正しい事なんだと思う。

 自分はあくまでこの子に引っ張られて、今ここにいる。

 そよかぜ園を大切にするだけ、彼女の記憶を守るだけ、あくまでそれだけが私に許された範囲の事なんだ。

「……うん。考えたいことあるから部屋に戻るね」

「行ってらっしゃい」

 私の思考を遮るように玲奈が言った。

 それに対して私はそれしか言えなかった。

 玲奈がいなくなってしばらく、畳の上に体を転がしていた。

 ………本当俺は何のために彼女に引っ張られたのだろう

 気づけば涙が流れていた。




 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○




 もうすっかり夕日は沈んでおり、時刻は7時49分。

 植木に殺される。

 連絡を入れようとケータイを開けると、着信履歴58件。

 植木と悠馬だ。

 心配してるのかもしれない。連絡入れないと。

 呼び出しを使用を思ったら声をかけられた。

「そこの女子生徒!み、みみみ淫らな格好でうろついているな!」

 と、言われたので後ろを振り返れば、風紀委員会委員長の多賀芳紀たが ほうき攻略対象で人外を恨んでいる美青年だ。理事長の一人息子で第3学年。

 それなりに成績とルックスが良い。ムッツリである。

 苗字の通り親戚。

 一応、従兄弟。名前だけ聞いたことがあるが会うのは初めてだ。

「上着のサイズがデカすぎてそう見えるだけで短パンをはいています」

「……ま、紛らわしい。それにしても見かけない顔だな学年、クラスは?」

「2年A組、多賀明日香。これでも先輩の従兄妹に当たります」

「あの学年一位の多賀か、いや確か男のはずでは?」

「伯父様に確認を取られればわかると思いますが、それなりの目的があったので学園では殿方の様な装いをさせていただいております」

 敬語。先輩にあたるから当たり前だし、自分よりよっぽど各上の人物なのだ。

「それでこんな時間までどうしたんだ君は。それとその服装の理由を」

 この学園では登下校時では必ず制服着用が校則で決まっている。

「この時間までいたのは少々考え事を。このような服装でいたのは仲の良い後輩がこけて、その拍子に手を離してしまい、頭にアイスクリームが落ち、その際に制服も汚れてしまったのでこのような服装を取らせていただいています。

 これは校則違反だと分かっていますが今は少々急いでいます。明日、反省文を提出と言う形で見逃していただけませんでしょうか」

「い、いや、正当な理由があるのなら構わない。邪魔をして悪かった」

「こちらこそ、紛らわしい様な服装をしていて申し訳ございませんでした。失礼させていただきます」

 そう言って駆け足で寮へ走った。

とうとう、次回は植木&越後江タイム。


……風紀委員の顧問が狼男。

何か色々と失敗してる……

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