可愛いよ?
「いいか?お前は俺から見たらただの女だ。そんな状態でほっとけるわけないだろ!?」
あまりに真剣な優舞に郁奈はついに心が折れた。
「それでも、気にしてない振りしないと・・・・・・」
自然と溢れる涙を郁奈は必死に拭った。
「あいつらに負けたみたいで、悔しいじゃない」
女を捨てた自分が女のように泣く事は死ぬほど嫌だった。
「河合、お前どんだけ意地っ張りなんだよ」
呆れながらも優舞は優しく郁奈の頭を包んだ。
「・・・・・・ごめん。もう平気」
ようやく涙が止まり、郁奈は罰の悪そうに顔を上げた。
「なぁ、河合。今からでも遅くないから可愛いくなれよ」
「エッ?い、いいよ、別に・・・」
「大丈夫。河合は可愛いよ?だから自信持て!」
初めて可愛いと言われた郁奈は恥ずかしさのあまり顔を赤くした。
「な、何言ってんの。こんな私が可愛いわけないでしょ!!」
取り乱す郁奈の初々しさに優舞は思わずドキッとした。
「いや、本当だって。俺も協力するし・・・」
「まあ。そこまで言うならやってもいいけど?」
男でありながら完璧に女装する優舞を知る郁奈は渋々承諾した。
「じゃあちょっと待っててすぐ戻る」
優舞は郁奈を残し教室へと戻っていった。
するとタイミングよく授業開始の鐘が鳴った。
「あーあ。どうすんだろ?」
しばらく様子をみていると優舞は鞄を持って戻って来た。
「あれ?授業いいの?」
「別にいいよ。それより顔貸して!」
強引に顔を向けさせると優舞は手際よく化粧を施した。
「ん。なんかすごい違和感があんだけど・・・・・・」
「あとはこれ被って!!」
カツラを被せた優舞を思わず郁奈を凝視した。
「何?変って言いたいの?」
「いや。思ってたよりずっと可愛い」
真顔で呟く優舞に郁奈は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「お、お世辞ゆったって嬉しくない。もう戻る!!」
居た堪れずに教室に戻ると郁奈は注目の的となった。
「ん?授業中だぞ?」
「はい、すいません。保健室から戻りました」
その言葉に教室中が騒然となった。
「お前河合か!?」
驚く教師にクラス中も声にならない様子だった。
「えっ?えぇ、そうですけど・・・」
郁奈は何がどうなっているのかさっぱりわからないままだった。
「そ、そうか。じゃあ早く席につけ」
「あっ!それと時任くん保健室にいます」
「わ、わかった」
狼狽える教師に首を傾げ郁奈は席についた。
「何?なんでみんなこっちみてんの?」
いまだに注がれる視線に郁奈は教科書を立て机に顔を伏せた。
わけがわからないまま授業が終わり郁奈はどっと疲れを感じた。
「ちょっとあんた。その格好どうゆうつもり!?」
怒り狂う女子生徒に郁奈は困惑した。
「えっ?何が?」
「女捨てた分際でなんでメイクなんかしてるのかって言ってんの!!」
「・・・あぁ。それは今休業中だから?」
「ふざけた事言って。まぁ、でも見た目変わっただけで中身がそのままじゃ意味なかったわね」
嬉しそうに笑顔を浮かべる女子生徒に郁奈は返す言葉もなかった。
そこに戻って来た優舞が顔を出した。
「河合。ちゃんと鏡みたか?」
「えっ!?い、いや?」
「ならみてこいよ。ビックリするぞ?」
優舞に促され郁奈は女子トイレに向かった。
広い鏡の前に立ち郁奈は驚愕した。
「なんだこれっ!?」
目の前に映る自分の姿に郁奈は慌てた。
自分とは違う可愛い女の子を前に郁奈は放心状態となった。
「こ、こんな格好似合わないだろ!?」
取り乱した様子で戻って来る郁奈に優舞は優しい笑顔を向けた。
「どこが?すごい似合ってると思うけど?」
優舞の言葉に少ないながらも男子が頷いた。
「あ、あほか!こんなの私じゃない!!」
羞恥に震える郁奈は顔を真っ赤にさせ怒鳴った。
「いや、それも河合だよ。女の子になった河合の姿だ」
「っ!!」
恥ずかしさのあまりに郁奈は消えてしまいたかった。
「こんなのただ辱められてるだけじゃん!」
郁奈には虐められるより辛い仕打ちだった。
外見だけ変わってもやはり郁奈は女には戻れなかった。
「落としてくる・・・」
「逃げんの?」
「あんたに私の何がわかるって言うのよ!もうほっといて!!」
その後郁奈は教室に戻ってくる事はなかった。
「・・・・・・」
授業が終わた後も優舞は一人教室に残り隣の席を見つめた。
残された鞄を眺め優舞は溜息をついた。
「戻って来ないな・・・・・・」
落ち込んでいると教室のドアが開かれた。
「!!」
「なんだ、時任。まだ残ってたのか?早く帰んなさい」
「先生!あの、河合みませんでした?」
「いや?みてないけど。確か河合途中で帰ったんじゃなかったか?」
「・・・そうでした。すみません、帰ります」
自分の鞄と郁奈の鞄を持ち優舞は教室を後にした。
せめて鞄だけでも届けようと思い中を調べた。
だが入っていたのは教科書の束とノート一冊だけだった。
しかしその中に隠れたように生徒手帳が挟まっていた。
それを引っ張り出すと優舞は躊躇いなく開いた。
「フッ。ほんとはすごい真面目だろ、あいつ・・・」
生徒手帳に書かれた住所を見つめ優舞は笑みをこぼした。
「すいません。鞄届けにきました!」
インターホンを鳴らし説明するが返事はなかった。
しばらく悩んでいると郁奈が姿を表した。
「!?」
あまりに酷いありさまに優舞は言葉をなくした。
「わざわざありがと!それとコレ返す!!」
ぐいっとカツラを押し付ける郁奈に優舞は困惑した。
「河合、その顔なんだよ。化粧落とすやり方も知らないのか!?」
郁奈の顔は無理矢理化粧を落としてぐちゃぐちゃになっていた。
「うるさい!だいたい誰のせいでこうなったと思ってんの!?」
苛立つ郁奈に優舞はゆっくり頭を下げた。
「ごめん。そのメイクもきちんと落とす」
綺麗に落とされた化粧に郁奈は安堵した。
「じゃあ」
「俺、お前を辱めるためにメイクなんかしてないから!!」
「はっ!?」
「河合は女だってわからせるためにしたんだからな!!」
弁解する優舞に郁奈は冷たい眼差しで睨みつけた。
「だから何?結局なんにも変わんなかった」
「そんな事ない。少なくても俺はもっと河合の事好きになった」
優舞の思わぬ告白に郁奈は顔を真っ赤にさせ取り乱した。
「い、意味わかんない!頭おかしいんじゃない!?」
「それ。そうゆう強がってて本当は初心なとことか可愛いって思う」
「っ!!こ、これ以上私をからかわないでよ!」
「からかってなんていない。河合は本当に可愛いよ?」
唇を噛み締め震える郁奈を優舞はそっと包み込んだ。
「絶対今お前、自分が好かれるなんてあり得ないって思ってるだろ?」
図星を差され郁奈は目を泳がせた。
「世の中にはこうゆう奇特な男もいんの」
ギュッと抱き締められ郁奈はもう何も言えなくなった。
「郁奈って呼んでいい?」
優しく見下ろす優舞に郁奈は思わず頭突きした。
「イッ!!顎にもろいった・・・」
痛みに悶える優舞を残し、郁奈はマンションに入っていった。
「放置プレイって!どんだけ意地っ張りなんだよ!!」
答えも言わないまま帰る郁奈に優舞は小さくはにかんだ。
「おはよう」
マンションから出てきた郁奈を出迎える優舞に驚いた。
「な、なんでいんの!?」
「これも何かの縁って事で一緒にいかね?」
「な、何考えてんの!?」
「いや、郁奈返事聞かせてくんないし。こうでもしないとなかった事にされそうじゃん?」
「ウッ・・・」
完全に思考を読まれ郁奈は溜息をついた。
「本気なの?」
「当たり前だろ」
「・・・まあ、じゃあいいんじゃない?すぐ飽きるだろうし」
冷めたように呟くと郁奈は学校へと歩き出した。
「返事も素直じゃないんだな。そうゆうの可愛いくないぞ?」
「別に可愛いくなりたいわけじゃないから」
「ふぅーん。そうゆう事言うなら・・・」
優舞は先を歩く郁奈の手を握った。
「!?」
「罰として手を繋いでもらおう」
「ちょっと!何!?離してよ!!」
恥ずかしそうに抵抗する郁奈に優舞は笑顔を向けた。
「そうそう。その方がいいよ?」
「・・・・・・好きにして」
諦めたように呟く郁奈に優舞は嬉しそうに笑った。
そのまま学校へとつき、郁奈はようやく優舞から解放された。
「郁奈、帰り一緒に帰ろな?」
「エッ?」
承諾の返事も待たず、優舞は教室へと入って行ってしまった。
「はぁ。めんどくさっ」
授業中も項垂れる郁奈を優舞は突っついた。
「何!?」
小声で睨みつける郁奈に優舞は幸せそうに笑みを浮かべた。
「郁奈って裏表なくていいね。ますます好きになったかも」
「!!」
恥ずかしい事を平気で言う優舞に郁奈は顔を赤くさせ教科書を被った。
そんな優舞が隣にいるせいで郁奈は心休まる時がなかった。
「昼飯一緒にどう?」
郁奈の座る机の前に立ち、覗き込むように優舞は話しかけた。
「・・・いい」
そっぽを向き断る郁奈に女子は優舞を引っ張った。
「時任くん、私たちと一緒にどう?」
「ごめん。俺今郁奈にしか興味ないんだ」
照れる事なく断言する優舞に郁奈は生きた心地がしなかった。
「・・・そう」
あきらかに攻撃的な視線を向ける女子に郁奈は机に突っ伏した。




