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第一話 アーサーとリエラ

リエラは砂浜にいた。

周りを見渡しても何の気配もしない。

ただ砂浜に打ちあがる波の音がザザーっと心地よく流れている。

リエラはその音を聞き、少し心が落ち着いた。

死と隣り合わせの航海を何とか切り抜け自分の好きな波の音を聞いているだけで私は生きているとオーバーにも感じてしまう。


暫く目を閉じながら深呼吸をし、再び頭を働かせた。

ーここはどこの国の何と言う島なの?

人が住んでる気配はあまりない感じね‥。

ここに何があるというのかしら?


砂浜をあがるとすぐに森が広がっている。

木は無造作に空に向かって伸び、我こそはと隣の木とケンカでもしているかのように立っている。

もう少し遠くを見てみる。


ーあれ?

あれは、家?

誰か住んでいるという事?


木々の隙間から遠くのほうに小さな建物を見つけたのだ。


ーよし!まずはその家を目指しましょう。


リエラはまだ萎縮している体を奮い立たせるように掌を握って拳を作りその屋敷に向かって右足を前に踏み出した。



その足を踏み込んだ瞬間だった。




ズドーーン


「え?なに?なに?えーー!?」


いきなり穴に落ちたかと思うとリエラの体は何かに覆われすぐさま宙に浮いたのだった。

リエラは何かに覆われてしまったせいで視界は遮られ自分に何が起こってどんな状況なのか把握できない。

手や足を無造作に動かしてもビクともしない。


ガサガサガサ


何か外から音がする。

そしてその音は次第にこちらに近づいてくる。

どうやら、人の足音だ。


ー良かった。助かった。はやく知らせなくては。


リエラが口を開こうとした瞬間、近づいてきた者の声が聞こえてきた。

男の声だ。


「やったぜ!!大成功!

今日は猿鍋だ。

あぁ、久しぶりの猿だなぁ。

早くキリに作ってもらおう。」


ーえ?どういうこと?

もしかして、私、猿と間違えられているの??


リエラは予想もしていない発言に助けを求める訳でもなく、猿を否定する訳でもなく、ただ口を開けているだけだった。


リエラは麻の布の袋の中にいてロープで袋の先を閉められ木に吊るされている状況であった。

男はロープを手に取り木から袋を降ろすと、そのまま持ってきた丈夫な枝にグルグルと括り付けその枝を肩に担ぎまた森の中へと走り出した。



「ちょっと!開けてください。

出してー!!」


暫く思考回路が止まってしまったリエラは移動し始めたと同時に我に返り袋の中から手足を動かし、必死に叫んだ。

だが、リエラを運んでいる男は、最早猿鍋の事しか頭にないのだろう。

いくら袋の中から蹴っても叩いても止まる気配がしない。

きっと元気な猿とでも思っているのだろう。


ーはぁぁ。やっとの思いで嵐を乗り越えてきたのに、ここで猿鍋になって終ってしまう。


リエラは抵抗を諦め、袋の中で縮こまった。

最初から無駄だったのかも知れない。

たった一人の女が旅に出て、何かを変える事なんて出来やしなかったのだ。


ーあぁ。今頃、イオニアの国はどうなっているのだろう。

お父様は無事なのかしら。

こうなる事ならイオニアに残って少しでもお父様を支えた方がマシだったのかもしれない。


リエラはこの島に着いた時の少しの希望を忘れてしまっていたのだった。

身も心も疲労しきったリエラは糸が切れたように眠りに落ちてしまった。



アーサーは袋を担いで走り始めてから一度もスピードを落とす事なく家に向かっていた。


久々の猿だ。肉だ。最近は森の動物達も賢くなったのか、アーサーの罠に掛かる事がすくなくなっていた。


ー剣を使えるなら罠なんていらねえんだけど、剣を外に持ち出すとキリがうるさいからな。


アーサーはキリから剣術を教わっていた。

毎日キリと剣術の稽古をしているが、実戦で使った事はない。

キリが初めて剣術を教えてくれる事になった時、アーサーはキリと3つの約束を交わした。

1つ目は、自分の為に振るわない事。

2つ目は、相手の事を考える事。

3つ目は、屋敷の外で使ってはいけない。


1つ目は、剣とは自分を守るためでなく誰かを守るためにあるというのがキリの自論だ。

2つ目も自論を唱えていたがアーサーにはよく理解できなかった。アーサーが何となく理解出来た事は、人には優しくしなければならないらしい。これが剣術とどう関わっているのかアーサーには理解できなかったのだ。

3つ目もよく分からない。秘伝の剣術のため他の人に知られてはいけないらしい。ただこの島にはアーサーとキリしかいないのに、他の誰に知られるのだろうとアーサーは思っていた。

アーサーはこの約束を守っていた。稽古をしている間は凄く楽しく自分に合っているからだ。

しかし、強くなればなるほど

どれ位通じるのかこの剣術を試してみたいと言う気持ちは溢れ、いつかこの島を離れ世界の強者達に挑んでいきたい。そう考えるようになった。



ようやく屋敷に着いた。

さっきからずっとお腹が鳴っている。

胃も猿を欲しているのだ。



ギィィ


アーサーは扉を開けて大声で叫んだ。


「ただいま!

キリ、猿を捕まえたぞ!!

早く猿鍋にしてくれ。

腹減ったぞぉ。」



アーサーはキッチンへ一目散に向かっていき調理台に袋をドサっと置いた。


奥から足音が聞こえる。キリだ。


「すごいじゃない。久々のお肉だね。しかも大きい」

「だろ?昨日、砂浜に仕掛けておいたんだ。あそこらへんの砂浜は猿がカニや貝を食べにくるからな。」

「へー。それで朝から出かけてずっと罠に掛かるのを待っていたわけね。」

「あぁ。そしたら俺が知っている二倍も三倍もデカい猿が海から出てきて二足歩行で歩いて来たんだ!」

「え?」

キリは一度会話を止めた。

「ちょっと待って、アーサー。

二足歩行ってどう言う事?

私達と同じように足だけで歩いていたの?」

「そうさ。オマケに毛深くもなかったんだ。手も足も毛がはえてなかった。

きっと新種の猿に決まってる。」

「アーサー、まさかそのお猿さん、服も着てたって事ないわよね‥。」

キリは自分が想像しているものが間違ってていて欲しいと思った。


「そう言われれば、着てたような‥。」

「それ、猿じゃなくてヒトじゃないの?!

今すぐ袋を開けて確認しなさーい!!」

アーサーはキリの怒鳴り声に驚き、直ぐさま袋を開けて中を覗いた。


ー猿じゃねぇ。ヒトだ‥。


それがアーサーとリエラの出会いだった。


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