第4話:争奪戦勃発?
そして逃げ込んだ先は生徒会室、さつき先輩は生徒会を嫌っているみたいだったので、
ここまで追って来ないであろうという憶測、では無く単純に混乱してただけ。
「おお! 待ってたぞ!」
ちびっ子生徒会長は、足をぷらぷらさせながら椅子に座っていて、
その隣には最初に会ったとき、ちびっ子生徒会長を捕獲しにきた先輩女子が立っていた。
「ようこそ生徒会へ!」
「いやいやまだ入るって言ってないですよ!?」
「…? じゃあ何しに来たのだ?」
さつき先輩から逃げてきたとも言えないし、どうしよう?
「えっと…そうだ、もし生徒会に入った場合の俺の役割について聞いとこうと思って」
「役割…?」
ちびっ子生徒会長は、何故かきょとんとした顔で、隣の先輩を見上げている。
「さえちゃん、よしじゅんが入ったら何をするのだ?」
先輩女子はどうやら、さえという名前らしい。ってかよしじゅん言うな!
「そうですねぇ…」
え? なにそれ? 決まってないの?
「あ…生徒会長補佐がよろしいのではないですか?」
「…? それは何をするのだ?」
副生徒会長なら分かるけど、生徒会長補佐ってほんとに何だろう、秘書のようなものかな?
「会長が逃げ出さないように監視するのと、遊び相手をする仕事です」
「遊び相手か! それはいい案だな!」
さえちゃん、しれっと何言ってんの? ちびっこ生徒会長も喜んでいるけど前半部分を聞いてないのか!
「…それってお守りって言いませんか?」
「うがった見方をするとそうなりますね」
うがってねぇよ! そのまんまだよ! つぅかそれって生徒会入らなくてもよくね?
「それならやってみたい遊びがあったのだ!」
遊びって言っちゃったよ……しかも嫌な予感しかしないけど、一応聞いてみるか。
「な、なんですか?」
「お医者さんごっこ…痛いのだ!」
思わずちびっ子生徒会長の小さな頭に、軽くチョップを食らわせていた。
「どこの子供だ! それに高校生でその遊びはシャレにならないから!」
…
「おねぇちゃん…なに?」
「なぁ、さくら、純く…吉岡くんは、おっぱ…胸のほかに何か好きなものないかな?」
「ぼいん以外に好きなもの…?」
さくらは考え込むように右斜め上に視線を向ける。っていうか、ぼいんって…。
「…」
「……」
「………」
「…………あ」
「ん?」
「おにぃちゃんは…『おにぃちゃん』って呼ばれると喜ぶ」
おにぃちゃん…だと! 妹萌えってやつか?
でもこれは行けるかも……って私のキャラじゃ無理だろ!
…
またHRが終わる間際に、さつき先輩が颯爽と教室に入ってきた。
だいぶ傾いてきた日差しを浴び、キラキラと輝くツインテールをなびかせて…って、ツインテール!?
髪型だけじゃなく、いつもより短めのスカートにニーソックスといういでたち(コスプレ?)だった。
「またあなたは!」
さつき先輩はまたみどり先生をスルーして、とてとてと俺の前まで歩いて来ると、なぜかモジモジ。
「お、おにぃちゃん、行こぅ?」
「…っ!」
クラス全員がポカーンとしてさつき先輩を見ているけど、これ、どこからツッコめばいいんですか?
「えっと…行くって風紀委員室にですよね?」
「そうだょ、おにぃちゃん!」
アニメ声をイメージしているんだと思うんだけど、まんまさつき先輩の声ですから!
さつき先輩の顔は既に茹で上がってるし、なんか痛々しくなってきたよ。
「さつき先輩? それは罰ゲームか何かですか?」
「ちがうょ!」
さつき先輩は少し涙目で、何かを訴えるような眼光をしている。
「早く行こぅ!」
「そ、そうですね、早く行きましょう!」
おそらく早く連れ出せと言いたいんだと思う、俺はさつき先輩の手を掴んで騒然とする教室を脱出した。
風紀委員室に向かう間、さつき先輩は繋いだ手を前後に揺らしながら「おにぃちゃんとお散歩」を連呼していた。
お散歩ちゃうし! っていうかこれ後で、お金的なものを要求されないかな?
「おにぃちゃん…なにかぁ、失礼なことぉ、考えてないだろうな?」
後半、地のさつき先輩出てますよ! キャラ崩壊寸前じゃないですか!
「もうその辺でいいんじゃないですか? さつき先輩」
風紀委員室に着いてからも続く羞恥プレイに、俺がそう進言してやる。
「なにがだ…な、なにがぁ?」
「ほらもうグダグダじゃないですか! いったい何がしたいんですか?」
「だってぇ、妹っぽいのが好きなんだろ…なんでしょ?」
どこから出た情報だ! うん、まぁさくらだと思うけど…。
「そ、それは嫌いじゃないですけど…人によりますね」
「さくらは良くて、わ、私はダメなのか?」
不安そうに瞳を揺らすさつき先輩が普段と違って少しだけ可愛らしい。
「ダメとかではなく、さつき先輩のやってることは妹とは違うような…」
さつき先輩のやってることは妹プレイではなくて幼女プレイですとは言えない。プレイって…。
「そ、そうなのか?」
「はい、っていうか、さつき先輩は、いつものさつき先輩のほうが、その……かっこいいです」
「そ、そうか…」
思ったとおりさつき先輩はかわいいと言われるより、かっこいいと言われるほうが嬉しいんだ。
2人とも顔を真っ赤にして、お互いチラチラと相手の顔を伺ったりしていた。
そんななんとも言えない甘い雰囲気は長くは続かない。
バン!と風紀委員室の戸が開き、ちびっ子生徒会長が乱入してきた。
「たのもー!」
「千代! 貴様何しに来た!」
千代ってちびっ子生徒会長の名前か? そういえば初めて聞いたな!
「この部屋からよしじゅんの気配を感じたから来た!」
ちびっ子生徒会長の頭には、妖怪アンテナでも付いてんのか? って誰が妖怪だ!
「ついでにさつきの変態気配も感じた!」
「わ、私は変態気配など出してない!」
と一般の女子より大きい胸を張って…言えるのか?
今の格好もどちらかというとコスプレというより変態に近かい気もするし。
「ぷふー、なんださつきそのかっこ! えどうぃんか? とらっくおあとめぃとぅだな」
「うん、それを言うならハロウィンだ! ほんでトリックオアトリートな! いやハロウィンの季節違うし!
それからトメィトゥってなんだトマトの事か?」
「よしじゅん興奮してどうしたのだ?」
「はぁ…いえ…なんでもないっす」
なんで俺が率先して変なことを口走ってるような感じになってるんだ?
でもあれだな、さつき先輩の格好は、ちびっ子生徒会長のほうが似合うだろうな。
とニヤニヤしてたら、さつき先輩に半眼で睨まれた。怖!
「ようこそ生徒会へ!」
「いやいや! 流れおかしいから!」
「んなっ! 純く…吉岡くんを生徒会に誘ってるのか?」
「そうだぞ! わたしのえーとなんだっけ…そうだ! 猛者をやってもらう」
「補佐な!」
猛者じゃ意味分かんないだろ!
「千代の猛者……とはどんな事だ?」
「だから補佐だっつってんだろ! 聞けよお前ら!」
「「お前らだと!?」」
ちょ! そんなとこだけしっかり聞いてないでください! ってかハモるな!
「ダメだ、吉岡くんは風紀委員になってもらう!」
「よしじゅん、そうなのか?」
俺の膝の上に乗ってきて、ちびっ子生徒会長は振り向きながら見上げてくる。
「い、いえ…まだ決めてないですけど?」
だからよしじゅん言うなよ! それより膝の上に乗るな!
お尻の感触に、ある部位に変化が起きちゃうだろ! どの部位のどんな変化かは言えないがな!
「ふふん」
そこでなんでちびっ子生徒会長がドヤ顔してるんだろ?
「よしじゅんは、わたしとお医者さんごっこをする約束をしているのだ! なー?」
「してねーよ! つうか『なー?』じゃねーよ!」
「なん…だと…!」
さつき先輩も驚きすぎですから! っていうか俺のセリフをちゃんと聞いて…。
「よし! よしじゅん! 風紀委員になってくれたら、私もお医者さんごっことやらをさせてやろう!」
「さつき先輩まで、よしじゅん言うな! っていうかですね、高校生でその遊びはマズいですって…」
思わずさつき先輩とのお医者さんごっこを想像(妄想?)して、鼻血出そうになったわ!
ちびっ子生徒会長の千代という名前は、あずま○が大王のちよちゃんからではなく、あのレイテ沖海戦で空母千歳と一緒に沈んだ姉妹艦、千代田から取ってます。