第8話:体育祭4
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いよいよ第2走者のスタートだ、飄々としている唯先輩たちも真剣な顔を装っている。装うな!
「よーい…」
バンッとピストルが鳴った瞬間さくらがスタートダッシュを決める。
さくらがスタートダッシュを決めるということは、当然脚を結ばれている俺も…。
「あばばばばっば、さ、さ、さく、さくら、おぼぼぼっぼ」
俺はさくらのスタートダッシュについて行けず、スタートと同時に背中から転倒して引き摺られている…。
「おぼぼ、さく、さくら、うぼぼ、背中、あばば、熱い」
背中から火が出る前にさくらは満面の笑顔で1位でゴールテープを切った。
俺はボロ雑巾のようになってるけどな!
「全身痛いし、疲れたけど、これで終わり…」
「純くん、次は私だ、ほら早く来い!」
「え!? あれ? さつき先輩復活したんですか?」
「何の話だ?」
うわぁ、この人記憶を抹消してらっしゃる!
「ほら、立て!」
さつき先輩に腕を引っ張られて立ち上がる。
「あの、俺もう2回走ったんですけど?」
1回は走ってはいないが…。
「だから何だ!」
「…な、何でもありません」
さつき先輩のその目力に、今この人に逆らってはダメだという警鐘が鳴っている。
「ふぁ! す、すね毛がちくちくこそばゆい!」
「我慢してください」
しゃがんで2人の脚を赤い布製の紐で結ぶ。ちなみに俺はこんどは左側です。
「っていうか顔近いっす」
さつき先輩も何故か一緒にしゃがんで、脚を結ぶのを覗き込んで見て来るので、めっちゃ顔が近い。
「き、き、気にするな…」
「気になるわ!」
しかも一緒にしゃがんでるもんだから、結ぶ時さつき先輩のつやつやした太ももに腕が当たってしまう。
「これで私たちは一心同体だな!」
さつき先輩はホクホク顔で立ち上がった。
「一心はどうかと思いますがね」
俺は若干引き気味で立ち上がって、さつき先輩の肩に手を回した。
脇腹ではないのは、身長があまり変わらないので、こっちのほうが走りやすいからだ。
「~~っ!?」
さつき先輩は何を勘違いしたのか顔を真っ赤にしてしばらくモジモジした後、俺の鎖骨あたりに頭をもたせかけてきた。
「そういうことじゃないから! 走りやすいようにですよ?」
「っ!? わ、分かっている、冗談さ、あははは…」
その慌てぶりはどう見ても冗談には見えなかった。
やはりさつき先輩も俺の歩調に合わせてくるので、特に掛け声などなくても普通に歩いていける。
そのままスタート地点に行くと、由比先輩と由衣先輩の生徒会書記コンビがすでに準備万端で待っていた。
「「よしじゅんくん、夜のお誘いはまだですか?」」
何この既視感。
「そのくだりはもう終わりました」
「「それは残念…」」
「はいはい」
さくらの時の轍を踏まないように、スタートと同時に両手で抱えるようにさつき先輩の腰にしがみついた。
そうなると当然頭がふわふわした何かに包まれる。何かの正体はおっぱいだ。
「こ、こら、そんなに甘えてきたら、走れないではないか?」
甘えているわけじゃねー!
「いや、でも…」
「大丈夫だ、さくらの時のようにはならないから」
どうやらさっきの俺の華麗な滑り?を見ていたようだ。
「だからほら! 手を離せ?」
「はい…」
名残惜しい部分もあるが、恐る恐るさつき先輩の腰から離れる。
「じゃあ行くぞ?」
「はいぃぃぃ!?」
返事の途中でダッシュするさつき先輩についていけず、またもや背中から転倒しながら叫んだ。
「やっぱりね! あばばばばばっ」
俺は何か? 野球部がグラウンド整備に使うトンボか何かか?
スタートで時間を使った俺たちは、結局、由比先輩たちには追いつくことが出来なかった。
「「ふっ…」」
由比先輩たちはボロ雑巾のような俺を見て、鼻で笑って近くにいた唯先輩たちと合流した。
「純ちゃん、ほら次は私だから早く立って!」
「いやいや、さえちゃん先輩は組違うし!」
「よしじゅん、次」
「千代先輩も違う!」
「「「「よしじゅんくん」」」」
「ハモるな!」
「吉岡くん」
「みどり先生にいたっては関係ねーし!」
何この流れるようなコンボは!?
っていうかひとつツッコミ間違えてた気がするが、そんなことは些細なことだ。
…
お昼はそれぞれが持ってきた弁当を1個所に集めて、各々好きなものを食べるというシステムになった。
お抱えシェフが作ったという千歳たちの弁当だけで、ちょっとした立食パーティが開けそう…。
俺、さつき先輩、さくら、千代先輩、千歳、ゆい4先輩、なぜかみどり先生が輪になって食べる。
食べ物が減ってくるとどこからともなくメイド服のメイドさん(綾乃ちゃんではない)がやってきて、
補充していくものだからまったく減らない。これどんな大食い大会?
…
校庭では、午後最初の競技となる借り物競争が行われており、クラスからは千歳も参加している。
その様子をうつらうつら見ていると、競技に参加しているはずの千歳がやってきて俺の手を引く。
「はえ? 何? 千歳?」
「いいから早く一緒に来て!」
「え、あ、はい」
体育館の裏にでも連れて行かれるのかしら? どうせなら体育館倉庫で保健体育がいいんですけど!
「バカ言ってないで早く走る!」
「はい…」
眠くてつい口に出して言ってたみたい。
「なになに? かっこいい異性とか書いてあったの?」
「うん…まぁそんな感じ」
なんだよー、照れるじゃん!
他に借り物として人間を連れている人はあまりいない。
千歳と一緒にゴールし、審判と思わしき先生に指示の紙を渡す。
「えー、指示はバカですね」
先生はマイクを使って、指示の内容を読み上げる。って何その指示!
先生は俺をチラッとみてOKと両腕を使って○を表現した。
「なんで即OK!?」
「ありがとう! 純くんがバカで助かった」
「お礼を言われても喜べねー!」
…
借り物競争で受けた精神的ダメージを回復する暇もなく、ムカデ競争の時間になってしまった。
うちの学校で使われている道具は、木製の細長い板に足を入れるベルトが付いたタイプの5人用のものだ。
配置は先頭からさつき先輩、俺、学級委員長、千歳、さくらの順になった。
さつき先輩とさくらが前だと、それ以外の3人がスタートですっ転ぶ可能性が大きいというか確定するので、
さつき先輩が引っ張り、俺と委員長の平民2人が、千歳、さくらに押し上げられる寸法だ。
「ふぁ! じゅ、純くん? 腰じゃなくて肩に手を置くんだ」
「そ、そうっすよね」
二人三脚がトラウマになってるみたいで、すぐしがみつけるようにって考えてた。
そして競技がスタートする。
「行くぞ、せーの」
「イチ…うわぁ!」
最初の1歩で転びはしなかったが、みんな前のめりになって倒れないように踏ん張った。
「じゅ、純くん、こら!」
転ばなかったのは良かったが、さつき先輩の肩から手を話してバランスを取ろうとしたら、
後ろから委員長に押されてバランスを崩しただけなんです。
さつき先輩のお尻に顔を埋めているのは、故意ではないんです。信じてください神様!
心の中で言い訳をしていたら、委員長が俺の腰を抓りながら引っ張って戻してくれた。
なんで抓られたのか疑問なんだが、助けてくれたので文句は言えない。
「さつき先輩、ごめんなさい」
「い、いや、構わない、そ、そういうことは後でな?」
「何が!?」
俺もたぶん顔真っ赤だと思うけど、さつき先輩も顔が真っ赤だった。
恐る恐る後ろを振り返ると、困ったような顔の委員長の後ろで、
千歳とさくらがもの凄い冷めた目で睨んでました。
「はは…」
触らぬ女神に祟りなしだね。
その後は特にさつき先輩の山脈を鷲づかみにするような夢のような展開もなく、
淡々とトップでゴールしたが、さつき先輩とさくらのスペックによるところが大きかった。
赤組は、さえちゃん先輩とその他2人の歩幅と、千代先輩の歩幅が合わずに思うように進んでおらず、
白組は、ゆい4先輩の他に1人入ったことにより、息が合わずにこちらも思うように進んでいなかった。
体育祭は、あと1話か2話で終わります。たぶん。。。