第6話:体育祭2
全体での準備運動が終わり、最初の競技である女子選抜100メートルリレーが行われた。
当然のように選ばれたというさつき先輩が圧倒的なアドバンテージを作り、青組が大差で勝利した。
「あれ? 秘策って何だったんだろう? ただの牽制?」
「牽制じゃないわよ?」
「うわっ! いたんですか!?」
いつのまにか隣にさえちゃん先輩が座っていてびっくりした。ご先祖は忍者か何かですか?
「ずっといるつもりだけどね」
いや、自分のクラス帰ってください…。
「でも赤組の人がいるのは問題あると思いますけど?」
スパイがいると思われてもおかしくない。っていうかスパイだ。
「えー? そう?」
と言って周りを見渡すが、さえちゃん先輩から出ているどす黒いオーラに、クラスメートたちは皆戦々恐々として視線を外した。
「え、えーと、問題ないみたいです…」
「そう、良かったわ」
さえちゃん先輩は白い歯を光らせてニコっと笑う。そのまま歯磨き粉のCMにも出れそうだと思った。
「リレーについては操作しても意味が無いので、何もしてないわよ、
当然どの組も強いメンバーを投入するだろうし、うまくいく可能性は低いわ」
「それもそうですね」
100メートル走と違い、さつき先輩と同じ番手に最強メンバーを入れたとしても、
前の走者の順位で走り出すタイミングが違うので、あまり意味がない。
女子選抜100メートルリレーが終了し、さつき先輩は自分のクラスではなくこっちに戻ってきた。
グラウンドでは男子選抜100メートルリレーが開始されようとしている。
「純くん、私の走りはどうだった?」
「凄かったです!」
「そうだろう?」
ぶるんぶるん揺れてて凄かったです! も、もちらん、ポニーテールのことなんだからね!
「ところで、さえが何故ここにいるんだ?」
さつき先輩は俺の隣に座りながら、逆サイドに座るさえちゃん先輩を訝しげに見る。
「わ、分かりません…」
「敵情視察という名の諜報活動よ?」
さえちゃん先輩が胸を張って答えるので、母性の象徴がぷるんと揺れる。
「それ、スパイという名のスパイって言ってるのと同じです!」
同じ…だよね? って誰に聞いてんだ。
「ふん、スパイされてもなんら問題ないがな!」
さつき先輩はさつき先輩で色々揺らしながら胸を張る。も、もちろん、ポニ(以下略)。
「それと精神的ダメージを与えるためにね」
いつの間にか、さえちゃん先輩の手には写真があり、それをヒラヒラと揺らしていた。
「そそそそんなもので、私は動揺などしないぞ、おほほほ…」
めっちゃ動揺してる! おほほほって…。
「純ちゃん、ほら見て、良く撮れてるでしょう?」
さえちゃん先輩が持っていた写真は、体重計の上で驚愕の表情をしているさつき先輩だった。しかも下着姿。
「んなっ!?」
さつき先輩は自分自身のあられもない姿が映った写真を俺の手から引ったくった。
「い、いつの間に!」
「ふふ、ちょっとした魔法でね」
盗撮は魔法ではありません! 良い子は真似しないように!
「ふ、ふふん、じゅ、純くんにはいずれ見せる予定だから問題ない!」
真っ赤になりながら言われると、こっちも照れてしまう。
「その時の体重が分かる写真がこれだよ」
どうやって撮ったんだよ! 真上からズームしないと撮れないじゃん!
さえちゃん先輩の手から俺の手に渡る寸前、迅速の速さでさつき先輩が写真を引ったくった。
「すみませんでした!」
さつき先輩が綺麗な土下座をした。っていうか何で謝ってるのか疑問なんだが…。
「じゃあ、私は一旦戻るわね、純ちゃん、寂しくなったらお姉ちゃんとこ来るんだよ?」
「うん!」
やれやれ、チラッと横を見ると魂の抜けたさつき先輩が、空ろな目でどこかを見てる。
同姓に体重を知られてこれなんだから、異性である俺が見てたら自殺ものかも知れない。
そのタイミングで男子選抜100メートルリレーが終わってしまった。順位は白組、赤組、青組の順だ。
次は全員参加の棒引きなので、さくらと千歳と俺で、体重の事を引きずっているさつき先輩を引きずっていく。
聞いた話では、去年は何故かさつき先輩が指揮を執って指示を出していたため、圧勝だったという。
それを考えると大幅な戦力ダウンだが、さつき先輩を救護所で寝かせて集合場所に行く。
俺たちが最後だったらしく、すぐに入場となった。 対戦相手はゆい4先輩が所属する白組だ。
「とりあえず、3人でまとまって動こうか?」
「そだね」
「…あい」
グラウンドのトラックの中央あたりに整然と等間隔で竹の棒が並べられていた。
そのトラックの両サイドの直線部分に両陣営が散らばると、開始の合図が鳴った。
開始直後、俺は人がいない竹棒を掴むと、俺の後ろにさくら、千歳、委員長が続いていた。
相手側を見ると、ゆい4先輩が並んで竹棒を掴んでいた。
相手は息がぴったりとはいえ、そこは女の子だから、男が1人いるこっちが有利と思いきや何故か拮抗していた。
「…何故だ!」
ふと自分の体を見下ろすと、さくらが腰に抱きつくような感じで、俺の前に手を回して竹棒を掴んでいた。
「っ!? なにしてる?」
「おにぃちゃん…こんなに…固くして」
竹の棒を手で擦る動きをやめろ! さらにその状態だと当然密着するわけで、背中が柔らかい何かに包まれてる!
「竹の棒だから固いんだよ!」
道理で拮抗してるわけだよ、1人は半分力が入ってないから俺が補っているわけだし。
「ふんばれー!」
そんな声も虚しく竹棒は持っていかれてしまった。
「くそ!」
ゆい4先輩が先頭から順に両手を上げていって勝利のポーズするのがイラッとする。
そのあと先頭から順に流し目を俺に送ってきながら去っていった。
「なんで敵対視してんだろ…」
「気に入ったんじゃない?」
千歳は顔は微笑を浮かべているのに、目が笑ってない! 何故だ!
その後、劣勢のところに援軍に行ったりしたが、結局俺たち青組は負けてしまった。
次の白組と赤組の対戦は、赤組が負けて、棒引きは白組が優勝した。
続いて青組と赤組による2位決定戦が行われる。
「ふふん! よしじゅん、優勝は白に持ってかれたが2位はうちがもらう!」
どこからその自信が沸いてくるのか分からないけど、千代先輩は無い胸を張りながら宣戦布告する。
「のぞむところだ、おチビちゃん」
「誰がおチビちゃんだ!」
千代先輩は、両手を突き上げて怒る。これはもう定番だな。
それを待っていたかのように入場が始まった。ちなみにまださつき先輩は立ち直っていない。
トラックの両サイドの直線部分に両陣営が散らばると、開始の合図が鳴った
。
開始直後、俺は人がいない竹棒を掴むと、俺の後ろに千歳、さくら、委員長が続いていた。
相手側を見ると、千代先輩、さえちゃん先輩と知らない女子2名が並んで竹棒を掴んでいた。
相手は1人はチビっ子だし、それにこっちは男が1人いるから有利と思いきや何故か拮抗していた。
「…何故だ!」
ふと自分の体を見下ろすと、千歳が俺の腰を掴んで引っ張っていた。
「っ!? なにしてる?」
俺の腰を引っ張ってもあんま意味ないぞ?
「純くんったらこんなに固くして」
「腰骨だから固いんだよ!」
道理で拮抗してるわけだよ、1人はほとんど棒に力が加わってないわけだし。
それでも何とか勝つことに成功。
「くそー! よしじゅんめ!」
地団駄踏む千代先輩は、ちっさいしパワーもないからしょうがないね。
圧倒的とまではいかないものの何とか青組が勝利し2位を獲得した。
棒引きの次はカエルだったが、ゴールできたのが数名という阿鼻叫喚の地獄絵図だったので割愛しておこう。
「あー気持ち悪!」
「…大丈夫?」
隣でさくらが優しく背中を摩ってくれていた。っていうかさくらも出場したんだが…。
「まぁなんとか大丈夫だ、さくらは平気なのか?」
「…平気…だけど…」
さくらがちょっと悲しそうな顔で言いよどむ。
「あーやっぱ気持ち悪いんか?」
「もっかい…やりたい」
「そっちかよ!」
そうでしたね、さくら様はドが付くM属性の方でしたね。当然ゴールした数名の1人です。