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In Girls Interval  作者: Satch
第2部
22/33

番外編:朝のひと時

その朝もセットした目覚ましより少し早く目が覚めて、ベッドで伸びをする。

ひとしきり伸びをした後、ベッドから降りて洗面所に向かう。

洗面所で手早く顔を洗って歯磨きを済ませると、キッチンからおいしそうな匂いが漂ってきた。


「お姉ちゃん…おはよ」


キッチンに顔を出すと、私の宇宙一可愛い妹であるさくらが、その日の弁当を作っている。


「ああ、さくら、おはよう、今日も早いな?」


「うん…エネルギー…大事」


「そうだな」


しかし毎日3つも弁当を食べてよく体型を維持できるものだ。


1つ増えても大差ないということで、いつも私の分の弁当も作ってくれる。愛妹(あいまい)弁当だな。


最初に作ってくれた時は、私の分も3つあり、律儀に全部食べたから、

その日の午後はお腹がパンパンで授業にならず、保健室で唸っていたっけ。



いつも通りの朝だ。



部屋に戻り剣道着に着替えると、愛用の木刀を手に縁側(えんがわ)から裸足で庭に出る。

千代の家のように規格外な庭ではないが、剣術の練習がギリギリ出来る程度の広さはある。


まずは全身のストレッチ体操を行って、筋肉などの緊張をほぐしていく。


念入りにストレッチした後は、剣道の面の素振りを300回行い、

続いて木に吊るした棒を、少し遠めから踏み込んで木刀でたたく練習を100回行う。


それが終わると、上がった息を整えるように正座をして精神統一を行う。


精神が研ぎ澄まされ、周囲から雑音が消えた瞬間、カッと目を見開き左手で握っていた木刀を右手で抜き、

同時に右足を前に出し少し腰を浮かせて、左から右に木刀を横に払った、所謂(いわゆる)居合い抜き。師匠でもある父に習った技だ。


元の位置に足を戻し木刀を収めると、私の前の地面には木の葉が真っ二つに切れて落ちていた。


『いいか、さつき、木刀で叩くのではない、斬るのだ、いいな?』


『はい、おとうさ、あ! おししょうさま!』


最初に習ったのが10歳だった、木の葉が斬れるようになるまで5年もかかってしまった。

それから更に1年を費やして、綺麗に真っ二つに斬れるようになったのは、ここ最近の話だ。


「天国のお父さん、さつきはここまで成長しました…」


「こら! わしを勝手に殺すな!」


いつの間にか私の鍛錬を見ていた父が苦い顔で文句を言う。


「お姉ちゃん…お父さん…殺すの…好き」


そこにさくらが顔を出してフォロー(なのか?)してくれる。


「嫌なセリフだなそれ…」


そう呟いて父は家の中に入っていった。


それを確認してから、最後の仕上げで腕立て伏せと腹筋、スクワットをして朝の鍛錬は終了だ。


鍛錬後のシャワーを浴びて部屋に戻り、バスタオルを体に巻いたまま髪を乾かす。


「今日はどれがいいかな?」


そう一人呟いて、最近何故か急激に数が増えた下着から、今日穿()いていくのを選ぶ。

もし風が吹いてスカートが捲れて、それを見られたとき、かわいい下着のほうがポイント高いからな。


肝心の純くんはどんな下着が好みかな?


「って何考えてんだ私は!」


バスタオルのままゴロゴロ床を転がっていると、部屋を覗いていたさくらと目が合い、ピタッと動きを止める。


「…」


「なんだ?」


私は真っ赤になりながらも、普通に言葉を発することが出来た。


「お姉ちゃんの…部屋から…臼転がす…音がしたから…」


「だ、誰が臼だ! ゆ、床のだな、掃除をしてたんだ!」


「ふーん…」


さくらは少し目を細くして疑いの眼差しを向けてくる。


「そ、それより! 純くんは、どんな、その、し、下着の柄が好きかな?」


「うーん…穿()いてない…のが好き…思う」


「そうか! じゃあ今日はノーパンで! ってアホか! 風紀委員長が自ら風紀を乱してどうする!」


「…」


さくらは何故か、言ってる意味が分からないという顔で首を捻っている。


「おにぃちゃん…清純タイプ…好き…私みたいな」


「それはどうだろう? 清純か…だったら柄なしの普通のにするか」


「お姉ちゃん…サラッと…否定した…」


「ああ…ごめん…深く考えてなかった」


「でも…ちょっと…キュン…てした」


何故かうれしそうなさくらは身をよじった後どこかに行ってしまった。おそらく自分の部屋だろうけど。


「相変わらずのドM気質だな…」


私は無地の白い下着を身に付け、ブラが透けないようにキャミソールを着て、その上に制服を着た。


純くんになら透けたブラは見られても構わないのだがな! いやむしろ見て欲しい。


「って私は痴女か!」


制服でゴロゴロ床を転がっていると、また部屋を覗いていたさくらと目が合い、ピタッと動きを止める。


「…」


「なんだ?」


「お姉ちゃんの…部屋から…熊が暴れる…音がしたから…」


「誰が熊だ! ってそれ分かってて言ってるだろ?」


「えへへ」


くそ! 我が妹ながら可愛い。


「それより…遅れる」


「ん、よし行くか」


私は何事も無かったように、スクッと立ち上がって、制鞄を持って部屋を出る。





「さくら、風紀委員にはもう慣れたか?」


学校に行きがてらさくらと何気ない会話をするのも、毎日の楽しみの1つでもある。


「んー…見回りは…慣れた」


さくらは喉に何かつかえたような言い方をする。


「見回り、は?」


「うん…視線が…怖い」


「ああ…風紀委員は嫌われる傾向にあるからな、それでも私が1年のときよりはましになってるぞ?」


「そういうの…じゃない…女子の…視線」


「女子の…」


なんだろう? 私は麻痺してるのかもしれないが特に何も感じないが…。


「それはあれじゃないか、さくらが可愛いくて胸も大きいから妬んでるとか?」


「かな…?」


なんにしても危害が及ばないとも限らないから、今日から注意して見回るとしよう。


「それか、純くんが無双状態にモテてて、嫉妬の目線かも?」


「オゥ…シット!」


私の妹はくだらないこと言っても可愛いな。私の妹がこんなに可愛い!


「おにいちゃんに…八つ当たり…してくる」


もう、すぐそこまで見えてきた校門に駆けてくさくらの背中に、言葉を投げかける。


「ほどほどになー」


まぁ、だいたいこんな感じで、私の朝のひと時は過ぎていくわけです。


「さつーきせーんぱい!」


「ひぅ!」


不意に肩を掴まれた私は、ガラにもなく変な声を上げてしまった。


「何だ純くんか、脅かすな!」


「す、すみません、そんなに驚くとは思わなかったんで…」


純くんは本当に申し訳なさそうに謝ってくるので、思わず顔が(ほころ)んで、ほっこりしてしまう。


「驚き過ぎて妊娠したらどうする!」


「するか!」


ボケについ反応してしまうツッコミ気質なところも、私が気に入っているところの1つだ。


「それより、さっきは何をブツブツ言ってたんですか? 朝のひと時がどうのって聞こえましたけど?」


「乙女の呟きを盗み聞くとは、どういう了見だ?」


「いやいやいや! 盗み聞いた訳じゃないっすよ? たまたま聞こえたんです、本当です!」


私がちょっと不機嫌そうな顔で流し見ると、慌てて弁明する純くんがかわいいので、すぐに許してやる。


「まぁ、信じてやるか」


「よかったー、ってあれ? そういえば今日さくらは休みですか?」


と私の後ろとか見ているけど、私の後ろに隠れられるほどさくらは小さくない。


「いや…純くんに八つ当たりしてくると言って、走って行ってしまった」


「なんで!?」


まぁいきなりそんなこと言われたら驚くだろう。


「女子には男子に言えない秘密があるんだよ?」


「そうなんですか……ってうまく誤魔化そうとしてません?」


そのとき、校門からまるで暴走モードのさくらが出てきて、こちらを認めると凄い形相で走ってきた。


「ひぃ!」


「んなっ!」


純くんは小さく息を呑むと、なんと私の後ろに隠れた!


さくらはそんな私たちの数メートル手前でジャンプし、私の頭上まで跳躍したかと思うと、

空中から純くんの頭にだけピンポイントでゲンコツをお見舞いした。


「いだぁ!!」


さくらはスタっと10.0の着地をする。


「またちゅまらぬものを叩いてしまった…」


「噛んだ!」「ああ、噛んだな」


言い慣れない言葉を、言い慣れない速度で言おうとするから…。


「覚えてろ…!」


さくらは顔を真っ赤にして目の端には涙を滲ませて、捨てセリフを叫んで、走って行ってしまった。


「「…」」


私は思わず純くんを見ると、純くんも困った顔で私を見ていたので、私が目力でどうにかしろと訴える。


「わか、わかりました、後でなだめときます」


「頼んだぞ?」


「はい」


純くんがなだめれば、あのさくらもすぐに機嫌を直すだろう。


優雅とは程遠い朝のひと時だが、私はこんな騒がしい朝を気に入っている。

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