第1話:巡回
第2部開始です。
「巡回の時の組み合わせを考えて来たので、コピーを配ります」
風紀委員会室に、さつき先輩、さくら、千歳、俺の4人が集まり、
風紀委員会の最初のミーティングを行っている。
最初にさつき先輩から皆に配られたコピーの紙に書いてある内容を確認した。
<こうないじゅんかいじのくみあわせ>
月曜日:さつきと純、さくらと千歳で巡回
火曜日:さつき、さくら、千歳の3人で巡回
水曜日:さつき、さくら、千歳の3人で巡回
木曜日:さつき、さくら、千歳の3人で巡回
金曜日:さつきと純、さくらと千歳で巡回
「質問があります」
千歳は不満顔で手を上げる。
「なんだ?」
「何故純くんは2日だけですか?」
確かに何でだろう?
「火曜と木曜は、生徒会のほうの仕事で、水曜はどちらにも入らない、まぁ休暇だな」
「休暇?」
「そう、兼任で大変だろうということで、水曜日は休んでもらう建前だ」
建前って言っちゃったよ!?
「水曜日どっちに参加させるかでモメてな、それならどっちも参加させないということでそうなった」
本音も言っちゃったよ!? っていうかコレって喜んでいいのかな?
「それなら納得です」
納得なの?
「主に月曜と金曜についてだが、例えば喧嘩とかの仲裁に入る場合は、
2人で解決しようとせずに私か純くんを呼ぶこと」
「はい」
「誰かが休んだ場合は、3人で巡回する」
(ちょっとさくらちゃん? こんなの納得できる?)
(お姉ちゃん…1度決めたら…曲げない…へそは…曲げるのに)
(うまいこと言ってる場合!?)
(それに…クラスメイト…だから)
(うん?)
(私達…一緒…時間多い)
(つまりクラスメイトだから純くんと居る時間は私達のほうが長いってこと?)
(そう…かしこい…ね)
何を言ってるのか聞き取れないけど、何故かさくらが千歳の頭を撫ぜている。
「何か質問か?」
さすがにさつき先輩も、真っ赤な顔でさくらの手を振り払っている千歳を怪訝な顔で見る。
「いえ、すみません」
「そうか、続けるぞ?」
「はい…」
「こんなことは無いとは思うが、4人中3人休んでしまって1人の場合は、
学年主任の先生に頼んで一緒に巡回をしていただくこと」
「はい」
「但し、火曜から木曜で、純くん以外で1人になった場合は、純くん、悪いけど巡回を手伝ってくれ」
「はい」
「さえちゃんとは調整済みだけど、その時は、その旨を連絡すること」
千代先輩ではなく、さえちゃん先輩と調整なんだ…。
「は…い」
「なんだ歯切れが悪いな?」
「いえ、人数を増やすのに乗り気じゃなかったわりに、色々考えてるなと思って」
「当たり前だろう? 不本意とは言え決まったことは受け入れて、万全の準備はする」
「…」
「ど、どうした? ぼーっとして」
「さつき先輩、格好良いっす」
頬か赤くなるのを止められない。
「なななな何を言っているのだ急に…照れるだろう!」
「ちょ…ヘッドロック止めて!? 当たってるから、むにゅっと柔らかいのが当ってるから!」
…
というわけで、今日は月曜だが、最初ということで4人で巡回に出る。
「純くん、どこから行こっか、どこか行きたい所ある?」
とさつき先輩が腕を絡めてくるが、なんで年上のお姉さんが初デートで言いそうなセリフ言ってんだ?
「…いや、普通に巡回しましょうよ」
「そうですよ、それにくっ付き過ぎです!」
「お姉ちゃん…離れて…」
さくらがさつき先輩の腕を解き、自分の腕を絡めてきた。ってなんで!?
「さくらちゃん!? どさくさに紛れて何してんの! ほら離れて!」
千歳がさくらの腕を解き、自分の腕を絡めそうになったので華麗に回避して巡回を促した。
「んなっ!」
「そんなことより早く巡回行きましょう」
「そうだな」
千歳が地味にショックを受けているけど、だいたいパターンは読めてきたからね!
「まずは本館を巡回する」
「はい」
この学校は本館、新館、部館とあり、本館が通常の授業を行う建物となっていって、
新館が音楽室や理科室などの所謂移動教室がある建物、部館は各クラブの部室を集めた建物だ。
…
3年生の教室がある本館3Fに移動してきた俺たちは、4人連なって廊下を歩いていくが、
しばらく巡回していると、巡回の意味があるのか疑問に思ってしまう。
何故なら少し先で騒いでいる生徒などは、さつき先輩が巡回しているのを見て静かになるからだ
「さつき先輩は3年生にも知れ渡っているんですね」
「うん? ああ、風紀委員だからな」
それだけではないような気がする、さつき先輩は見た目だけは超がつくほどの美少女だからな。見た目だけは。
「む、純くんから何か失礼な波動を感じたぞ?」
「き、気のせいっすよ、ははは」
「お姉ちゃん…魔界の天使…て恐れられてる…」
「なにそれ!?」
っていうかその異名自体意味が分かんない! 魔界なのに天使って…。
「い、一部の人間が勝手にそう呼んでいるだけだ! 魔界から来た訳じゃないぞ!」
わかっとるわ!
「大丈夫ですよ、さつき先輩のことはだいぶ分かって来ましたから」
本当は残念な風紀委員長ってこともね。
「そ、そうか…?」
さつき先輩は、ちょっと照れたように頬を染めて前を向いた。
そんな話をしているうちに3Fの3年生のクラスが終了し、続いて2Fの2年生のクラスに移ったが、
やはり3Fと同じようにさつき先輩を見かけた生徒は大人しくなる。
中には何故かさつき先輩に敬礼をしている生徒や(さつき先輩は律儀に返礼してる)、
握手やサインをねだる生徒が後を立たない、ってアイドルか!
「彼らは仕込みじゃないですよね?」
「何のことだ?」
「ああ、いえなんでもないです」
さつき先輩がそんなあざといことしないわな。
「…彼らは仕込みじゃなく…今朝頼んでおいたやつらだがな」
「え? 何ですか?」
「い、いや何でもない、次行くぞ?」
「はい」
(お姉ちゃん…それを…仕込みって…いうんだよ?)
「ん? さくらちゃん何?」
「ううん…なんでも…ない」
さくらたちの会話は聞こえなかったが、千歳は不思議そうな顔をしているので、
さくらが妖精さんの話でもしたのかも知れない。なわけないか。
そして事件は、1Fの1年生のクラスで発生した。事件ってほど大げさなものでもなく、単なる口喧嘩だけどね。
「おい! お前たち何をしている!」
その迫力ある声に口喧嘩をしていた男子生徒たちがビクっとなる。
「なんだてめー!」
ビクっとさせられた男子生徒はさつき先輩に掴みかかろうとする。
そんな男子生徒とさつき先輩の間に体を入れる俺。
「この人は風紀委員長の、影山さつき先輩だ、逆らわないほうが身のためだぞ?」
「っ!? お姉さん!」
「「お姉さん!?」」
俺とさつき先輩の声がシンクロする。魔界の天使とか叫ぶならまだしもお姉さんと来たか!
「影山先輩は、いえ、さつき先輩は、そちらのさくらちゃ…さくらさんのお姉さんですよね?」
「ん? ああ、そうだが?」
俺とさつき先輩がさくらを見ると、こんな人知らないって感じで首をフルフル振った。
「そう言う貴様はさくらの何だ?」
「はい、俺、いや僕は、さくらファンクラブ会員です」
「ふ、ふぁんくらぶ?」
そういえばそんなのがあるようなことを小耳に挟んだことがあるな。
「はい! 会員№0034です!」
特に会員番号は聞いていないが微妙に多いな! 少なくても34人は要るってことだよね?
「ゴルフ…場?」
「さつき先輩、それ違う!」
確かにゴルフ場には、クラブって最後につくところが多いけども! あれはカントリークラブだから!
「?」
「つまりさくらに好意を持っている人たちの集まりです」
「なんだと!」
竹刀を取り出そうとしたさつき先輩の手を掴んで止める。
「ひゃわ!」
急に手を掴まれたさつき先輩は顔を赤くしてかわいい悲鳴を発する。
「ファンクラブは崇めるだけで、実質無害ですから! 逆に守られていると言っても過言じゃないです!」
「守られてる?」
「はい、親衛隊…のようなものですから」
『親衛隊』のところでファンクラブのやつらはコクコクと頷いていた。
「ふむ、そうか、これは失礼した」
「いいいいえ、そんな、とんでもない!」
さくらファンクラブの生徒は、キチッとしたお辞儀をするさつき先輩に戸惑っている。
「それで、よく分からんのだが、なんで口論をしていた?」
「あ、いえ、さくらさんの…その…胸がEカップかFカップかで…言い争いになって…」
しょうもな!
「さくらはGカップだ」
サラッと暴露しちゃったよ!?
「「G!?」」
言い争いをしていた生徒たちは、ABCと数えていってGで止まりしばし愕然とした後、ガッチリと握手する。
って、なんだこれ。
「お姉ちゃん!」
「なんださくら? 一般女性に比べて我々は大きいほうなのだから、胸を張っていいぞ、胸だけにな」
「「「うまくない!」」」
俺と少し涙目のさくらのシンクロに、ほぼ泣いている千歳がさらにシンクロしていた。
「では、貴殿ら、これからもさくらの護衛を頼んだぞ?」
「「はっ! お任せあれ!」」
やつらもすっかり従者気分で盛り上がってるな…。
「あ、それと、吉岡?」
ファンクラブのやつらが俺を小声で引きとめた。
「あ?」
なんでさくらファンクラブのやつらが俺の名前を知ってるんだ?
「リア充爆発しろ!」
「んなっ!?」
なにがだ! と怒鳴る前に、ぴゅーっと俺の前から逃げてった。
「どうした? 何か言われたのか?」
さつき先輩が怪訝なというか心配そうな顔で、俺の顔を吐息がかかりそうなくらい至近距離で覗き込んでくる。
「な、なんでもないっす、ってか顔近いっす!」