第2話:セカンドコンタクト?
入学2日目からはもう早速授業が始まった。
「だるぅ」
先生に聞こえないようにこっそりつぶやいて、本日何度目かの欠伸をした。
その時ふいに美味しそうな匂いが漂ってきたので、辺りを見回すとさくらが早弁していた…。
「…」
教科書を立ててそこに隠れるようにして食べるというオーソドックス?なスタイルだ。
つかまだ1限目だぞ? どんだけお腹空いてるんだよ。
呆れて見ているとさくらと目が合い、お互い五秒ほど見つめ合う。
するとさくらはタコさんウィンナーを箸の先で豪快にザクっと刺して、こちらに箸先を向けてきた。
「いや…食べたくて見ていたわけじゃないから」
さくらがシュンと寂しそうに項垂れてしまったから、しょうがないので食べてやる事にする。
「わ、分かったから」
手に乗せてもらおうと手を差し出すが、さくらは首をフルフルとふってタコさんウィンナーをずいっと前に差し出す。
「え…食べさせてくれるってこと?」
するとさくらはコクコクと頷いて、またタコさんウィンナーをずいっと前に差し出す。
所謂「あーん」というやつだな、って付き合ってる訳でも無いのに恥ずかしいわ!
いや、付き合ってても人前じゃ恥ずかしいのには変わりないけどさ!
さくらは目をキラキラさせて待っているので、タコさんウィンナーを口に入れる。
「…えへ」
嬉しそうにさくらが笑うので、まあいいか。
「ちょっと純くん何いちゃいちゃしてんのよ!」
千歳が顔を近づけて小声で注意してくる。
「いちゃいちゃはしてないだろ?」
こちらも小声で応戦する。
「分かってるの?」
「何が?」
「か、間接キスよ!」
「…っ!」
それは考えもしなかった…が、でも飲みかけの缶ジュースとかならまだしも、
箸を舐め回したわけでもないし、箸に刺さったウィンナーを食べただけだしね。
「まぁさくらなら別にいいよ」
「んなっ!? 良くないわよ!」
「何で?」
「そ、それは…私だってしたいし…」
「え? よく聞こえないんだけど?」
「なんでもない! ばか!」
え? 何で怒られてるんだろう?
それからまた欠伸を噛み殺しながら退屈な授業を受けていると、左側から肘をつつかれたので顔を向けると卵焼きがいた。
いや違う、千歳が箸に卵焼きを刺して、こちらに向けていた。
「って、えっ!?」
「早く食べなさいよ!」
「…いや」
「何よ! 影山さんのは食べれて私のは食べれないっていうの?」
千歳のキャラってこんなだったか?
意識すると余計食べづらいというか…あ、でも弁当開けてからすぐ卵焼きを箸で刺したなら問題ないかなと、
千歳の弁当を見るとちょっと食べてるし!
視線を千歳に戻すとと、目が少し潤んでる!
「はい…あーん」
「あ、あーん」
うん、美味しい、卵焼きに罪は無いね。
「うん、千歳の味が染みててうまい」
「んなっ!?」
まぁこのくらいの反撃なら許されるだろう。
…
昼休み、千歳とさくらは仲良く弁当を食べていた、いつの間に仲良くなったの?
っていうかさくらはさっき弁当全部食べてたような…もしかして2つ目の弁当か?
千歳はさっき全部食べなかったからその残りを食べている。
「さくら、どんだけ弁当持って来てんの!?」
さくらはちょっときょとんとしたあと、手で3を作って突き出してきた。
「3つって…その小柄な身体の何処に入るの?」
「純くんやーらしー」
「待て待て弁当の話しだぞ?」
「ふーん、純くんが言うとなんでもそう聞こえるね」
「そんな含みは全然してねーよ! 千歳はそんなことばっか考えてんだな、えろぃ娘だ」
「えろぃ言うな! 不純くん?」
「んなろう、胸でも揉んだろか! あ、揉むほど無いですね!」
事実千歳の制服の胸はぺたーんと残念が音が鳴っている。
「んなっ!? ちょっとさくらちゃん何か言ってやってよ!」
千歳がさくらに援軍を要請したけど、さくらは何故か意外に大きい胸を張る。
「さくらちゃんそれは…わたしはあると言いたいの?」
「…えへ」
さくらは得意げに少しだけ笑った。
「まさかの裏切り!?」
「ぷふっ!」
「純くん笑った!?」
「…わら…ってない…よ」
「笑いながら言っても説得力無いよ? いいもんまだ成長期だからこれから大きくなるんだから」
「…がんばれよ」
「憐れみの目で見ないでよ!」
そんなお馬鹿な会話を繰り広げていると、教室が急に静かになる。
「え、何?」
見るとポニーテールと大きな胸を揺らしながら、歩いてくる女生徒がいた。
「あ! きのうはありがとうございました」
きのうクラスの行き方を教えてくれた先輩だ。
「いや、まぁ、どういたしまして」
千歳はぽかーんとその先輩を見上げていて、さくらは弁当に夢中だった。
「そういえば名前を聞いていませんでしたね、先輩」
「そうだったかな…私は影山さつきだ」
「じゃあ、影山せんぱ…」「さつき」
「んん? かげや…」「さつき」
「かげ…」「さつき」
「か…」「さつき」
「…」「さつき」
まだ言ってねーし、っていうか、つい最近同じようなやりとりをした気がする!
ん? 影山…?
「ああ、君だったのか、さくらが優しくてカッコイイ友達が出来たって、はしゃいでいたからついでに見に来たのだ」
「…っ!」
さくらを見ると珍しく顔を真っ赤にして、むせていた。
「っていうか、もしかして姉妹ですか?」
「そうなるね、さくらとこれからも仲良くしてやってくれ」
「それはもちろん」
「ただし、さくらに手を出したらどうなるか分かってるな?」
さつき先輩はどこから取り出したのか竹刀を握り締めていた。
「そ、それはもちろん」
「私になら何をしても構わないのだが…」
「え? 何ですか?」
「な、なんでもない、じゃあここからは本当の目的に入ろう」
「本当の目的?」
「言ったろう、さくらの友達を見に来たのはついでだと」
そういえばそんなことを言ってた気がするけど、その前の部分で舞い上がってたからな。
「吉岡純くん、さくらが何度も言うものだから名前を覚えてしまった」
「はい…」
さくらを見るとまた顔を真っ赤にして、むせていた。
「君には風紀委員に入って貰いたい」
「え、俺が?」
「そうだ」
「俺には無理ですよ!」
「そんなことはない、君は空手の有段者だそうじゃないか?」
段を取るまでの約束で、いやいややらされてたのが空手だ。
「確かにそうですが、今はもうやめてしまっています」
「別に空手の試合に出ろと言っている訳じゃない」
「でも素人に空手を使う訳には…」
風紀委員は喧嘩などがあった場合、仲裁に入らないと行けないので、多少腕に覚えがないとダメらしい。
「まぁ、そうだな、だが抑止力にはなるだろう?」
「…」
「すぐに答えを出さなくてもいい、考えておいてほしい」
「わかりました、さつき先輩」
「…っ! も、もう1度名前を呼んではくれまいか?」
「さつき先輩…?」
「…えへ」
さつき先輩は嬉しそうに笑った、やはり姉妹というべきか、さくらと同じ笑い方だった。
…
さつき先輩が立ち去って、午後の授業に向けて鋭気を養っていると、教室にちびっ子が入ってきた。
「ちとせー、きたよー」
さっきの流れもあるし、また姉妹なのか?
「千歳…もしかしてそのちびっ子生徒会長は妹さんか?」
「誰がちびっ子か!」
え? ツッコむのそこだけ!?
「それボケたのか、素で間違ったのか分かりずらいから」
いやボケたんだよ、素で間違い易いってことなのか?
「こんなんでも姉よ」
「こんなんでもは余計だ!」
「はいはい、お姉ちゃんが言ってたの、コレでしょ?」
と言って俺を指差す、コレって酷くない?
「うん、そうだ! いきなりイタズラされた!」
「待て待て! 誤解されるだろ?」
教室中から非難の目が向けられてるだろうが!
「いきなり抱き付かれたって言っているのと、その時間、教室に居なかったキーワードから、
純くん、あなたが犯人だと気付いてしまったの」
何その、2時間ドラマの崖のシーンみたいなセリフ。
「千歳、ドラマの見すぎじゃないのか?」
「1度言って見たかったの!」
「それよか、いきなり抱き付いたっていうのは語弊がある」
「まぁね、純くんがいくら変態でも、そんなことはしないでしょ? 自信はないけど…」
「自分を信じて! って変態言うな! ま、合ってるけど」
「認めちゃった!?」
「出会いがしらにぶつかってさ、弾かれた勢いで転んで怪我でもされたら嫌だから、抱き止めたんだよ」
「そんなことだろうと思ったよ、聞いてた、お姉ちゃ…ん?」
千歳の歯切れが悪くなったので、ちびっ子生徒会長を見ると、ぽーっとした顔で俺を見てた。
「どうした? 電池切れか?」
「お…」
「お?」
「おま…」
ちょっと待て、変なこと口走るつもりじゃないだろうな?
「おまえ、優しいな!」
「…え、まぁ」
変なことは言わなかったが、照れることを言われた!
「お礼に、おにぃちゃんって呼んであげようか?」
「いや、年上に言われるとちょっと複雑な気分になるからやめてください」
「そういう嗜好もあると思ったのに、おにぃちゃん」
「千歳、そういう嗜好も無くは無いけど、同級生に言われるのもな」
「…おにぃ…ちゃん?」
「おふっ!?」
さくらのひと言で心臓がドクンと跳ね上がったよ、何だこの破壊力は!
「私とさくらちゃんとの反応の違いが納得行かないんだけど?」
「細かい事気にするなよ、ハゲるぞ」
「ハゲないわよ!」
「女性もハゲるらしいぞ?」
「うそマジで?」
「いや知らないけど」
「知らないのかよ!?」
千歳のツッコミもなかなか鋭いじゃないか。
「漫才終わった?」
「「漫才じゃない!」」
「よし決めた!」
ちびっ子生徒会長が何かを決めたらしい。
「会長、砂遊びにするかブランコにするか決めたんですか? っていうかお昼寝は終わったんですか?」
「私は高校生だ!」
まぁ唯一そう見えるのは制服だけだけどな!
「おまえ…名前はなんだっけ?」
「ん? ああ、吉岡純です」
「うにゅ、よっしーを生徒会に、かんぬー…かんにゅー…むぅ、スカウトするぞ!」
「舌がべろーんって伸びそうなあだ名を付けるな! それと勧誘な! って、はぁ!?」
「生徒会長が1人決めていいことになってるもん!」
「いやいや、その権限に強制力は無いからな?」
「ちとせー、そうなのか?」
「うん、たぶん」
「そっかー、じゃあどうしたらいい?」
「こういう場合は、考えておいてって言うのが妥当じゃない?」
「そっかー、じゃあ、よしじゅん考えておけ?」
これじゃ、どっちが姉か分からないな、ってあだ名を統一しろ! いや違うあだ名を付けるな!
生徒会長は嵐のように去っていった。
…
「純くんすごいじゃない、いきなり主要2団体からお誘いなんて!」
「団体言うな!」
「おにぃちゃん…すごい」
さくらの顔から感情は読めないけど、すっかりおにぃちゃんと呼ぶのが気に入ったようだ。
「ありがとう」
さくらの頭を撫でると猫のように気持ちよさそうに目を閉じる。
「で、どうするのよ」
「千歳ーどうしよう?」
千歳のぺったーんな胸に泣き付こうとしたけど、手で頭を押さえられて阻止された。
「はいはい、こんなときだけ甘えなーい!」
「くっ…ぺったん姉妹め」
「なにをー!」
「さくらー」
さくらの柔らかい胸に泣き付く、さつき先輩に見られたらボコボコにされるかも知れない。
「おにぃちゃん…いい子…いい子」
さくらは特に嫌がる訳でもなく優しい表情で、俺の頭を撫でてくれた。