第18話:巨大爆弾投下
夏休みも終わり、今日から授業が始まる、そんな朝のHR前。
生きた屍のごとく、まさに死んだ顔でボーっとしていた。
そっと左の千歳と右のさくらを見ると、やっぱり同じような顔でボーっとしている。
っていうか6割がたがそんな状態だ、あとの4割は1時現目の授業の予習をしているか、
夏休みの思い出話に花を咲かせている。
今は夏休みを挟んで雰囲気の変わるやつなんて居ない。
居ても2、3人だ。2、3人は居るんかい。
「おはようござぃ…」
みどり先生は生きた屍のような死んだ顔で教室に登場した。
あんたもか! っていうか挨拶を言い切れ!
「では出席を……」
先生はゆっくりとした動作で、教室を見渡しただけで出席簿を閉じた。
「では今日1日頑張りましょぅ…」
あんたが頑張れ! って、かく言う俺も人のことは言えないけど…。
「千歳?」
「……うん?」
千歳が死んだ目をこちらに向ける。ってなんか怖い!
「胸触らせて?」
「うん………………………………………はぁ!?」
脳の処理速度おせーな!
「純くん…朝っぱらから何言ってるのよ!」
「夜なら言っていいの?」
「上げ足を取るな!」
「いやテンション上げようと思って言っただけ」
「…はぁ」
本当に触ったら別の気分も上がっちゃうからね!
でもこれで千歳は起動したから次はさくらだな。
「さくら?」
「……にゅ?」
いやにゅって返事する人初めて見たよ!
「胸揉ませて?」
「うん」
さくらはすぐ制服のシャツのボタンを外そうとする。
「いやいや脱ごうとするなよ!」
さくらのおでこに軽くチョップを食らわせると、さくらは目をバッテンにする。
「ちょっと純くん?」
千歳が妙に冷えた声を出す。
「な、なんでしょう?」
「なんで私の場合は『触らせて』で、さくらちゃんの場合は『揉ませて』なのよ!」
「え? 何の話?」
「む、胸の話よ!」
千歳は言った瞬間カァっと顔を赤くする。
「ああ…って細かいな!」
「だって…純くんの配慮が足りないっていうか…」
いつもの千歳らしくなく、ブツブツ何かを呟いている。
「何を言っているか聞こえないけど、理由を言っていいのか?」
「言わなくていい! 分かってるから…」
まぁ俺もここでトドメを刺すほど悪い人間じゃないからね。
「千歳は揉むほど胸が無いからな!」
あえてトドメを刺してみた!
「言うなっつってんでしょ!」
「うぐっ! さ、さくら…」
千歳にチョークスリーパーを決められながら、さくらに助けを求めようとしたら、
弁当食ってやがった! まだ1時限目も始まってすらいないのに…。
っていうか女子にチョークスリーパーされたら、胸が当たるというモノローグが入るんだが、
その胸が判別できません! って思った瞬間さらに締め付ける力が強くなった!
薄れ行く意識の中見た景色は、さくらが手を合わせてごちそうさまをしている姿だった。
食べるの早いな! ってこっちにも興味を示せよ!
…
目を覚ますとそこは教室だった、ってうんそれ自体は別におかしくないけど、
何か雰囲気が違っている、なんて言うか、そう、放課後のような雰囲気っていうの?
「純くん、良く寝てたね! もう放課後だよ?」
「んなっ!」
それ寝てたというより気絶していたというほうが正しくないか?
「っていうか起こせよ!」
「あ?」
「ごめんなさい、起こしてくださいよ」
昼も食えずにこの仕打ち、なんか理不尽だ!
「だって…寝顔が可愛かったからつい…」
「え? 何?」
「うるさい!」
怒られた! なんか理不尽だ!
「ってヤバ! 生徒会室に顔出すように言われてたんだ!」
「ご愁傷さま…」
「うぉい! 縁起でも無いこと言うなよ!」
俺は教室を出て急いで生徒会室に向かった。
生徒会室には、生徒会長席に千代先輩が座り、その後ろに控えるようにさえちゃん先輩が立ち、
生徒会長の机にさつき先輩が半分だけお尻を乗せて座っていた。
「夏休みも終わり、そろそろ結論が出たんじゃないか?」
「それがまだ…」
「…あんなに休みがあったのに結論でなかったのか? はぁ」
さつき先輩は心底呆れた表情で軽くタメ息を吐く。
「ははは…」
「笑ってごまかすな!」
さつき先輩の竹刀が床を激しく叩く。
「そうだぞ、よしじゅん、私とお医者さんごっこするのか、さつきとするのか決まらないのか?」
「趣旨が間違ってるから!」
「そ、それなら私のほうが診察しがいがあるよな?」
さつき先輩は真っ赤な顔で俺に熱視線を送ってくる。
「ま、まぁそうですけど、趣旨が間違ってますからね?」
「ほら見ろ千代、私の勝ちだな」
「ぬぐぐ!」
勝ち誇るさつき先輩に、酷く悔しがる千代先輩。
「いや、だから! 趣旨がね…」
助けを求めようとさえちゃん先輩に視線を送ったら、あからさまに目を反らされた!
あれ絶対楽しんでる!
やいのやいの言い合う千代先輩とさつき先輩を見ながら、改めて考えてみるけど、
もはやどちらも選べないような関係性が成り立ってしまった感がある。
「いっそのこと、どちらにも入らないという…」
「「却下!」」
そこはちゃんと聞いてるんかい!
「そうだ、こないだ生徒会規約を見てたら面白い記述を見つけたんだけど?」
黙ってずっとニヤニヤ見ていたさえちゃん先輩が割って入ってきた。
「な、なんですか?」
いつも終始眺めているだけのさえちゃんが、割って入ってくるなんて珍しい。
「ここなんだけど?」
さえちゃん先輩の白魚のような白く綺麗な手が目を引く。
「綺麗な手ですね…」
「あら、それはこの手で何かして欲しいという催促かしら?」
と何かを握るような仕草をする。
「違います! 純粋な感想です…」
「あ、ありがと…」
さえちゃん先輩は頬を染めていつに無く照れている。レアだ。
「んな!?」
さえちゃん先輩と見詰め合っていると、さつき先輩の驚いた声が響いた。
千代先輩はきょとんとした顔なので、おそらく分かってない。
「なんすかいったい」
「だ、第40条を見てみろ!」
さつき先輩は生徒会規約をぐいっと突きつけてきた。
その生徒会規約にはこう書いてあった。
第40条 生徒会会長および副会長、専門委員会の委員長,各学年の正副委員長は、
他の委員を兼ねることができない。
「…?」
別段おかしいことは書いてないと思うのだが…?
「つまりね、純ちゃんは生徒会と風紀委員会を兼務しても問題はないということね」
さえちゃん先輩は、格好重要なことをサラっと説明する。っていうか純ちゃんって初めて呼ばれた!
「純ちゃん…だと!」
「いやいや、さつき先輩…今重要なのはそこじゃないですから!」
「う、うむ、そ、そうだな、この件は後でじっっっくりとさえちゃんを問い詰めるとしよう」
さえちゃん先輩は涼しい顔だ、もしかしたらこの先輩は1番敵に回したら行けないのかもしれない。
所謂、影の黒幕的な?
状況を理解した千代先輩も愕然とした顔で呟く。
「ってことは今までの私達の勧誘合戦は…」
「まったく意味が無かったことになるわね」
楽しそうに答えるさえちゃん先輩は、本当は最初から知ってたんじゃ…?
そう思ったらさえちゃん先輩はこっちに向かってしーっという仕草をしてきた。
っていうかこのタイミングで、とてつもなく巨大な爆弾が投下されるとは思わなかった!!
次話でとりあえず第1部が終了になります。