第13話:それはもうラッキースケベではない!
「じゃあとりあえず、休憩でもしますか…」
「はぁ? まだ来たばっかなんだけど?」
千歳は『おまえなめてんのか?』って表情をする。
「そうだっけ?」
その前の女子達の水着披露大会と、いわれの無い汚名を着せられ、めっちゃ疲労困憊なんだけどな。
「じ、じゃとりあえずプールに入って、クールダウンしますか」
「「はーい」」
各々で準備運動を開始、その際、ブルンブルン揺れる4つの物体を眺めるのは必須だ!
「ふふ、純くん、そんなに見ててもポロリはしないぞ?」
「…」
そんな期待は…してますが、さすがに準備運動でポロリするとは思ってない。
「もっともポロリするとしたら、ビキニの私だけだから、紐を緩く結んどいた」
「今すぐしっかり結べ!」
この先輩は何を考えているの? 見せたいのか?
「おにぃちゃん…セルフポロリ…しても…いいよ」
セルフってことは俺が水着に手を入れて、おっぱ…胸を出すってこと?
「それもうポロリというかなんというか…なぁ、千歳?」
「ふん!」
千歳さんはポロリしたくてもね…。
「その憐れみの目がむかつく!」
ちなみに千代先輩は、会話に加わらず真剣な顔でラジオ体操をしていた…。
…
「気持ちいいな!」
「うん、気持ちいい」
「気持ち…いい」
「ふぅー極楽極楽」
千代先輩、千歳、さくら、おっさん(さつき先輩)の順に、プールに入った感想です。
俺たちが入ったのは、所謂流れるプールと呼ばれる「土石流」という名のプールです。
「って嫌なネーミングだな! どんなセンスしてんだよ!」
「うー! いいと思ったのに、よしじゅん酷いぞ! にゃああ!」
千代先輩は目の端に涙を浮かべで、プールサイドの縁から手を離し、両手を突き上げる。
最後の叫び声は、浮き輪に乗っている千代先輩がプールの流れに乗っていったための叫びです。
「え? 千歳? ここってもしかして…」
「あ、あははは、ここは叔父さんの経営しているとこなの…」
「…」
「け、建設時にプールのネーミングを頼まれてね…」
「…」
「何か文句あんの?」
「ありません、ごめんなさい!」
千歳さんのキレるタイミングを誰か教えてください!
ちなみにさくらは、泳いでくると言って流れに乗ってクロールで泳いでいった。
ここで本格的に泳ぐなよという俺のツッコミは、夏の空に吸い込まれていった。
「んで、さつき先輩はさっきから動いてないですけど、もしかして怖いんですか?」
さつき先輩はプールサイドの縁を掴んだまま、固まっている。
「こ、この私がそんな訳なかろう!」
めっちゃ早口で、声が震えてますけどね!
「ふーん、ならここまで来てみてください」
俺は流れの少し先に移動してさつき先輩を呼ぶ。
「この私のいろんなとこを舐めてもいいが、バカにするなよ?」
「いろんなとこってどこですかー?」
「~~!? そ…それは…想像に任せる」
「想像していいんですか?」
「~~!?」
「冗談はこのくらいで、さあ早く来てください!」
「く、覚えてろ!」
さつき先輩は顔を真っ赤にして、悔しそうな表情をする。
「さあ、ほら!」
「っえい!」
さつき先輩は目を瞑り、可愛らしい掛け声と共に、縁から手を離した。
よろよろと流れるプールを歩くさつき先輩に、さっき流されていった千代先輩が一周してきてぶつかった!
「ふにゃああ! 止めてくれ!」
千代先輩はクルクル回りながらまた流されていった。
千代先輩にぶつけられ、よろけたさつき先輩はその勢いのまま急に抱きついてきた、
「どうだ! 来れただろう!」
「…そ、そうですね」
さつき先輩は、抱きついている自覚が無いのか、どうだと言わんばかりの声音だった。
「と、ところで、さつき先輩? いまの状況を理解してます?」
「状況…?」
さつき先輩は目を開けて、状況確認をしている。
「んな! 何故私に抱きついているんだ? 私にも心の準備というものが…」
「いやいやいや、抱きついてきたのはあなたですから!」
さつき先輩が体を離そうとした時、俺はあることに気が付いて、再度さつき先輩を抱き寄せた。
「純くん! ダメ! こんなところで!」
「いやいや、違いますから! そうではなくて落ち着いて聞いてください?」
「? 私はいつも冷静沈着だが?」
いつもなら嘘付けとツッコむところだが、今はそんな場合じゃない。
「無くなってます」
「? 何が?」
「えーと、なんていうか、その、上の水着がですね、ありません」
「上の水着?」
さつき先輩は、恐る恐る下を見て絶句する。っていうか見なくても分かるだろ?
「どどどどうしよう?」
「ど、どうしようって言われても」
その辺に落ちてないか、見回してみたが形跡は無い。
「あ、そういえば…」
「ん?」
「さっきさつき先輩にぶつかっていったのは、千代先輩なんですが、そのときに何か持ってたような…」
「それだ! 追いかけるぞ!」
「はい、あ…」
「何だ?」
「ここで待ってれば、また流れてくるかも」
「なるほど、まぁ、私はずっとこのままでもいいけどな!」
「俺がよくないです!」
さっきから水着越しではない、柔らかい感触が直に触れているので、そろそろヤバいです。
しばらく無言で抱き合っていると、遠くにクルクル回っている千代先輩が見えてきた。
「あ、来ましたよ!」
っていうか誰にも止めてもらえなかったのか?
「子供の名前は何にしようか?」
「いやいや、まだ早いから! っていうかそんな未来があるかどうかすら、まだ分からないから!」
そこで流れてきた千代先輩の浮き輪を手を伸ばしてキャッチした。
千代先輩はグロッキー状態だったけど、水着はしっかり掴んでいた。
千代先輩の手から水着を抜き取るとさつき先輩に渡し、千代先輩をそっとリリースして流した。
「み、見てもいいけど、見るなよ?」
どっちやねん!
さつき先輩は首にかかる部分を結んでから、それを首にかけ、
ちょっと体を離して胸の部分を覆い、後ろ手に紐を結んだ。
何故そこまで正確に描写できるのかというと、俺は薄目を開けてその様子を見てたから!
だって男の子だもん!
…
休憩を取ろうということになり、一旦みんな集合する。
ちなみに千代先輩は千歳が回収してきた。
「うーん、誰かにぶつかった後から記憶が無い…」
そりゃそうだ、気絶してたからな。
そこで4人は俺から少し離れると、なにやらまた密談を始めた!
時々「思ったより大きい」とか「硬い」とか聞こえてくるけど、だいたい察しは付いてます。
密談を終えると、千歳が俺の肩に手を置いた。
「治ってよかったね!」
「だから! 治るも何も、最初から機能してるって!」
我慢できなくて思わず反応しちゃったんだけど、気付かれてましたか。
「私も頑張ったかいがあったよ!」
「おまえ、何もしてねーじゃん!」
「おまえ?」
「ごめんなさい!」
俺はすぐさま土下座をした。
…
「「ぐーぱーじゃん」」
俺以外の4人でぐーぱーをして、2人ずつに分けてます。
何故かと言うと、ウォータースライダーに乗ろうってことになり、
その組み合わせを決めるためです。
ちなみにこのウォータースライダーの名称は「地獄へのすべり台」です。
このレジャープールのウォータースライダーは、最大3人で乗るボートで滑走するタイプなので、
女子を2-2で分けて、俺が2回乗ることになる。と決まっていた…。
「あんま意味無かった…」
分かれたのは、千代先輩と千歳組と、さつき先輩とさくら組で、本当に意味が無いな!
「平地と山脈か…」
「「平地言うな!」」
さすが姉妹だけあって、息もぴったりだ。
…
「な、なぁ、よしじゅん? か、代わって欲しければ、代わってやるぞ?」
じゃんけんで前から千代先輩、俺、千歳の順に座ることに決まったのが不服らしい。
「…いえ結構です」
「そ、そうか…」
「あれ? ひょっとして怖いんですか?」
「こ、怖くないもん!」
小学生が意地を張るのって可愛いよね、まぁ千代先輩は小学生じゃないんだけど…。
「純くんはラッキースケベを狙ってんじゃないの?」
ラッキースケベとは、例えば、お風呂場で鉢合わせとか、ぶつかった拍子に胸を揉むとか、そういうのだ。
「そんな要素が何処にある!」
「ひど!」
係員の人が俺たちの乗ったボートを軽く押して、滑走スタート。
「ひにゃああああ!」
千代先輩は小学生より小学生っぽい悲鳴を上げた。
着水の瞬間ボートが大きく揺れ気が付くと、千代先輩の小さなお尻が目の前にあった。
幸いというか残念というか、顔に跨るというお約束は無かった。
千歳に至っては、ボートの縁を掴んだまま後ろにひっくり返った状態で、
所謂まんぐり…ごほん…バックドロップされた人のようになっていた。
「恥ずかしい…助けて…」
っていうかどんだけ握力あんだよ! つーかプールに落ちたほうが早いって!
…
さぁやってまいりました、本日のメインイベントです!
順番は、さくら、俺、さつき先輩の順でお願いしたら、快諾してくれた!
じゃんけんじゃねーのかよってツッコミはスルーだ。
係員の人が俺に敬礼しながらボートを押してくれるので、俺も返礼しながら滑走していく。
なんか格好よくない?
「わぁー!」
さくらが歓声をあげる、顔が見えないけど、おそらく満面の笑顔だと思う。
着水するとボートが大きく揺れ、さくらとさつき先輩が近づいてきて、
俺の顔を両側から胸で挟むように抱きついてきた。
うん、もうこれ故意だからラッキースケベではないよね!
千代先輩と千歳の視線が痛かったが、もう死んでもいいと思った!