第11話:妖艶な戦い
短めです。
「はぁ…綾乃ちゃん、可愛かったなぁ、食事はアレだったけど」
「なぁ、千歳、綾乃ちゃんって、この学校に進学とかしたりしないのかな?」
綾乃ちゃんに『せんぱい……ここじゃだめ』って言われたい!
それか『おにぃちゃん……ここじゃだめ』でも可!
何が『ここじゃだめ』なのかは聞かないように!
「はぁ? そんなの知らないわよ」
その『あんた本当にバカなの?』って、蔑んだ目はやめてください!
「冷たいなー、自分とこのメイドだろ?」
「知ってても教えないわよ」
「なんで!?」
「ふん!」
え? あれ? なんで怒ってらっしゃるの?
「…綾乃……殺す…」
不意に右隣から不穏な言葉が聞こえる。
「ちょ、さくら? 綾乃ちゃんのこと知ってるの?」
「知らない…でも……倒すべき…敵…」
「敵って…」
見ず知らずの女子中学生を敵ってどういうことなの?
っていうかなんでこの2人は、朝からこんな機嫌が悪いんだろう? 生理?
「ちがうわよ!」「…ちがう」
台詞が違うから綺麗にハモってはいないけど、同時に否定された。
その時、ドアが開き、みどり先生が教室に入ってきた。
白いYシャツに黒いタイトスカートの、大人っぽい格好がすごく似合わない!
さくら達と同じ制服を着てても違和感ないくらいだからね。
「はい、では綾乃排除…あ、間違いました、ホームルームを始めます」
何その有り得ない言い間違い…っていうかなんで先生が綾乃ちゃんを知ってるの!?
家庭訪問とか無いよね? あったとしてもそこまで怒らせることってある?
…
移動教室のとき、さつき先輩と廊下でばったり会った。
「お、純くん、こんなとこで会うなんて、私たちは強い絆で結ばれてるのだな!」
「ここはどこの秘境ですか!」
「そんなことより、綾乃とやらは強いのか?」
そんなことって…あんたが振ったんだ!
「なんでさつき先輩も、綾乃ちゃんのこと知ってるんすか?」
「直接は知らない、さくらからメールが来てた、ほら」
と言って携帯を開いてこちらに見せる。
-前線基地から作戦本部へ
-索敵の結果、綾乃を発見!
-あ号作戦の発動を要請!
なんだこれ? どこの軍隊だよ! 思わずさつき先輩の手から携帯をひったくる。
「あん、ダメよ…そんな強引に…焦らないの」
なに言ってんだこの人! っていうかそれどんなキャラ設定だよ!
「あ号作戦ってなんですか?」
「知らん、特に気にしてないけど、勢いで書いたんじゃないか?」
さすがさくらのお姉さん! って勢いで打ち合わせてない作戦を発動すな!
あとでさくらに聞いたら、綾乃の『あ』だった
開いていた携帯を閉じようとしたら、どこかに触れて待ち受け画面に戻ってしまった。
その待ち受け画面の画像には、何故か上半身裸の俺の写真が使われていた…。
「ちょ! これなんすか!」
携帯の待ち受け画面をさつき先輩に見えるように突き出す。
「ん? それは見てのとおり君の写真だが?」
『それがなんだ?』って顔してるけど、この写真…カメラ目線じゃない!
良く見ると男子更衣室での着替え途中の写真だった。
「これ…いつ撮ったんすか?」
「純くんが着替えている時だが?」
だから『それがなんだ?』って顔をすんなよ!
いつのか知らないけど、写真を撮ってるやつなんていなかったよな?
「望遠レンズを使って私が撮ったんだ、良く撮れているだろう?」
「それ盗撮って言うんだよ!」
しっかり写っているのは俺だけだから、いいようなものの…。
「授業の合間に見てほっこりしたり、火照った体を沈めるために見たりしている」
うん、余計な情報をありがとう!
ほかの生徒たちが行き来している廊下で、火照った体とか言うなよ!
「ちなみにさくらや千歳ちゃんも欲しいというのであげた、もちろん千代も」
「何してくれてんだよ…」
「でもその写真は1番のお気に入りだから、あげたのは別の写真だがな!」
「別のもあるのか…」
やっぱり風紀委員長がいちばん風紀乱してるよね!
「あげた写真は服を着ているものだから安心しろ」
「安心する要素がねーよ!」
…
放課後、俺は生徒会室にいた、生徒会入りの返事をするためではなく、
例によって校内放送で呼び出されたから。
「なぁ、よしじゅん? まだ生徒会に入るか、風紀委員会に入るか決まらないのか?」
「はい…まだ」
「あのね、吉岡君、女の子は焦らし続ければいいというものでもないのよ?」
「は、はい」
さえちゃん先輩がいつになく真剣な表情で諭すように話す。
「いい? たまには触ってあげないと、乾いてしまうのよ?」
「は、はい…え?」
何の話?
さえちゃん先輩はさきほどの真剣な表情とは打って変わって、
いつもの何かを楽しんでいるような表情に戻っていた。
「私も吉岡君が生徒会に来てくれると嬉しいんだけどな…」
さえちゃん先輩の頬は少し赤く染まっているように見えた。
その初めて見る表情に一瞬ドキッとしてしまう。
「いろいろなところを使って、いろいろ仕込んであげたいわ!」
「そ、それは遠慮します!」
やっぱりいつものさえちゃん先輩だった!
「い、いろいろ仕込むのは私の役目だ!」
「さつき先輩もそこで張り合わないでくださいよ」
「あら、さつきに男の子の気持ちいいポイントが分かるのかしら?」
「知らん! でもこの胸があれば…」
さつき先輩は、豊満な胸を見せ付けるように揺する。
「胸が大きいだけでは、男の子を満足させてあげられないわよ?」
「そ、それは…」
えーと、なんだろ、完全に話が横道に逸れてる!
ふと千代先輩を見ると生徒会長の机で、くぅくぅと可愛い寝息を立てて寝ていた…。
さえちゃん先輩とさつき先輩の不毛な言い争いが続く中、俺は生徒会長の机の横に椅子ごと移動し、
千代先輩の頭を優しく何度か撫でた。
「ん…」
千代先輩は少しだけ身動きしただけで起きる様子は無い。
そろそろはっきり決めないといけないかも知れないけど、もう少しだけ今のままでいたいと思った。