第10話:豪邸の食事
私服に着替えた千代先輩と千歳は、さすがというかイメージが格段に変わる。
「あれ!? 千歳いつ着替えたの?」
「は? さっき着替えに行ったじゃん」
「え…なにそれ…知らない…」
「っていうか何でそんな落ち込んでるのよ?」
「お、お、俺…」
「な、何なのよ」
ここ重要! 諸々の気持ちを代弁する。
「覗いてない!」
「死ね! ううん、おととい死んで来やがれ!」
ここでゾクっと来た人はMの素質があります!
「っていうか覗かせろ! いや見せろ!」
千歳のスカートの裾を掴んでめくろうとするが、思いのほか千歳の力が強くめくれない。
「よしじゅん! 私のなら見せるぞ?」
「幼女のパンツを見て何が楽しい!」
「んな!?」
千代先輩はへたり込み、床の絨毯に『の』の字を書き始めるが、
いまはそれどころではない!
「じゅ、純くん、じゃ、じゃあ上だけ見せるから!」
「ぺたんこなブラを見て何が楽しい!」
「んな!?」
千歳はへたり込み、床の絨毯に『の』の字を書き始める。
スカートはめくれ白いパンツが見えている。
「千歳さーん、パンツ見えてますよ! 丸見えですよ?」
「…もう…どうでもいい」
姉妹撃墜で俺は懇親のガッツポーズをするが、
後で復活した千歳にボコボコにされたのは言うまでもない。
…
「全身が痛い…」
「当たり前だ! 千歳にあそこまでして生きてるのが不思議なくらいだ!」
床の絨毯に膝枕で俺を介抱しながら千代先輩は小声で囁く。
その千歳さんは雑誌を読みながら、フカフカなソファーに座って
優雅にティーカップを傾けてます。
さっきは鬼の形相で、いや、鬼も裸足で逃げ出す形相だったのに。
「何か言った?」
「いえ何も!」
こえぇ! 不動明王みたいなオーラが見えました!
「なぁ、よしじゅんも強いのだろう?」
小首をかしげる千代先輩は、小柄な身体で膝枕しているから顔がめっちゃ近い!
「強いかどうかはともかく、女子に手は出せないし、そんなとこで空手は使えないですからね」
「おお! 無駄に男前だな!」
「無駄言うな! っていうか何で顔真っ赤なんすか?」
千代先輩は顔を真っ赤にして、何故かもじもじしている。
「なぁ、よしじゅん? 私の婿に来ないか?」
「話が飛躍しすぎ!」
「もしくは、にくどれいでも…」
「さらに飛躍したから! 2段飛びしてるから! って意味分かってないでしょ!?」
「やっとよしじゅんに、ツッこみの切れが戻った」
あれ? もしかしてワザとボケてたの? いやいや千代先輩に限ってまさかね。
「それより水飲むか?」
いつのまにか千代先輩は手に水の入ったペットボトルを持っていた。
「あ、はい」
膝枕の体勢では難しいので、起き上がろうとすると、何故か千代先輩がペットボトルの水を飲む。
「あんたが飲むんかい!」
と思いきや、口に水を含んだ状態で千代先輩の顔がどんどん近づいて来る。
「あれ?」
もしかして伝説の口移しってやつ?(伝説ちゃう)
寸でのところで千代先輩の頭を掴んで止める。
「何考えてんすか?」
「いばぁいぼば(痛いのだ)」
「キタナっ!」
飲めばいいのにそのまましゃべるから、思いっきり俺の顔に吐き出しやがった。
「それより何してんすか?」
「こないだ見たアニメで、介抱するときに口移ししてたから、それが作法だと思って…」
「作法じゃないから!」
「じゃあ口付けなければ問題ないな!」
千代先輩は有無を言わせず再びペットボトルの水を口に含む。
また顔に吐き出されても困るし、ここは罰と思って甘んじて受けよう。あくまでも罰だから!
実はさっき吐き出された時、既にちょっと飲んじゃってるしね。
千代先輩の唇と俺の唇が数センチ離れた位置でキープされる。
そして千代先輩から幼女の黄金の雫が…もとい、
すぼめた唇から水がポタポタ落ちてくるのを、口を開けて受け止める。
何だろうこの背徳感! 仰向けに寝てるから、腰を引いてごまかせないので、
思わず立て膝になっちゃったよ! 理由は聞くな!
「んな!? なにしてんの!」
「ばびぼ(なにも)」
ええ、もうね予想してたので、1滴も残さず大切に飲みましたよ!
少し甘い味がした気がして、非常においしゅうございました!
「わ、わたしもそんなプレイはまだしてないのに…」
千歳さんがプレイがどうのって何かブツブツ言ってらっしゃる!
「千代先輩はな、俺を介抱してくれてただけだ!(キリッ)」
「顔びちょびちょで何言ってるのよ!」
そうでした! 最初に千代先輩に吐き出された水を、拭いていませんでした。
「千代先輩ー、千歳が虐めるよー」
千代先輩の細くて平らな胸に泣きつく。
「よしよし、あっちでトランプでもしような」
千代先輩の小さな手に引かれて部屋の奥のほうにあるソファーに座る。
って部屋に2つソファーがある時点でおかしいだろ!
「ちょっと…私も交ぜてよ!」
「いや千歳は、そっちでキータイプをしてろ」
「ティータイムな!」
キーボードだけを打ちまくってる千歳さんの図はシュールだから!
…
千代先輩とトランプで遊んでいると、メイドさんの1人が夕飯を告げにやってきた。
ちなみにこのメイドさんは綾乃ちゃんと言って、
まだ中学生だが家庭の事情で学校が終わると、メイドとしてここで働いているらしい。
いつもならここで帰るが、金持ちの食事がどういうのか気になるので、お呼ばれすることにした。
「綾乃ちゃんは毎日ここで働いているの?」
「はい、そうですけど…?」
「そっか偉いね」
健気な綾乃ちゃんに思わず頭を撫でてしまった。
「ひゃあ! よしおかさま、くすぐったいですぅ」
「吉岡様じゃなくて、純君でいいよ?」
呼ばれなれてないからめっちゃ落ち着かないんだよね。
「そんな、私が怒られてしまいます!」
「俺がいいって言ってるんだから大丈夫! 千歳いいよな?」
「いいんじゃないの…」
千歳は呆れた表情していたが、気にしない。
「ほら、大丈夫だよ」
「はい」
「じゃあ、呼んでごらん?」
「は、はい…じゅ、じゅんくん」
うは! 年下に君付けで呼ばれるのって良いよね!
「綾乃ちゃん、もっかい」
「じゅ、じゅんくん」
「綾乃ちゃん」
そして2人同時に笑い合う。
綾乃ちゃんといちゃいちゃしている俺を、千代先輩と千歳は半眼で睨む。
「「ロリコン…」」
「ちょっと待って! 千代先輩のが綾乃ちゃんより年下に見えますから!」
「じゃあロリコンで合ってるじゃん!」
「え、なんで……って千代先輩はもじもじしない!」
…
「あ、じゅんくんは、こちらにどうぞ」
左端から、千代先輩、千歳、俺、綾乃ちゃんの順で着席する。
千代先輩の左手側にある主席と思われる場所と、向かい側の席は誰もいなかった。
「今日は旦那さまと、奥様、大奥様は仕事でいらっしゃいません」
綾乃ちゃんが教えてくれる、普段メイドはこの席には座れないらしいが、
今日は、俺の給仕役ということで特別らしい。
まず1人1人にサラダが運ばれてくる。
もしかして、フランス料理? イタリアンかな?
「はい、じゅんくん、あ、あーん」
「っ!?」
綾乃ちゃんがサラダを食べさせてくれるなんて、なんという幸せ!
「あ、あーん」
うん、サラダの味は特筆するほどのものではないが、綾乃ちゃん分おいしい気がする。
なんか恋人とレストランに来ている気分!
「ひっ!」
不意に綾乃ちゃんが怯えた表情をしたので、視線を辿ると千歳が物凄い形相で綾乃ちゃんを睨んでいた。
しかも何かブツブツ言ってるので、耳を近づけて聞いてみると「綾乃殺す!」を連呼してました!
「年下を脅すな!」
千歳の額に軽くチョップを食らわせてやると、正気に戻ったようだ。
続いて運ばれてきた料理は、ライスだった。
「?」
何故ライスだけ? おかずなし?
更に運ばれてきたのはカレールーだった…。
「よしじゅん、かれーらいすって知ってるか?」
「知っとるわ!」
「な、なん…だと! 家だけのものじゃなかったのか…」
千代先輩…どんだけ世間知らずなんだよ!
さえちゃん先輩も苦労が絶えないだろうな、だから俺に押し付けようと…。
「なんだよー、豪邸だから凄い料理を期待しちゃったよー」
「じゅ、じゅんくん! 本音が漏れてます!」
「ん? もうどうでもいい…」
ライスにカレールーをかけて、ぐちゃぐちゃ掻き回して食べ始める。
「じゅんくん……目が死んでます!」
新キャラ綾乃ちゃんは今回のみの登場の予定です。