〜57章〜 籠の中の鳥
ゼロが世界へ向けて言葉を発信してから一週間が経過した
国や企業は、彼等を恐れていた。それも全て、一年前の虐殺がまだ人々の脳裏に焼き付いている証拠だろう。
ー東京中央大学ー
成美「変わったな」
雄大「・・・」
雄大は聞き返さなかった。それは、雄大自身が一番気づいていた事だからだ。
一年前のゼロは、まさにテロリストという感じだった。ありとあらゆるモノを破壊し全てを無に返していった。しかし、あの放送から一週間経った今では、彼等は非道な組織や団体にのみ破壊活動を行っていた。こんな事、一年前にはなかったことだ。今のゼロは、善悪の基準を持っている。そう、雄大は思った。
しかしそれは、あくまで個人的見解に基づく善悪の基準にすぎない。
成美「俺さぁ、嫌いじゃないんだよねぇ」
鳴「それって、あの犯罪者のこと言ってる?」
鳴は、少し睨みつけるように成美を見ていた
成美「あぁ、昔のゼロってさほんとただの人殺しだなぁって思ってたのが、今じゃどうだよ」
成美は、今朝の朝刊を広げた。
そこには「悪の権化をたたった切るゼロ!現代に蘇りし仕置き人!」と書かれた一面が大きく載っていた。これについて、世論は真っ二つに意見が別れていた。一年前の罪がある以上、結局は彼等は犯罪者であり今現在も力によって悪を叩いたのであれば、所詮はその悪と同じという意見。
はたまた、法で裁けない悪を裁いているので良しとしろという意見。事実、ゼロが起こしたこの一週間の行動で救われた人や企業もある。
鳴「彼は犯罪者よ」
成美「けどさ、いいじゃん!こういう、組織に囚われないで悪を叩けるのってさ!俺達は、将来検事になるかもだけどさ、所詮は法律の中でしか戦えない。けど、ゼロは違う。法ではどうしようもない事をできる」
鳴「必要悪だとでも言うの?」
成美「ま、そうかもね。雄大はどう思う?」
雄大「・・・やはり、彼のやり方は間違ってる。確かに彼に救われた人がいるのは事実だろう。だけど、その方法は決して正しいものじゃない。そして、その助かった人も別の方法で救うべきだった。どれだけ時間がかかろうとも正当な手段で周囲の賛成が得られる事で行うべきだったんだ」
成美「それで、救えなくても?」
雄大「それなら、その人は救えないんだろう」
成美「冷たいなぁ、意外に雄大って」
その言葉を遮るように言う
雄大「だから、俺が救ってみせる。法では救えないならその法を変えてしまえばいい!!」
成美「うわ、」
鳴「ふふ、雄大らしい」
成美「そんな、無茶な話があるかよぉ」
雄大「無茶だろうと、やるんだよ」
鳴はくすっと笑った
鳴「雄大らしいじゃない」
雄大「よっし!!失踪事件やるか!!」
ーパンドラ組織内ー
クロノス「・・・」
クロノスは、黒い肘掛け椅子に座りまぶたを抑えていた
三四「疲れてるみたいね」
クロノス「・・・ぁあ、」
クロノスは、三四のほうを見ずに天井をただ見ていた
クロノス「・・・道化か、」
三四「・・・?」
ビーーーーーっと扉の向こうから音が鳴る。クロノスと三四は、すぐに仮面とフードを被った。
「ご報告にあがりました」
声が扉越しに聞こえる
ゼロ「入れ」
アトラス「失礼します」
アトラスは持ってきた書類等をゼロに手渡す
ゼロ「ご苦労、引き続きこれと同じで構わない」
アトラス「かしこまりました。それと、例の件どうなさるおつもりですか?」
ゼロ「・・・」
パンドラが本格的に動きだした事をみて、警察も本腰を上げつつあった。しかし、今回の行動は一年前とは大きく異なっていた。そこで政府は、パンドラに対して意見交換の場を設けたいと申し出てきた。表向きは、レセプションという名目だが、実際その場に行き警察の大捕物なんて事にもなりかねない。犯罪者を迎えるにあたっては、国民からの賛成多数で可決した。黒神首相はその辺抜かりがない。もちろん、その場に行く時はパンドラは丸腰で行かなくてはならないが。
クイーン「まさか、行くなんて言わないわよね」
ゼロ「・・・」
クイーン「ちょっと本気?そんな所へのこのこ出て行ったら捕まるわよ?」
アトラス「一年前とは逆ですね」
そう、一年前にもレセプションは行われた。ホストは逆だが、ゼロが客人をもてなし宴のようなものだった。
ゼロ「・・・私を含めた数名でそこへ行こうと思う」
クイーン「ちょ、」
アトラス「かしこまりました」
クイーン「アトラス!貴方、止めなさいよ」
クイーンは、アトラスに突っかかる
アトラス「申し訳ありません。いくらクイーンのご命令といえど、ゼロのご指示には逆らえません」
アトラスは一礼し去って行った
三四「ちょっとどういうつもり!?こんな事、計画外でしょ!」
クロノス「分かってるさ、・・・だが、」
クロノスはうすら笑みを浮かべていた
クロノス「ピエロもたまには紐を切って自由に空を舞いたいんだよ」
終夜「はぁ?ボランティア?」
水葬「そ、いこうぜ!!最近、お前元気は無いし、怒ってるしさぁ。身体壊すぞ?」
今馬「確かに、一理あるな。今回のボランティア先は俺が用意した。気は乗らないだろうが、いって来いよ」
鎌足「今馬が用意したってなにを?」
今馬「俺の祖母の友人が園長をしている幼稚園でな。なんでも、若い労働力が欲しいらしい」
終夜「・・・ぇー」
水葬「行こうぜぇ!!」
終夜「はいはい、分かったよ」
まぁ、気分を変えるには少し非日常があってまいいかもな
ー七つ星幼稚園ー
園長「まぁまぁ、よくきてくれました!みなさん頼りにしてますよ!」
園長は、満面の笑みで迎えてくれた
園長「こちらが、あなた達と同じでずっと手伝ってくれてる真夜さん!」
黒のセーラー服にピンクのエプロンをきた無表情の女がいた
真夜「・・・よろしく」
水葬「あ、あの子だ」
今馬「よろしくお願いします!」
鎌足「よろしくっす!!」
終夜「・・・・・」
早くも胃がねじ切れそうだ