〜55章〜 あの日から君は
『雄大はさ、将来なにになるの?』
『俺は、将来必ず検事になる』
『凄い夢だね!!』
『夢じゃないよ、目標だよ。俺はさ、世界を変えたいとかそんな大層な事じゃなくて、もっと一人一人と関わってその人たちの思いを法廷で代弁できるような検事になりたいんだ』
『それでも、大きな夢だね!・・おっと、目標か』
『はは、』
あの頃の俺は、自分一人でなんとかなると思ってたのかも知れない。中学生という幼さで世間からもてはやされ、無月村の事件を解いた事で、俺の事は全国的に広まった。
幼さゆえの、過ちだろうか。いや、自身を過大評価していたのか。
結衣は、俺にとってなんだったのだろうか
この時も、そして今もその答えはでずにいた
結衣「久しぶり」
雄大「・・・あぁ、」
結衣「どしたの?幽霊でも見た顔しちゃってさ」
雄大は、驚きを隠せずにいたが、覚悟を決めて聞こうとした
結衣・・・お前、あの時の事で俺をーーー
「おーい、結衣?」
結衣「あ、秀人」
秀人「おぃ、勝手に先々行くなっての。俺まだこの辺詳しくねーんだから」
結衣「はいはい、ごめんねぇ」
秀人「えっと、こちらさんは?」
秀人という男は、誠実そうな男で、体格がよくなにかスポーツをしてるみたいだった
結衣「あたしの中学生の時の同級生」
秀人「あ、そうなんですか。初めまして、櫻井秀人です。結衣とは、高校からの友達なんです」
結衣「で、こっちがーーー」
結衣が紹介しようとした言葉を遮り雄大は言った
雄大「田辺雄大です。こんにちは」
成美「成美でぇーーす!」
鳴「薬師子鳴」
成美と鳴は相変わらずの自己紹介の仕方だった
秀人「あ、ほんじゃあ久々に積もる話もあるだろうし俺家戻ってるわ」
秀人は結衣の頭をポンと叩くと去って行った
結衣「ちょっと、家までちゃんと戻れる?」
秀人は、前を向いたまま片手だけで返事した
鳴「雄大、先に行ってるわ」
成美「ほんじゃまぁ、ごゆっくり」
二人も気を使ってくれていなくなった
各々の姿が見えなくなるまで、俺と結衣はお互いに無言だった。そして、姿が見えなくなるとーーー
雄大「仲いいんだな、秀人さんと」
結衣「まぁ、高校からの付き合いだしねぇ」
秀人は友達と言ったが、雄大の目にはそうは映らなかった。
男と女の関係
だからといって、自分がなにかを思ったり考えたりする自分自身に苛立ちを覚えた
自己矛盾
・・・はは、なにとなにでだよ?
雄大「秀人さん、家って言ってたけどこの辺詳しくないって・・・」
結衣「あぁ、今この辺にあたし住んでるんだ。それで、秀人が遊びに来るって言うからこの辺案内してたわけ。あ、家ってあたしの家ね」
雄大「はは、男連れ込むとか結衣も大胆になったんだなぁ」
茶化すような遠回しの聞き方をする自分に嫌気がさしたが、意識してないプライドや見栄が混在してしまう聞き方
結衣「ん?そっかなぁ、普通じゃない?」
秀人という男を家に迎え入れることに対して、なんの抵抗もない。その言葉にどこか心臓をわし掴みされたような気分になった
雄大「はは、そっか」
結衣「・・・」
結衣は、真っ直ぐと雄大を見つめていた。雄大はその視線に耐えきれずに、地に目をやる。
違うだろ?
もっと聞くべきことがあるだろ?
今はなにしてる?
秀人とは本当はどうなんだ?
この辺に住んでるって一人暮らしか?
元気にしてたか?
たくさん質問したいのに、雄大の口は恐ろしいほど乾いていた
いや、俺が一番聞きたいのはそんな事じゃない!!
俺はーーー
結衣「じゃ、そろそろいくね」
雄大「・・・あぁ、元気でな」
出てきた精一杯の言葉がこれだった
失望にも似た感覚が雄大を襲う
結衣は、軽く手を降ると秀人が去って行った道を戻って行った
雄大「・・・もう、ないんだな」
『雄大、またね!!』
あの時、あたりまえだと思っていた言葉。今の俺にはもう向けられない。
俺は、期待していたのだろうか。
またね・・・か
その言葉は既に過去のものだと教えるように今の暑い日差しが俺に降り注いでいた