〜53章〜 洋館
ー翌日ー
長く続いた台風が去り、久々の天気だった。時刻は朝の七時半
熊谷「え?洋館に行くだって?」
雄大「はい、今からです。」
熊谷「危険だよ、だってーーー、」
雄大「これを持っていてください」
熊谷「これは?」
雄大「ポケベルみたいなものですよ。これが鳴ったら、僕が危険にさらされたと思ってください。それなら、警察も動けるでしょう?」
雄大は笑った
熊谷「あぁ、ありがとう!」
組織の中で動く熊谷には、学生の身で自由な雄大が少し羨ましく映った
動きたくても動けない
辛いな・・・
雄大、成美、鳴の三人は成美の車で移動中だった。随分と走り、一本道に入り山の上を登りながら洋館を目指すと民家はなく周りは森に囲まれた道だった
成美「雄大、この前みたいに無茶するなよ?」
雄大「この前?」
鳴「結婚式の事よ」
成美「頼むぜ、たくよぉ」
あの戦いーーーーー、
『僕は、猫語愛再。十四歳だよ!!』
『楽しかったよ!名も知らない誰かさん!』
『ぁぁぁああああああああああ!!』
雄大「大丈夫だよ、」
この二人に心配はかけたくない、絶対にあの日のような二人を泣かせたくはないんだ
だが、異常に強かったあの子はいったいーーー
車で一時間ほどでついたその洋館は、ツタが外壁を覆い、所々窓ガラスは割れ人が住んでる気配などなかった
鳴「化け物屋敷」
鳴はジト目で言った
雄大「おぃおぃ」
納得はするけども
成美「んー、これ入れんの」
雄大「・・・どこかに入れそうなところは」
「あんたら、なにしてる」
随分と年のいったご老人が話しかけてきた
雄大「・・・ここに今誰か出入りしてますか?」
「いんや、ここはずっと前から無人だ」
鳴「無人」
成美「ハズレか」
雄大「いつぐらいからですか?」
「さぁ、わしが引っ越してくる前だから、三十年以上は前だと思うがね」
雄大「ありがとうございます」
成美はその老人が去って行くと呆れたように言った
成美「ハズレ~、ぶぶー」
鳴「雄大?」
雄大「見ろよ、これ」
鳴「え?」
雄大は、門前から中を指差した
雄大「三十年以上は無人、つまりは人が入った形跡はない。だが、この草を見る限りそんな事ないと思うぜ」
成美「うわ、ほんとだ」
洋館の周りには草が膝ぐらいまで伸びているが、洋館へ通じる道の草は明らかに踏まれた形跡がありそれが道のようになっていた
成美「てことはビンゴ!」
鳴「待って、不動産関係の人か管理会社の人が入ったのかも」
雄大「確かにな、その可能性もある。だが、ここの管理をしている企業を調べたがここにきたのは三ヶ月以上も前の事だ。それにしたら随分と草の倒れかたがおかしくないか?」
成美「最近できたっぽいもんな」
鳴「でも、急に来ることになった会社の人がいたかも」
雄大「あぁ、俺もそこまでは思った。けど見て見ろよ。ここまで俺達は成美の車で来た。およそ一時間ほどだ。そして、この洋館までは途中から一本道だったろ?何十分前から一本道か覚えてるか?」
成美「ん?えーと」
鳴「三十五分」
雄大「あぁ、その通り。ここまで徒歩で来るのはかなり無理がある。そして、クルマで来たなら俺達以外にもタイヤのあとが残っててもいいはずだ。だが、それがない。」
成美「頑張って徒歩で登ったかもよ?」
雄大「ここ最近の天気覚えてるか?」
成美「天気?ーーー、あ!」
雄大「ここ一週間、南からの大型台風が近づき交通機関が麻痺するほどの自然災害だった。そんな中で、ここまで徒歩で来るのは自殺行為だ。ま、車でも同じことが言える」
成美「つまり、」
鳴「ここ一週間、ここに来ることは不可能だったにもかかわらず、草の倒れたあと」
雄大「ま、それても来る人は来るんだろうからわかんねぇな。ははは!!」
成美「なんだよ、それ」
成美が笑って答えた
鳴「・・・」
鳴はこの時、少し険しい表情をしていた
もしかしたら、俺と同じく気づいたのかもしれない
雄大「とにかくだ、出直そう」
成美「へいへい」
鳴「雄大、(ボソッ)」
雄大「分かってる、今は帰る事に専念しよう。なるべく、普通にだ」
鳴は、黙って目で納得し車内へと入って行った
雄大「・・・」
雄大は、後部座席から洋館が見えなくなるまで見ていた
草の倒れについて、気づかないふりをしたほうがよかっただろうか。いや、あんなあからさまな事は気づかないほうがむしろ不自然だ。あのくさい芝居で間違いはないはずだろう
成美の疑問はあんな説明がなくても解決する事はできた
だが、あの場では理屈をこねて最終的に分からない風を装うのが得策だと考えたからだ
一週間前から大型台風が近づきこの辺りは水路が近く警察による通行止めになったと熊谷さんに聞いた。その通行止めはこの一本道を塞いだそうだ。そして、今俺たちが下っている一本道しかここへは来れない。つまり、絶対にあの洋館には立ちいる事はできない。そして、草が倒れていたあれは間違いなく台風が過ぎ去った後にできたものだ。俺達がここへ来たのは七時半、通行止めが解除されたのが深夜2時ごろ。なのに車のタイヤの後はなくあの草は倒れていた。
無論、深夜に元気な若者が歩いてここを登り、自分の足跡を消してあの洋館に入ったとも考えられる。
だが、これこそおかしな話だ。
深夜に、通行止めが終わったそのタイミングで、使われてもいない洋館に歩きで来る?
なんの目的でこんな山奥まで来る?
そいつは、一般人じゃないだろう。だから、この可能性はほぼない。つまりだ、
あの洋館には必ず誰かが住んで出入りしている
だが、それ以上に不可解な事が一つある
あの老人・・・どうやってここまで来た?
さっきも言った通り、ここには車で来るしか方法はない。若くて体力がある奴ならこの山路を登る事も可能だろう。しかし、杖をつき腰が弱そうにしている人間がここまで徒歩で来るのは不可能だ。もちろん、台風が過ぎ去った後に車で来たのは俺達が最初だろう。なにしろ、車のタイヤの跡が成美の車だけだった。
つまり、あの老人があの場所に来て俺達と会話するのは不可能なんだ。
あの洋館にはなにかある