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静止の魔女アリシア  作者: 池乃アザラシ
1章.魔女との激闘
8/8

7.静止と加速


アリシアは自らが凍らせたアベルを見つめる


その視線に呼応して彼の瞳だけが、微かに動く


止まりきっていない...加速の魔力が、内部で抗っている?


「あなた……」


彼女は更に強い興味を抱く...

あの騎士も意志の力で動くことができたが彼には直接触れていない。


アリシアが触れたものは皆等しく制止する。

呼吸も、血流も、思考さえも....


三百年で初めて自分の静止に抗う存在にアリシアの好奇心は強く刺激された。


「どうして、止まらないの?」


アベルは全身の魔力を暴発させる。


「三重加速」


血管が裂ける感覚と共にアベルの全身が更に加速する


制止の魔力が作り出す領域に大きな亀裂が入る。


アリシアは咄嗟に領域を解除しアベルから距離を取るため飛び退いた。


アベルの身体から赤い煙が流れ出る

加速によって耐えかねた血管から血が煙となって吹き出しているのだ


「……化け物だな」


「お互い様よ」


アベルは、掌に三本の銀杭を握る


刻印――“流転”


"流転"は加速とは異なり一度加えた運動エネルギーを

その刻印が刻まれた物質の中で循環させるという性質を付与するものである


先の"加速"で静止の魔法が止めていられるエネルギーに限度があることがわかっている。

つまり運動エネルギーを常に供給し続ければ静止の魔力を打ち破ることができるのではないか?


さらに懐から小瓶を取り出す。


濃縮魔力薬。


躊躇なく飲み干す。


血管が熱を帯びる。


視界が澄む。


「本気で来い、魔女」


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



アリシアは迷っていた


自身が触れても止まらない...

触れ合っても死なない初めての存在である彼をどうするべきなのか、自分がどうしたいのか....



そんな悩みが彼女の心をシクシクと蝕む中、アベルのボルテージが上がる。



「本気で来い、魔女」



彼から向けられた明確な殺意に久しく忘れていた生存本能が刺激される。


コイツは私を殺し得る敵である...と


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



アベルは急激に冴えていく感覚の中であることに気がついた。


静止の魔女の放つ静止の力は直接触れる以外にどのようにして自身に影響を及ぼしているのだろう?


静止の魔女本人から周囲の魔力へと意識を向ける....


魔鉱石....


「そうか、魔鉱石を触媒として静止の領域を構築していたんだな」



静止魔法の秘密その一端に触れられたことでわずかにアリシアの魔力制御が乱れる....


その隙はアベルにとっては充分過ぎるものだった


「四重加速」


筋肉の収縮を加速し、身体の限界を超えた速度へ到達する。


速さとは力もとい重さである加速によって生まれたエネルギーをアリシアへ...ではなく魔鉱石へとぶつける


地面が割れた


と形容するのが正しいだろう魔鉱石の破壊により彼女が空間へと干渉していた静止の魔力は消失した。


「これで静止の魔法は使えなっ....」


失念していた彼女は対象に触れる事でも静止を付与していた。その触媒はどこから来たものなのか.....


「まさか体内にあるとはな...」


服のはだけた静止の魔女の胸元には一際純度の高い魔鉱石が埋め込まれていた。


「あなたは、何者なの?どうして私の...."静止"を振り解けるの?」


「命令を遂行するために」



本当にそうなのか?

自身の中に生まれた疑念に蓋をする。


「まずはこの"静止"を振り解かないと考えてる暇なんてないよな」


いつかの時に自身が言った言葉が脳裏をよぎる


『血液は魔力の源だからな』


加速しろ....己の血流を


「五重加速」



細胞が溶ける感覚を感じる


骨が軋み、血が吹き出す...だが


刃は届く


静止の魔女の喉元に.、短剣が触れる


"流転"によって循環させられた「五重加速」のエネルギーが静止の魔力に衝突する........


パリィィィン







世界が動いた


森が再び風を取り戻す


凍っていた枝葉が揺れ、魔獣の咆哮が遠くで響く


静止は、破られた






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