5.嵐の前
森の奥で、魔獣が唸る
巨大な狼型の魔獣が姿を見せる
討伐隊の生き残りに飛びかかる。
「ヒッ....!?お、お助けくださいぃ!!!」
いつの日かに聞いたものと同じ命乞い
彼女は急速に彼らへの関心を失っていった
魔獣による討伐隊の蹂躙...それを彼女は止めない。
森は彼女の領域
侵入の代償は支払わせる
再び静寂を取り戻した森の中でアリシアは先刻対峙した騎士を思い出す
―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
アリシアは歩く
止まった兵士の間を、ゆっくりと。
鼓動を、止める。
指先が胸に触れる。
――静止。
一人、また一人。
動かなくなった身体が倒れる音さえ、遅れて響く。
彼女は感情を揺らさない
怒りも、憎しみもない
ただ、侵入者を排除する。
「どうして……こんな力を……」
静止の魔法の範囲内にいながら僅かながらに動くエスパーダにアリシアは驚いたように眼を瞬かせた。
「あなたたちが、望んだから」
鈴の音色のような声色がエスパーダの耳を揺らした
アリシアは何十年、何百年ぶりかの会話の中で遠い昔の日々を思い出す
研究者たちの叫び
炎の匂い
拘束具の冷たい感触
時間を止める実験
終わらない命
迫害
魔女と呼ばれた日
「王国のために――!」
初めて明確な隙を見せた魔女にエスパーダの最後の力を込めた剣撃が迫る
すんでのところで我に帰ったアリシアは紙一重で剣撃を避ける...が、僅かに手先を掠める。
アリシアは尚も動こうとするエスパーダの胸に触れ...
「王国も、裏社会も、お前たち人間は皆同じ」
欲望を持つものはいつも同じ眼をしているのだから。
アリシアは魔女と呼ばれるようになって、人間から手傷を受けたのはいつ以来だろう。
と思いを巡らせながら静止の魔法に意志の力で抗い己に傷をつけた男のことを思い出していた。
アリシアは空を見上げる。
「……退屈」
感情は希薄
だが知的好奇心は消えない。
王国はまた来るだろう
裏社会も諦めない
その中でひときわ異質な魔力が、森の外縁に近づきつつあることを、彼女はまだ知らない。
止められないほど、速い魔力。
――加速。
静止の魔女の棲まう森は、次の侵入者を待っている




