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静止の魔女アリシア  作者: 池乃アザラシ
1章.魔女との激闘
5/8

4.静止の魔女

森は、生きている。


王国の北東――《悪魔たちの棲家》。

幾重にも絡み合う巨木の根、濃密な魔力を孕んだ霧

そして地中に眠る蒼く輝く魔鉱石


その中心で、アリシアは目を開けた

腰まで届く黒髪が、風もないのに揺れる。

外見は十八ほどの少女。

だが、その蒼い瞳の奥には底が見えないほど暗く深い時の重みが刻まれていた。


「……また来るのね」


森の外縁...鉄鎧の擦れる音、魔力の脈動そして規律正しい足並み


王国討伐隊...


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



王国より進軍してきた討伐隊はこれまでの長い歴史の中でも最大級の規模と質を誇っていた


冒険者ギルドより、Aランク冒険者三名、Bランク冒険者五名、その他Cランク以下の冒険者百名以上

Cランクを越えれば中堅冒険者と言われる中でこれだけの人材を投入したギルドの本気度が伺える陣容である。


騎士団からは魔力を全身に巡らせ身体強化をする"流法"を習得した近衛騎士十名

そしてその部下である騎士五十名を派遣しており


もはや国家同士の戦いを想定しているかのような戦力を投入している


これだけの戦力を揃えても"静止の魔女"の棲む森の深部へと進むためにかなりの犠牲を覚悟していた...だが



「おかしい、余りにも静かすぎる」


近衛騎士次席であるエスパーダがそうぼやくのも仕方がないだろう。

森に侵入して三十分ほど行軍を続けているが未だ魔獣が一匹たりとも出ていないのである。

これは王都の大通りで人を見かけない事と同様に明らかな異常である。


まるでこれから起こる天災を予知して逃げ出したかのような....


刹那、エスパーダは驚愕する


「全体っっ!!!止まれぇぇいぃ!!!」


何故?何故気がつかなかったのか?

それほど自然に、当たり前のようにソレは目の前にいた


見た目は二十歳にも満たない少女だ

しかしその少女から目を離せない。

恐ろしいまでに整った美貌とその一本一本が意思を持っているかの如く美しく揺れる黒髪、そして湖の底のように深く暗い蒼の瞳。

人の形をしているのに人外としか言い表せない異様な存在感を持つ少女がそこにいた。


エスパーダは剣を掲げる


「恐るな!相手は魔女一人だ!適正魔法ごとに陣形を組め!」


火炎、氷結、暴風、水流、石塊――実戦級の魔法を扱う者たちが術式を練り上げる。


「目標は前方二十メートル"静止の魔女"は氷結魔法を常用するという報告がある、広域火炎術式用意!!」


「放てぇぇ!!!」


「「「アル・フレイム!!!」」」


地面に刻まれた陣が輝き世界を焼き尽くすかのような豪炎が立ち上る


Aランク冒険者であるケット・ルーは猫人族唯一の冒険者としてこれまであらゆる大規模討伐に参加してきた。

赤竜レッドドラゴン地底竜アースドラゴン

の討伐にも参加しその火魔法への類稀なる適正から多大なる戦果をあげてきた。


そんな彼女をしてこれほどの規模の広域火炎魔法を発動することは初めての経験であった。

まして相手は強力な魔獣ではなく人の形をしたものである。


術の行使前は人型にこれほどの魔術を行使することに多少の罪悪感を感じていたのだが、発動してしまうと全てを燃やし尽くしてしまっては討伐した証拠が残らないではないかと邪推してしまうほどに圧倒的な火力であった。


「え、、、うそ」


彼女が驚くのも無理はない。

あらゆるものを焼き尽くす筈であった業火が凍りつき赤から白へ、氷の花となって砕け散ったのだ


あり得ない、あり得ないのである

基本、魔術を完全に打ち消すには相克の属性の同規模の魔術の行使が必要となる。


つまりあの業火を打ち消すには同じ規模の水魔法をぶつける必要があるのだ


しかしあれほどの規模の業火に匹敵する水魔法を、個人で行使するなど不可能である。

出力だけの問題ではない。

魔法の行使には手や指から魔力を成形し、イメージを具現化するのである。


どれほど優秀な魔術師であろうと指は十本しかない

異国の地では足で術式を組むことができる魔術師もいるそうだがその程度の違いもこの規模では誤差である。


「あり得ない、あり得ないニャ」


焦りすぎて故郷にいた頃の語尾が出ていることにルーは気づかない


少なく見積もっても五十人、それにAランク冒険者である自身も魔力を込めた大規模術式を一人でしかも不利な属性である筈の氷魔法で相殺したという事実に理解が追いつかない


「ば、バケモノ」


ケット・ルーがAランク冒険者としてのプライドをかなぐり捨て逃走という判断を下すのに時間はかからなかった


全員が混乱する中でエスパーダだけが起こった現象の8割ほどを認識していた


アレは氷魔法などではない

あの業火は"静止の魔女"名前で名の通り"止まった"

そして"消失"し、その範囲が凍り付いたのだ


そこから導き出される魔女の魔法は....


「やつの魔法は氷などではない!!!"静止"だ、あらゆるものを静止させる魔法だ!」


静止の魔女はここで初めて感情を見せた

意外そうな、感心するような眼をエスパーダに向けたのだ


エスパーダの背中に悪寒が走る。

氷魔法もどきの冷気によるものではない

圧倒的強者からの好奇の目線に晒されたことにより生存本能が生命の危機を示したのである


「ッ....おそらく奴に水や炎、氷魔法は効かない!!!身体強化による直接攻撃で迎え撃てぇ!!!」


エスパーダの判断は概ね正しい

静止の魔法の前では炎は燃えるという事象ごと止められ消失する。

水はそもそも流動出来なくなり形を失う

氷魔法をはじめとした質量攻撃も運動エネルギーを止められる事で無力となる。



そしてエスパーダ唯一の間違いは接近戦を仕掛けた事である。


トンッ


彼女が近接戦を仕掛けてきた騎士の鎧に触れる


「ッーーー...!!!ーーーー.....」


騎士は磔にあったかの如く固まりもがき苦しんで....


あっけなく死んだ


彼女が触れている間

その対象はあらゆる生命活動を"静止"させられるのである


エスパーダは自らの失策を悟った


「静止……」


誰かが呟いた。


「静止の魔女だ――!」


恐慌が走る。


雷撃が走る

風刃が裂く

地面が隆起する


だが、すべてが彼女の半径数歩で止まる


雷は空中で静止し、

風は刃の形のまま固定され、

石槍は彼女に届く前に凍る


「退避ッ!!!退避ぃーーー!!!」


だが半歩遅い...


そこはすでに少女の間合いである



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


王国討伐隊戦果


Aランク冒険者一名死亡

Bランク冒険者三名死亡

Cランク以下生存者二割


近衛騎士団

六名死亡

その他騎士

生存者半数



歴史的大損害で幕を閉じた


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