表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第一話 ワイバーンと新たな出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/63

新しい仲間

メリアの活躍は目覚ましかった。


街に戻った彼女はまず荷車を手配すると、その街にて竜素材の取り扱いで有名な『ドラッヘン商会』へと向かった。


商家出身の知識と礼節を総動員し、店主との交渉を巧みに進める。

ギルドに卸すよりもメリア側の儲けは割高で、しかし商会側は通常の取引先より割安という絶妙なラインを見極めながら、ワイバーンの素材を次々と売り払っていく。


鱗は一枚一枚丁寧に査定され、爪は大きさと状態に応じて値段をつけられ、骨は材質の均一さを評価されて高値がついた。

翼膜に至っては傷一つない完璧な状態だったため、店主が思わず感嘆の声を上げるほどであった。


メリアの手際の良さと商品知識の豊富さに店主も次第に信頼を寄せるようになり、最終的には当初の予想を上回る金額での取引が成立した。


同時に、スフィアが食べきれない大量の肉も上質な竜肉として料理店や富裕層向けに売り捌かれた。

新鮮で丁寧に処理された竜肉は、それだけでも相当な価値があったのだ。


そして日が暮れかけた頃――。


街の中央広場で、スフィアの手には肉の分となる金貨のたんまり入った小袋が握られていた。


一方、メリアの両手にはスフィアの『生ゴミ』を売り払った金貨のぎっちり詰まった大袋が抱えられている。

袋の大きさの違いが素材の価値の違いを如実に物語っていた。


「……マジかよ」


スフィアは自分の手の中の小袋を見下ろし、続いてメリアの抱える大袋を見上げて完全に唖然としている。

まさかあの『生ゴミ』がこれほどの価値を持っていたとは、夢にも思わなかった。


一方のメリアは、得意げな表情を浮かべている。


「一頭丸々でしたから、売り捌きがいがありましたね!」


そう言いながらメリアは大袋をスフィアに差し出す。


「はい、どうぞ」


「いやいや、お前が売った分だろ? お前の取り分じゃね?」


スフィアは慌てて手を振ってメリアに大袋を返す。


「いえいえ、これはスフィアさんの仕留めたワイバーンなのでスフィアさんの取り分では?」


メリアも負けじと大袋を押し付けようとする。


「でも実際に売ったのはお前だし……」


「でも素材を狩ったのはスフィアさんですし……」


しばらくの間、二人は金貨の大袋を互いに押し付け合った。

夕暮れ時の街は人通りも少なく、二人の周りだけがほのぼのとした空気に包まれている。

石畳に落ちる街灯の明かりが、なんとも平和で微笑ましい光景を照らし出していた。


やがてスフィアは少し考え込むような表情を見せた。

そして、ふと顔を上げる。


「なあ、メリア」


小さな声でメリアの名前を呼んだ。

夕暮れの街に響くその声音には、いつものぶっきらぼうさとは違う、どこか真剣な響きが含まれていた。


「はい?」


メリアは金貨の袋を抱えたまま、不思議そうにスフィアを見返した。

三角の耳が微かに緊張したようにぴんと立っている。

金色の瞳が、街灯の明かりを受けて真摯に輝いていた。


「お前、うちのパーティーに入る気はないか?」


スフィアの口から出た言葉は、予想外にもストレートだった。


普段の彼らしく、回りくどい前置きも社交辞令もない。

ただ真っ直ぐに自分の気持ちを伝える問いかけだった。


突然の提案にメリアは軽く驚いた表情を見せた。

目を丸くして、思わず「え」と小さな声を漏らす。


街の喧騒が遠くから聞こえる中、二人の間に一瞬の静寂が流れた。



◆◆◆◆



夜の街を二人は並んで歩いていた。


石畳に響く足音はスフィアの小さく軽快なものと、メリアの少し慌ただしいものが混じり合っている。

街灯が等間隔に並ぶ通りには、まだ夕食時の賑わいが残っており、酒場や食堂からは温かい光と美味しそうな匂いが漂ってきている。


スフィアの泊まっている宿を目指して歩きながら、彼は先ほどの勧誘について詳しく説明し始めた。


「さっきも言ったが、俺はこんなナリだから舐められるんだよな」


スフィアは軽く自分の身体を指差した。

確かにその小柄で愛らしい外見は、どちらかといえば「守られる側」に見えてしまうだろう。


「俺が獣仕留めても肉を買い叩かれるとかザラだし、人間の女どもは可愛い可愛いとうるさいし、売った帰りに金目当てに絡まれたりもあったな。返り討ちにして憲兵に突き出したけど」


「た、大変ですね……」


メリアは同情的な表情を浮かべた。


スフィアの実力を間近で見た今となっては、彼を見た目だけで判断する人々がいかに愚かなことをしているかがよくわかる。


「ほんとにな。人間の街は住みにくいったらねーよ」


スフィアは肩をすくめた。


その表情には諦めにも似た苦笑いが浮かんでいる。

きっと今まで何度もそうした目に遭ってきたのだろう。


「連れの弟分もいるんだが、気が小さいから交渉に向いてねえしなあ」


弟分、と聞いてメリアは想像を巡らせた。


スフィアをさらに小柄にしたような、気の小さい猫獣人の姿が頭に浮かぶ。

確かに可愛いだろうが商売の交渉には向いていないだろうなと、口には出さずに察した。


「んでよ、メリアは俺のことを色眼鏡で見ねえし、交渉も抜群にうまい。人間の金には慣れてねえし金の管理をしてくれたら助かるんだよな」


なるほど、とメリアは事情を把握する。

スフィアが今日の商談を通して把握したメリアの交渉能力は本物だし、商家出身という話も少しだけしたので金銭管理にも長けているだろうとの判断だ。


「えっと、私戦えないんですけど……」


メリアは不安そうに付け加える。

今日のワイバーン戦のように、いざという時に足手まといになってしまうのではないかという心配があった。

しかし、スフィアはあっさりと答えた。


「いんだよ。戦うのはこっちでできる。俺らにできねえ交渉ができるってのが大事なんだ」


彼にとって戦闘は得意分野であり、むしろ苦手な分野をカバーしてくれる仲間の方が価値があるということなのだろう。


メリアは歩きながら悩んでいた。


正直なところ、スフィアの提案は魅力的だ。

今日一日で稼いだ金額を考えれば借金返済のペースも大幅に上がるだろう。

それに、スフィアは信頼できる人物だということも今日の交流でよくわかった。


しかし、パーティーに加入するというのは大きな決断だ。

一人で冒険していた時とは責任の重さが違ってくる。


「入るのは良いんですが……とりあえず、その弟分さんにも話を通さないとですねえ」


メリアは歩調を合わせながら言った。


「だな。まあ多分大丈夫だとは思うが、俺だけで決めちゃいけねーわな」


スフィアも素直に頷いた。

仲間の意見をしっかり尊重する姿勢は好ましい。


石畳の道は緩やかな坂道となり、やがて二人はひとつの宿の前で足を止める。


「『角笛亭』。ここが俺の泊まってる宿だ」


スフィアが指差した宿は石造りの頑丈そうな建物で、街にある数少ない獣人が宿泊できる宿らしく、独特の雰囲気を持っていた。


看板には角笛の絵が彫り込まれ、入り口は普通の宿よりもやや大きく作られている。

おそらく大型の獣人でも楽に通れるようにという配慮だろう。


窓から見える客層はちらほらと人間の姿も見えるものの、圧倒的に獣人が多い。

狼や熊、それに鳥の獣人たちが大きなジョッキを手に酒場で賑やかに酒を酌み交わしている光景が窓越しに見えた。


時折、狼獣人の豪快な笑い声や鳥獣人の甲高い鳴き声のような笑い声が混じり合い、独特の活気を生み出している。


人間向けの宿とは明らかに違う、野性的で自由な空気。

肉料理の匂いと麦酒の香りが入り口からも感じられ、獣人たちの体温で暖められた空気が外まで漂ってきていた。


「へえ、こんな宿があるんですね」


メリアは興味深そうに宿を見上げた。


人間の街で生まれ育った彼女にとって、これほど多くの獣人が集まる場所は珍しい。

少し緊張しているが、同時に好奇心も湧いている。


スフィアは慣れた様子で重い木製の扉を押し開け、宿の中に入った。

内部は天井が高く作られており、大型の獣人でも窮屈に感じないよう設計されている。

太い梁が見える構造で、どこか狩猟小屋のような野趣あふれる内装だ。


カウンターにいる獣人の女将にスフィアは親し気に話しかけた。


「女将さーん」


「あら? スフィアちゃん、お帰りなさい! 今日は随分遅かったのね」


女将は羊の獣人らしく、ふわふわの白い毛で覆われた優しい表情をしている。

年齢は中年といったところでエプロン姿がよく似合う。


スフィアを我が子のように見守る母親のような雰囲気だ。

その目は細く優しく、口元には温かい笑みが浮かんでいる。


「ブルいる?」


「ブルちゃんはちょっと出かけてるわねえ。そろそろ戻ってくると思うけど」


女将がそう答えたあたりで、メリアは背後に大きな気配を感じた。


空気が重くなったような、何か巨大なものが宿の入り口に立っているような圧迫感のある存在感。

まるで山のような影が背後に落ちているのを感じる。


恐る恐る振り返ると――。


そこには漆黒を思わせる濃い茶色の毛並みをした巨体のミノタウロスが、威圧感たっぷりにこちらを見下ろしていた。

身長は優に三メートルを超え、肩幅も成人男性二人分はありそうな、がっしりとした体格。


頭部は完全に牛で、立派な角が左右に伸びている。

体毛に覆われた筋肉質な身体は、まさに巨漢という言葉がぴったりだった。

その巨体が入り口の光を遮ってメリアの視界に大きな影を落としている。


「ぎゃ――――!!」


メリアは思わず悲鳴を上げた。

予想外の巨体に完全に肝を潰され、思わず後ずさりしてしまう。

心臓が激しく鼓動を打ち、息が詰まりそうになった。


「う"わ"――――!!」


驚いたことに、ミノタウロスの方も同じように叫び声を上げた。

その声は野太く大きく、宿中に響き渡る。


どうやら彼もメリアの悲鳴に驚いて飛び上がってしまったらしい。

巨体がびくりと震えているのがわかる。


「うるせーな、なんだよオイ」


二人の叫び声に、スフィアが面倒くさそうに振り返った。


「あ、ブルじゃん」


実にあっさりとした反応。

まるで友人が近所の市場から買い物を済ませて帰ってきたかのような調子だった。


「スフィア兄さん! この子誰? 凄いびっくりしたよ!」


ミノタウロスは慌てたような声でスフィアに話しかけた。

その声音は見た目に反して、どこか幼さを感じさせる。

まるで大きな身体を持て余している少年のような、あどけなさが含まれていた。


メリアが戸惑って立ち尽くしていると、スフィアは事もなげに紹介する。


「メリア、紹介するわ。こいつが弟分のブル」


(可愛い猫獣人じゃなかった……!)


メリアは口元を引きつらせた。

先ほどまで想像していた「スフィアを更に小柄にしたような気の小さい猫獣人」とは、正反対の存在がそこに立っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ