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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第六話 迷いの森の果実狩り

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村に到着

朝の柔らかな陽光が森の木々の隙間から射し込み、林道をまだらに照らしている。

ゴーレム馬車は、その石畳ではない土の道を驚くほど滑らかに進んでいた。


石と魔法によって作られた二頭のゴーレム馬は疲労を知らず、呼吸もせず、ただ淡々と、しかし力強く馬車を引き続ける。


振動を吸収する構造の馬車は荒れた道でもガタガタという不快な振動はほとんどなく、まるで水面を滑る小舟に乗っているかのように静かで快適な移動であった。

流石に高級品を買っただけあって乗り心地がとてもいい。


御者台にはメリアが座っている。

といっても、彼女の役割は複雑な操縦ではない。


ゴーレム馬は基本的に設定された目的地に向かって自律的に歩行する。

だが時折、道の凹凸や予期せぬ障害物を避けきれなかったり、僅かに進行方向がずれたりすることがある。


メリアは手綱――といっても、これは物理的な制御ではなく、ゴーレム馬の制御核に微弱な魔力の信号を送るためのものだ――を軽く握り、馬が変な方向に行かないか、道に沿って正しく歩いているかを確認し、必要に応じて微調整を加えるだけの簡単な操作を担当していた。

最初はおぼつかなかったその手つきは既に慣れたもので、景色を楽しむ余裕すら見せている。


馬車の窓から見える景色は延々と続く森閑とした森であったが、やがて木々が途切れ、開けた土地が見え始めてきた。

緩やかな丘陵地帯が広がり、その向こうに小さな村の煙突から立ち上る白い煙が見える。


「お二人とも、目的の村が見えてきましたよ」


メリアが馬車の中にいる二人に声をかける。

その声は長い旅の終わりを告げる安堵と、これから始まる新たな依頼への期待で弾んでいた。


「おー、そこそこかかったな」


「三日もかかったね」


馬車の窓から顔を出したスフィアとブルが、遠くに見える村を眺めながら応じる。


「馬の休憩なしで三日だもんなあ……」


スフィアがしみじみと呟く。


普通の馬であれば二、三時間ごとに休息を挟んだり食事と水の補給が必須で、その度に足を止めざるを得ない。

同じ距離を移動するのに倍以上の時間がかかったであろうことは想像に難くない。


ゴーレム馬車の利便性を、三人は改めて実感していた。


「しかし交易品積んできたはいいが、これちゃんと売れるのか?」


スフィアが、馬車の荷台に積まれたいくつもの大きな壺に視線を送りながら少し不安げに言う。


出発前、メリアの提案で仕入れた塩と砂糖の壺がたくさん積んである。

かなりの量があり、もし売れ残ったらと思うと少し気が重い。


「ちゃんと考えてチョイスしたんで大丈夫だと思いますよ。ダメそうなら私たちで使いましょう」


メリアは自信ありげに答えるが、スフィアには少し楽観主義に感じられる。


「とはいえ僕らだけで使いきれないから、ちゃんと売れるといいね」


「それなあ……」


ブルの言葉にスフィアも同意する。

塩と砂糖は自分たちも料理に使いはするが、あの量を三人だけで消費すると何年かかるのか。

もう少し少なめでも良かったんじゃないかとスフィアは思っていた。


「それじゃ、下車準備進めてくださいねー」


メリアはそんな二人の心配をよそに明るい声で指示を出すと再び手綱を握り直し、村へと続く最後の道を慎重に進み始めたのであった――。



◆◆◆◆



やがてゴーレム馬車は、村の入り口へと続く簡素な木の柵の前に到着した。

村はずれの畑では数人の農夫が鍬を振るっており、のどかな田園風景が広がっている。


しかし、その平和な光景は馬車が近づくにつれて一変した。


「止まれ!」


「我々はこの村の自警団だ! 馬車を止めて降りてこい!」


畑仕事の手を止め、慌てて駆け寄ってきた二人の若者が馬車の前に立ちはだかる。


彼らは普段着のままで、武器らしい武器といえば先端を尖らせただけの粗末な木の槍を持っているだけだった。

見慣れぬ馬車に対する警戒心と、自分たちの村を守ろうとする必死さで表情が強張っている。


メリアが手綱を引いて馬車を止めると、まずブルが馬車から降りてその姿を現す。

だが、それは少し無警戒過ぎたのかもしれない。


ブルが姿を見せた瞬間、若者たちの顔が恐怖に引きつったのだ。


「う、うわあああ!?」


「ま、魔獣か!?」


彼らは腰を抜かさんばかりに驚き、持っていた木の槍を震える手で構え直す。


「いえ違いますよ!? 牛獣人、ミノタウロスです!」


ブルが慌てて両手を振り、敵意がないことを示そうとする。

しかし、その言葉は逆効果だった。


「ミノタウロス……って、魔獣だろう!?」


どうやらこの辺鄙な村では、獣人という存在そのものが知られていないらしい。

彼らにとって牛の頭を持つ巨大な人型生物など、恐ろしい魔獣以外の何物でもなかったのだ。

一応人語を喋っているのだが、突然の事態に混乱していて対話ができていることに気付いていないようだ。


「こ、ここは俺が食い止める! お前は村に魔獣が出たと伝えてくれ!」


「わかっ……」


一人の若者が悲壮な覚悟を決めて槍を構え、もう一人が村へと走り出そうとした、その時。


「ちょっとお待ちください!」


馬車から、今度はメリアとスフィアが姿を現す。


美しい人間の少女と、同じくして降りた小柄で愛らしい――もとい、少なくとも危険には見えない猫獣人の登場に、若者たちの足がぴたりと止まった。


「あ、あんたらは?」


メリアは相手を刺激しないように慌てず騒がず、馬車から交易品として運んできた塩と砂糖の入った小さな壺を取り出すと、それを若者たちに見せながら穏やかな笑顔で言った。


「我々は……この村の村長さんに用があって来た者ですが、塩と砂糖も取り扱ってます。お売りしますがどうですか」


その言葉を聞いた瞬間、若者たちの表情から警戒心が消え去った。


「なんだ、商人だったのか!」


「塩と砂糖はありがたいな! みんなに伝えてくる!」


謎の魔獣、ではなく理解できる素性の持ち主の登場に一人の若者は安堵の息を漏らし、もう一人は先ほどの恐怖などすっかり忘れたかのように、目を輝かせて村の奥へと駆け出していく。

そして村全体に向かって、彼は大声で叫んだ。


「おーい、通りすがりの行商人だ! 塩と砂糖があるらしいぞー!」


その声は村中に響き渡り、あちこちの家から人々が顔を出しはじめる。

残った若者は照れくさそうに頭を掻きながら、ブルの方をちらりと見た。


「いやあ、助かるよ。この魔獣は護衛代わりかなんかかい」


「えーと、まあそんなもんです」


メリアは微笑みながら曖昧な返事をした。


ここでわざわざ獣人と魔獣の違いを説いて彼らの常識を覆すよりも、今は無害かつ役に立つ存在として受け入れられる方が手間もかからず、今後の活動において都合が良いと判断したのだ。

相変わらず対人交渉の上手い女である。


スフィアとブルは、そんなメリアのやり取りを眺めながら、ここに来る前夜、馬車の中で交わした彼女の言葉を思い出していた――。

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