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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第五話 商業連合と豊漁祭

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大物狩り

大海原に、金属が激しくぶつかり合う甲高い音が響き渡った。


「『対獣解体術』」


スフィアの純白の剣が、リヴァイアサンのサファイア色の鱗に叩きつけられ、火花を散らす。


「『薄切り』!」


彼は水面を駆けるように移動しながら、海竜の巨大な体躯に絶え間なく斬りかかっていた。

その動きは猫科の獣らしく俊敏で、常人であれば目で追うことすら困難だろう。


水面を蹴るたびに小さな波紋が広がり、彼の足跡が刹那的に海上に描かれては消えていく。


一方、ブルは正面からリヴァイアサンと対峙していた。

その漆黒の巨躯は、まるで海上にそびえ立つ不動の要塞のようだ。


リヴァイアサンが振り下ろす、船のマストほどもある巨大な尾の一撃を、彼はその身にまとったアダマンタイトの鎧で真正面から受け止める。


ゴォォォン! という、巨大な鐘を打ち鳴らしたかのような重低音が響き、衝撃で周囲の海水が大きく盛り上がった。


しかし、ブルの身体は微動だにしない。


「こりゃ凄いや。衝撃を分散させるって聞いてたけど体勢を崩されすらしないなんて」


ブル自身が、その鎧の性能に驚嘆の声を上げる。

アダマンタイトの鎧は、リヴァイアサンの凄まじい攻撃の衝撃を完全に吸収し、彼の足元にまで届かせない。


本来であればその一撃だけで吹き飛ばされ、海の藻屑となっていてもおかしくないほどの威力だ。


しかし、戦況は決して芳しくなかった。


スフィアの剣は、確かにリヴァイアサンの鱗を切り裂き、その下の肉にまで達している。

だが、あまりにも巨大な体躯の前では、その傷はかすり傷に等しかった。


人間で言えば、爪楊枝で軽く突かれた程度のダメージしか与えられていない。


「ちっ……剣は通るが奥まで届かねえ!」


スフィアは歯噛みしながら、さらに速度を上げて斬撃を繰り出す。


慣れない水上での戦闘は、彼の体力を着実に奪っていく。

足場が不安定なため踏み込みが甘くなり、一撃一撃の威力が削がれてしまっていた。


ブルの攻撃もまた、決定打にはなり得ていない。


「打撃はあんまり効いてる様子が無いかな……あの鱗、打撃に強いのかも」


彼が振るう巨大な金属棍棒は、リヴァイアサンの鱗に鈍い音を立てて弾かれるばかり。

分厚い鱗は斬撃には比較的弱いが、打撃に対しては驚異的な防御力を発揮するようだ。


地道にダメージを蓄積させていくという戦法も考えられたが、相手がそれに付き合ってくれる保証はない。

リヴァイアサンが一度本気で海深くに潜ってしまえば追う術はなく、この戦いは終わるだろう。


撃退するだけならそれでも良い。

しかし、スフィアの目的はただ一つ。


この巨大な海竜を美味しくいただくことだ。

仕留められなければ、何の意味もない。


――リヴァイアサンの出現は、豊漁祭に参加していた他の船団にもすぐに伝わった。


遠巻きに様子を窺っていた船から、商業連合所属の屈強な傭兵たちが次々と水上歩行の魔法をかけて駆けつけてくる。


しかし、リヴァイアサンが放つ強大な魔力に引き寄せられたのか、その周囲には無数の魔魚たちが群がり始めていた。


弾丸魚を始め、鋭い牙を持つ肉食魚や毒を持つ海蛇型の魔魚たちが傭兵たちの行く手を阻む。


傭兵たちは取り巻きの魔魚たちの対処に追われ、リヴァイアサン本体にまで手が回らない状況だった。


(一撃で仕留める方法が無くはねえが、一発こっきりの奥の手だ。絶対に命中させないといけねえし……溜めもいるから海の中にいる相手には使えねえ)


スフィアの脳裏に、自身の持つ最大の一撃が浮かぶ。

しかし、それは長い精神集中を必要とする、まさに切り札中の切り札。


常に動き回り、海中に潜ることも可能なリヴァイアサン相手に、確実に命中させることは不可能に近かった。


「メリア! なんとかあいつの動きを止める方法はねえか!」


スフィアの切羽詰まった声が、ピエール号の甲板に響いた。


「なんとかってなんです!?」


「なんでもいい! 集団で銛刺すとか魔法で動き止めるとか!」


「いやいや、あんなデカい相手に効く拘束魔法なんて……」


メリアが絶望的な声を上げた、その時だった。


「メリア君メリア君」


船上で治療を終え、いつの間にか復活していたピエールが、真剣な表情で彼女に話しかける。


「なんでしょうピエールさん」


「僕は水上戦に詳しくないから確信はないんだが、こういうことはできないだろうか」


ピエールの口から語られた作戦は、あまりにも突飛で、常識外れなものだった。

しかし、その言葉が、この絶望的な戦況を大きく変えることになる。


メリアはピエールの作戦を聞くと一瞬呆気にとられたような顔をしたが、すぐにその意図を理解し、その瞳に強い光を宿した。


「……いけるかもしれませんね! ピエールさんありがとうございます! 早速各船に連絡を取ります!」


「いやなに。友の役に立てたなら本望だとも」


ピエールが優雅に微笑む。

メリアはすぐさまブルに向かって、作戦の第一段階を指示した。


「ブルさん! なんとかリヴァイアサンの注意を引いて、頭部を下からカチ上げてリヴァイアサンの体躯をできるだけ水上に引き上げてください!」


「なんとかって!?」


「……なんとか! セルフサービスで!」


「ノープラン!? あとセルフサービスってそういう意味じゃないよね!?」


ブルの悲鳴に近いツッコミが響くが、メリアは聞く耳を持たない。


「仕方ないなあ……あとで良い野菜奢ってよね!」


ブルは覚悟を決めた。

彼は深く息を吸い込むと、水面を蹴ってリヴァイアサンへと向かう。


海竜がちょうど、スフィアを追って巨体を水上に乗り出した瞬間。

ブルは狂ったようにリヴァイアサンの巨躯を乱打し始めた。


効果は薄い。


しかし、その執拗な攻撃は、確実に海竜の注意を引きつけた。

リヴァイアサンは鬱陶しそうにブルを睨みつけると、目標を変更。


その巨大な顎を大きく開き、ブルを丸呑みにせんと一直線に突っ込んでくる。

ブルはその突進を真正面から見据え、両足を水面に何度も強く踏み鳴らした。


ドォン! ドォン! と、水面が爆ぜるような音が響く。


そして、咆哮を上げながら、迫りくるリヴァイアサンの下顎めがけて、大きな金属棒で下方からの渾身の一撃を叩き込んだ。


それは後先を一切考えない、ブルの全力中の全力。


凄まじい衝撃と共に、リヴァイアサンの巨体が、まるで玩具のように宙へとカチ上げられる。

その巨大な体躯のほとんどが一瞬、ほぼ完全に水上に露出した。


その瞬間を、メリアは見逃さなかった。


「今です!!」


彼女の指示を受けた各船の熟練魔術師たちが水上を高速で移動。

リヴァイアサンに肉薄し、一斉に魔法を行使する。


その魔法とは――。


「『水上歩行』!!」


数十も重ね掛けした水上歩行の魔法が、宙に浮いたリヴァイアサンの巨体に叩きつけられ、その身体全体が淡く光った。


「水中を得手とする海竜が水上に出たらどうなるんでしょうね」


メリアは冷ややかに、しかし確信を持って呟く。


「歩けよ海竜。水の上を」


右手の親指を下に向けてメリアは言い放った。


次の瞬間、リヴァイアサンの巨体が、物理法則を無視して水上に叩きつけられる。

大きな水飛沫が上がり、まるで巨大な船が座礁したかのように海竜は水の上で身動きが取れなくなってしまった。


「お嬢! 水の上に出したはいいが、あの体躯だと五分も持たないぜ!」


「リヴァイアサンはエラ呼吸と肺呼吸両方できる! 五分じゃ窒息は無理だ!」


魔術師たちの悲鳴が飛ぶ。


「わかってます! スフィアさん! ご注文通りお膳立てはしましたよ!」


「ああ、最高だぜ。やっぱお前がいてくれてよかった」


スフィアは海の上で静かに純白の剣を正眼に構えた。

彼の精神が極限まで集中され、その周囲にキラキラと輝く光の粒が舞い始める。




――それは、ひとつの幻想のカタチ。




彼の純白の剣が、内側から溢れ出すようなまばゆい輝きを発する。




――それは正義の具現。光の具象化。審判が形を成したもの。


――その力は、純粋な想いによって顕現する。




「兄さんの正面側にいる船は退避しろ! 巻き込まれるぞ!」


渾身の一撃で両腕が痺れたまま、ブルが叫ぶ。


純白の剣から伸びた光の柱が天を貫いた。




――刮目せよ。是なるは裁きを下す光。


――裁定の剣は、今ここに。




スフィアが光り輝く剣を、ゆっくりと振りかぶる。




――今こそ、神の奇跡をここに刻もう。


その名こそは――。





「スーパーニャルティメット・スフィアセイバァァァァァアアアアア!!」




スフィアの叫びと共に振り抜かれた剣から光の奔流が放たれた。


それは海を割り、空を裂き。

リヴァイアサンの巨体を、いとも容易く両断した。


一瞬ののち。


「……ネーミングだっせえええええええ!?」


壮絶な光景の後、メリアの絶叫だけが静かになった海原に木霊した。


息絶えたリヴァイアサンの巨体が、ゆっくりと二つに分かれて海に沈んでいく。

その光景を見届けながら、メリアはまだ叫んでいた。


「いやネーミングだっさいですね!? どうしたんです!? 病気!?」


「そこまで言わなくてもいいだろ! そんなに酷いか!? かっこいいじゃん!」


「ネーミングセンスの無法地帯かと思いましたよ」


「ネーミングセンスの無法地帯!?」


ひとしきりネーミングをこき下ろした後、メリアがようやく落ち着きを取り戻し、技の正体について尋ねる。


「ところであの光線……光線? なんですか?」


あんな技があるなんて聞いてない。

なんか途中まで凄く神秘的な空気感だったし。


スフィアは少し考え込んだ後、こともなげに答えた。


「んー……なんか力んだら出るやつ」


本人もよくわかっていなかった。

なんだろうねアレ。


「大丈夫? トイレ行きます?」


「ウ〇コじゃねーよ!」


こうして、海竜リヴァイアサンとの激闘は、スフィアたちの勝利で幕を閉じた。


戦いが終わったことを確認した各船は、すぐさま目の前にある宝の山――リヴァイアサンの素材と、奮戦によって獲得した数多の魔魚たちの回収作業へと、活気よく動き出すのであった――。

だらだらと戦うのは好みではないので、大物相手でも割とざっくり決着します。

それでもギミックマシマシで読み応えはそこそこあるはず。


なお、スフィアさんの必殺剣は天に柱のごとく光が立ち上り、遠方からでも見ることができました。

ラファエルとエルセイン?

今遺跡の奥を目指して潜ってるじゃないですかやだー。

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