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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第五話 商業連合と豊漁祭

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再会

――三日後。

商業連合の港は、豊漁祭の熱気に包まれていた。


朝の陽光が海面を金色に輝かせ、無数の船が行き交う光景は壮観そのものである。

大小様々な漁船や遊覧船が次々と港を離れ、祭りのメイン会場である沖合の漁場へと向かっていく。


船乗りたちの威勢の良い掛け声が響き、船の漕ぎ出す音や帆がはためく音が重なり合って、港全体が活気に満ちた音楽を奏でている。


空にはカモメが舞い踊り、時折鳴き声を上げては祭りの賑やかさに花を添えていた。

桟橋には参加者たちが列を成し、それぞれが手に釣竿や弁当を持って順番を待っている。


子供たちの興奮した声、大人たちの笑い声、そして遠くから聞こえてくる太鼓の音が混じり合い、まさに祭りの雰囲気を演出していた――。


「賑やかだなあ」


「年に二回のお祭りですからねえ。事前登録すれば釣竿も船も無料ですから人多いですよ」


そんな賑やかな港の一角でスフィア、ブル、メリアの三人も船の出発を待っていた。


「ほら、ブルもこっち来てみろよ。すげーぞ」


「うん」


スフィアが声をかけるが、ブルは上の空だ。

その視線は、ブルが機嫌良さそうに撫でている腕の装身具に向けられている。


「ご機嫌ですねえブルさん」


「さっき受け取った腕輪なあ」


スフィアもまた、ここに来る前に立ち寄ったマーガレット商会で受け取ったブルの黒い腕輪を見て、感心したような声で呟く。


「すげーよなあ。あの鎧、腕輪状態からいつでも換装できるんだって?」


ブルの太い腕に巻かれているのは、一見すると普通の黒い腕輪に見える。

しかしその表面には細かな魔法の紋様が刻まれており、よく見ると微かに魔力の光が脈動しているのがわかる。

これこそが、あの禍々しいアダマンタイト製の重鎧が変化した腕輪である。


「アダマンタイト製の魔法の鎧だからね。そんな便利な魔法があるなんて初めて知ったよ」


ブルが嬉しそうに腕輪を撫でながら答える。

まるで子供が新しい玩具を手に入れた時のような表情だ。


ロゼの説明によると、あの鎧は魔法により普段は腕輪の形で身に着けておき、必要な時には瞬時に全身鎧へと変化させることができる。

魔法国メギストスの技術の粋を集めた逸品だそうだ。


「鎧は着脱も運搬も手間ですしねー。元々は緊急時に鎧の着脱を簡易化したい、と魔法国の騎士たちの要望から開発された魔法だそうですよ」


「これで船の上でも戦えるね!」


ブルが拳を握りしめながら言う。

防具をお気に入りの鎧に新調したブルは早く使いたくてやる気満々のようだ。


「たまに海の魔獣も出ますしねえ」


「そんなん出るのか?」


「ええ。魚の群れ目当てにいくらか」


豊漁祭で大量の魚が集まる場所には、それを狙う大型の海洋魔獣が現れることもあるのだ。

スフィア自身、陸の魔獣についてはいくらか知識があるが、海の魔獣というものは想像がつかない。


「とはいえ、商業連合の腕利き傭兵が護衛に付きますし、水上歩行の魔法で避難経路も確保できます。少なくとも溺れてみんな死ぬってことはありませんよ」


豊漁祭は年に二回やる祭りだけあって、ノウハウは蓄積されている。

海での安全対策はよほどのことが無い限り万全のようだ。


スフィアがほっと息をつく。


「そりゃよかった」


「兄さん水嫌いだもんね」


「うっせえ。お前らには毛が水で張り付く気持ち悪さはわかんねーよ」


ブルのからかうような調子にスフィアが少し拗ねたような口調で反論する。

猫獣人は猫らしく水が苦手のようだ。


(猫っぽい)


メリアが心の中で微笑ましく思いながら、乗れる船を探そうとした時のことだった。

視界の端に、見覚えのあるものが映り込む。


「あれ?この馬車……」


港の一角に、物凄く見たことのある豪華な馬車が停まっていた。

装飾の施された大きな車体、美しく手入れされた二頭の馬……はおらず、馬具だけが繋がれている。

そして金具の精巧な細工。


どれも一度見たら忘れられないほど印象的な高級馬車である。


「あ、これ」


「すげえ見たことあるな」


ブルも気づいたようで、スフィアも思い出すかのように馬車を見つめる。


そのとき、豪華な馬車の扉が勢いよく開かれる。


まず最初に現れたのは、明らかに馬車の積載量を超えているであろう十数人のメイドと執事たち。

全員が整った制服に身を包み、まるで軍隊のような完璧に訓練された動作で馬車から降りてくる。

メイドたちの白いエプロンは一点の汚れもなく、執事たちの燕尾服は完璧に仕立てられており、その統制の取れた様子は、まさに一流の貴族に仕える従僕たちの風格だ。


そして最後に、華美な鎧を身に纏った貴族らしき青年が、演劇的なほど優雅な動作で馬車から降りてきた。

金髪を風になびかせ、装飾の施された鎧が朝の陽光を受けて輝いている。


「これはこれは。誰かと思えば」


青年は大仰なポーズを取りながら三人に向き直る。

片手を腰に当て、もう片方の手を空に向けて掲げるという、特徴的でいかにも演劇的な決めポーズ。


そう、彼だ。


「スフィア君。ブル君。メリア君。久しいな、我が友たちよ!」


青年――ピエールの声は朗々と響き、周囲の人々は若干引いている。


「高貴なる冒険者、ピエール・アルファトリスである!!」


台詞に合わせて、周囲のメイドと執事たちが一斉に反射板のような道具を取り出し、陽光を集めてピエールを物理的に明かりで照らす。

同時に訓練された拍手が響き、まるで舞台の上での演劇のようだ。


そしてその後ろから、見慣れた二人の冒険者が苦笑いを浮かべながら降りてくる。


「あ、お久しぶりです皆さん」


「元気そうだな」


茶色の髪を後ろで結んだ女性冒険者アレッタが、少し恥ずかしそうに手を振り、黒い髪の男性冒険者ゼノも、いつものように簡潔に挨拶する。


その表情には知り合いに会った安堵と、少しの疲労が混じっているように見える。


――そう、彼らはかつて草原で一緒に黒鉄牛を狩り、食事を共にした高貴なる冒険者ピエール一行。


港の喧騒の中で、懐かしい顔ぶれとの再会が、豊漁祭の始まりに彩りを添えていた――。

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