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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第五話 商業連合と豊漁祭

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商会の市場 そして……

商業連合は他に類を見ない独特な構造の街だった。

大小様々な船が複雑に連結され、まるで海上に浮かぶ巨大な迷宮を形成している。


太い板で繋がれた船と船の間には、木製の通路や橋が張り巡らされていた。

建物は船の甲板上に増築され、時には二階建て、三階建てにまで拡張されている。


足元は常に微かに揺れており、海の上にいることを実感させる。

通路の両脇には手すりが設けられているが、隙間から覗く海面は意外に近く、落ちれば確実に海中へ転落するだろう。


上を見上げれば、船のマストや帆が複雑に交差し、時折カモメが羽ばたいて通り過ぎていく。

建物の隙間からは陽光が差し込み、木製の通路に美しい陰影を作り出している。


三人は連結された船の通路を歩きながら、この海上都市の奇妙な光景を眺めながら進んでいた。


「さっきの事前受付とか当日分とかってのはなんだ?」


商業連合の船の上を進みながらスフィアが質問する。

ブルの肩に座ったまま、興味深そうに周囲を見回している。


「ああ、事前受付しとくと釣竿を貸し出してくれるんです。乗る船も専用の良いものを」


豊漁祭の仕組みだ。

事前に申請することで運営側が大まかな参加者数を把握し、当日の運営をスムーズにするのが目的だろう。


「船はまあ最悪貸し出し用でなんとかできますが、当日受付組は釣竿や餌を自前で用意しないといけないんですよね」


「へえー」


メリットを用意することで参加者がなるべく事前に参加申請するように仕向けているのだ。

スフィアが素直に感心する。


「じゃあ釣竿を買いに行くんだね」


ブルも納得したように頷く。


「武具系も強いって話なんで、ついでにブルさんの鎧も新調したいところですねえ」


「僕の鎧?」


メリアの提案に、ブルが首を傾げて自分の胸元に視線を落とす。

彼が身に着けているのは何度も修繕を重ねた革の鎧だ。

つぎはぎだらけではあるが丁寧に手入れされており、まだ十分使用に耐える状態に見える。


「修繕したばかりだけど……」


「前々から思ってたんですけど、前衛で壁になるブルさんはもっと頑丈な鎧にした方が良いと思います。革鎧ってスフィアさんみたいな身軽な戦士向けですよ? 金属鎧で良さげなの探しましょう」


「うーん、修繕したばかりだしまだ良くないかな?」


この鎧は辺境にいた時から使っているものだ。

それだけに愛着が湧いており、ブルは鎧の交換を渋る。

まだ使える物を捨てるのは勿体ないという気持ちもあった。


だが、メリアはブルの意見に却下を下す。


「ダメです。その鎧も見た感じ結構使い込んで古いでしょう? 防具が壊れてダメになる時はその人の命が危ない時です。取り返しがつかなくなる前に買い替えましょう」


言われてみれば、群牙猪の時も強烈な突進に鎧の一部が壊れていた。

あれがもっと強力な魔獣で、もっと強力な一撃だったら命が危なかったかもしれない。


「はーい」


確かに一理あるかもなあ、と感じたブルは素直に従うことにした。

こういう時のメリアの言はだいたい正しいし。


「メリアって普段ケチで金遣いに厳しいのにこういう時は思い切りいいよな」


スフィアが率直な感想を口にする。


「そりゃそうですよ。お金は大好きですが命が一番、お金は二番です。貯め込んで死んだら馬鹿みたいじゃないですか」


「さすが」


肩をすくめてスフィアが感心したような声で応じた。

こう返すメリアだから頼もしいし、金銭管理を任せる気になるのだ。


彼女は商家の出身だからかリスク管理が上手い。

お金を重視しながらも安全面を最重視する姿勢は好ましいものだ。


やがて三人は大通りに出た。


ここは商業連合の中心部らしく、最も大きな船々が連結された広い空間だった。

甲板上には色とりどりの天幕が張られ、様々な商品が並べられている。

商人たちの威勢の良い声が響き、客との値段交渉が活発に行われていた。


魚の干物を売る店、色鮮やかな布を扱う店、香辛料の香りが漂う店。

武器を扱う鍛冶師、宝石を売る商人、海外の珍しい品物を並べた貿易商。


まさに海上の一大市場といった様相で、陸上の街とは一味違う独特の活気に満ちていた。


「おおー」


「すっご」


スフィアとブルが同時に感嘆の声を上げる。


特にブルは初めて見る光景に目を輝かせており、大きな身体を左右に振って色々な店を見回していた。


「教えてもらった商会はまだ少し歩きますね」


メリアが地図を確認しながら先導する。


歩いていると、ブルが立ち止まった。


「わあ、ザワークラウト?っていうのが売ってる」


彼の視線の先には大きな樽に入った発酵キャベツを売る店があった。

酸っぱい匂いが漂い、如何にも美味しそうに見える。


「魚料理売ってる……んまそう」


スフィアも別の店に目を奪われている。

焼き魚の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、よだれが出そうになっていた。


「すみませんが、こっちの買い物終わってからにしましょうね。いくらかかるかわかんないんですから」


メリアが二人を制止する。


お財布の紐はガッチリ握られているが、不快感はない。

スフィアとブルだけでは多分買い食いで予算がどこかへ行ってしまうのが目に見えているし。

引き締め役は大事だ。


「はぁい」


「了解」


二人は金銭管理担当のメリアに素直に従い、名残惜しそうに店を後にする。

その様子はしっかり者のお姉ちゃんに窘められる弟たちのようだ。

あながち『モンスターマスター』の名もそう間違ってはいないのではなかろうか。


そしてついに、件の商会に到着する。


それは一隻の大型船が丸ごと商店となっている立派な店だった。

船体は美しく塗装され、甲板にも整然と商品が陳列されている。

入り口には大きな看板が掲げられており、確かに繁盛している店の雰囲気を漂わせていた。


「ここかー。結構立派なとこじゃん」


スフィアが感心する。


「だねえ。入り口も大きくて僕も入れそう」


ブルも安堵の表情を見せる。

彼の巨体では入れない店も多いため、これは重要なポイントだ。


だが、メリアは店の名前を見て、怪訝な表情を浮かべる。


「マーガレット商会……?」


その表情には困惑と、何か思い当たる節があるような複雑な感情が混じっていた。

しかしその間に、スフィアとブルはさっさと店内に入ってしまう。


「こんちゃー」


スフィアが気軽な挨拶と共に店に足を踏み入れた。


店内は外観に負けない立派な内装だった。

磨き上げられた木製の床、整然と並べられた商品棚、上質な布で作られたカーテン。

武器や防具、釣り道具、日用品まで、様々な商品が品良く展示されている。


照明も工夫されており、商品が美しく見えるように配慮されていた。

明らかに一流の商会であることがわかる。


「いらっしゃいませ。ようこそ当商会へ」


奥から現れたのは、とても美しい人物だった。


長い金髪を後ろで束ね、整った顔立ちに上品な服装。

まるで貴族の令嬢が男性の服装を身に纏ったような、気品ある男装の麗人だった。


その美しさは一目で人を魅了してしまうだろう。

滲み出る上品な雰囲気に、スフィアとブルは思わず圧倒される。


「私はマーガレット商会のオーナー、ロゼと申します。本日は何をお求めでしょうか」


その丁寧で上品な口調は、少し低めで魅力的な響きを持っていた。

クールな美人特有の落ち着いた声音に、二人は緊張してしまう。


「ああ、えっと、うん。俺らは、んんと。釣竿を探しに……」


スフィアが珍しく言葉に詰まる。

普段のぶっきらぼうな調子とは打って変わって、思わず妙にかしこまった話し方になってしまった。


「釣竿でございますか……おや?」


ロゼの視線が店の入り口に向けられる。

そこには、呆然とした表情で立ち尽くすメリアの姿があった。


二人の目が合い、メリアはぽかんと口を開けて、信じられないという表情でロゼを見つめている。


「……お父さん何してんの?」


メリアの声は完全に素に戻っていた。


「メリアじゃねえか。帰ってきてたのか?」


ロゼの口調も一変する。

先ほどまでの上品で丁寧な話し方は影を潜め、粗野で親しみやすい調子になった。


スフィアとブルは二人を見て同時に叫ぶ。


「お父さん!?」


美しい男装の麗人だと思っていた人物が、まさかのメリアの実の父親だった。

しかも男装の麗人は男装の麗人じゃなかった。

物凄く美しい男が普通に男の服を着ていただけだった。


その事実に、二人は完全に混乱してしまうのであった――。


スーパー美形親父。

女装コンテストで優勝しそうな人。

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