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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第五話 商業連合と豊漁祭

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商業連合到着

ちょっと短め

船着き場は人と声で溢れ返っていた。


太い縄で繋がれた客船から続々と人々が降りてくる中、三人もまた賑やかな桟橋へと足を踏み出していく。


船乗りたちの怒鳴り声が響く。

荷物を運ぶ人夫の掛け声。

船から降りてきた乗客を相手に客引きをする宿屋の主人たちの呼び声。

運ばれてきた商品を早速仕入れようとする商人の威勢の良い声。


様々な音が重なり合って、まさに港町特有の喧騒を作り出していた。


桟橋には大小様々な船が停泊しており、それぞれから荷物や人が流れ込んでくる。

漁船からは銀色に光る魚が木箱に山盛りで運び出され、商船からは色とりどりの布や香辛料の袋が次々と降ろされていく。

空気には潮の香りと魚の匂い、そして遠くから漂ってくる料理の香ばしい匂いが混じり合っている。


「すっげー。豊漁祭ってのがあるからこんなに人がいるのか?」


スフィアが目を見張りながら周囲を見回す。

船上とは比べ物にならない人の多さに、金色の目がきょろきょろと動いている。


人々の流れは川のように絶え間なく、老若男女様々な人種が入り交じって歩いている。

商人らしき男性が大きな荷物を担いで急ぎ足で通り過ぎ、子供連れの家族が楽しそうに笑いながら桟橋を歩いていく。


「そうですねえ。この時期はだいたいこんなもんです」


メリアが懐かしそうに周囲を見渡しながら答える。

故郷に帰ってきた郷愁感があるらしく、少し嬉しそうだ。


「あ、スフィアさんはブルさんの肩に乗ってた方が良いですよ。人通り多すぎてはぐれそう」


大人たちの腰の高さほどしかないスフィアでは、人の流れに押し流されかねない。

子供のような小柄な体格では、この人込みの中では周囲の人々に埋もれてしまいそうだ。


「おう」


スフィアは素直に同意すると、慣れた様子でブルの背中へよじ登り始める。

大きな手がそっとスフィアを支え、安全に肩の上まで運び上げた。


ブルの肩に座ったスフィアは、周囲を見回してご機嫌な様子だ。

高い位置から見下ろす景色は、今まで見えなかった商業連合の全体像を彼に見せてくれる。

尻尾が満足そうに左右に振られ、三角の耳がぴょこぴょこと動いている。


その愛らしい姿に、通りすがりの人々が思わず振り返って微笑んでいく。


「どこでどうやって受付するのかわかんないや」


ブルが困ったような表情で呟く。

初めて訪れる場所でこんな人混みでは、どうすればいいのかわからない。


「あ、それはわかるんですけどね。問題は事前受付をまだやってるかどうかで……」


「事前受付?」


メリアが説明しかけた時、彼女の視線が桟橋の向こうに留まった。

見覚えのある人影が数人、荷物の運搬作業をしているのが見える。


がっしりとした体格に日焼けした肌、実用的な装備に身を包んだ男たちだ。

その風貌は明らかに歴戦の傭兵たちのものである。


「あ、ちょっと聞いてきますね。すいませーん」


メリアは手を振りながら、その傭兵たちに近づいていく。

ブルとスフィアも後に続いた。


傭兵の一人が振り返る。

顔に古い傷跡を持つ、いかつい風貌の男だった。

その鋭い視線がメリアを捉えた瞬間、表情が驚きに変わる。


「あ? 誰だ……ってお嬢!?」


傷顔の男の声が裏返った。

手に持っていた荷物を慌てて置き、慌てたような表情でメリアを見つめる。


「メリアのお嬢じゃないっすか。二年もどこ行ってたんで?」


がっしりとした体格の男も荷運びの手を止めて振り返る。

その表情には驚きと同時に、安堵の色が浮かんでいた。


「久しぶりだなあ」


三人目の年配の傭兵は、懐かしそうに笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。


「お久しぶりです。ちょっと今日は大陸の方で知り合った仲間と来てまして……」


メリアが振り返ってブルとスフィアを紹介すると、傭兵たちの視線が二人に向けられた。


ブルは慌てて小さく会釈する。

巨大な身体を縮こまらせながら、できるだけ威圧感を与えないように気を遣っている様子だ。


一方スフィアは、なめられないように胸を張って傭兵たちを見返している。

肩の上という高い位置から、堂々とした態度を示していた。

だが、逆にその様が愛らしく微笑ましいという事は気付いていないようだ。


「仲間?」


傷顔の男が興味深そうに二人を眺める。


「でけえなあ」


がっしりとした男がブルの巨体に感嘆の声を上げる。


「猫獣人がいてこの時期に帰ってきたってことは豊漁祭目当てかい?」


年配の傭兵が察しの良い推測を口にする。


「ええ、魚を食べさせてあげたくて。事前受付まだやってます?」


メリアの質問に、傭兵たちは顔を見合わせる。

その表情には、少し申し訳なさそうな色が浮かんでいた。


「生憎だなあ。事前受付は昨日までさ。もう当日分しかねえよ」


年配の傭兵が残念そうに答える。


「ありゃ、それは残念ですね。良い釣竿を調達できそうな商会どこです? 二年も離れてたんで……やはりアクアブルー商会ですかね?」


メリアが代替案を求めると、三人は再び顔を突き合わせる。

そして傷顔の男が腰の革袋から小さな地図を取り出し、桟橋の手すりに広げた。


「いや、うーん。そうだな……」


傷顔の男が地図上の一点を指差す。


「大通りのここの商会がこの二年で業績伸ばしてていい感じだぜ、お嬢」


「そうそう、ちっと行ってみると良いぜ」


がっしりとした男も同意するように頷き、年配の傭兵がそれに補足する。


「他に武具系も強いんだったかな。見てみると良い」


「いいですね! ちょっと行ってみます。ありがとうございました!」


メリアが明るい声で礼を言うと、傭兵たちも笑顔で手を振った。


「おーう」


「ゆっくりしていきなよー、お嬢。」


三人が桟橋を歩いて去っていく後ろ姿を見送りながら、傭兵たちは小声で会話を交わす。


「……怒られねえかな?」


傷顔の男が不安そうに呟く。


「大丈夫だろ」


がっしりとした男が肩をすくめる。


「むしろ教えねえほうが怒られるだろ」


年配の傭兵がもっともらしく答える。


そう言って三人は再び荷運びの仕事に戻るのであった。

桟橋には再び荷物を運ぶ音と、威勢の良い掛け声が響いていく。


三人の言葉が何を示しているのか。

メリアたちがそれを知るのは、すぐのことであった――。


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