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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第四話 鶏肉料理の味比べ

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審査員の選定

前話とまとめることも考えましたが、分割した方がシーン切り替えわかりやすかったのでこうしています。

場面は再びステージへと移る。


「皆様お待たせいたしましたァ――!」


メリアの張り上げた声が大広場に響き渡る。観客席からは期待に満ちた歓声が上がり、会場の熱気が一層高まっていく。


「これより、貴族の美食家グラーノ氏 VS 冒険者スフィアの代理人であるロイラ氏の料理勝負が始まります!」


ステージ上では、グラーノとロイラがそれぞれのキッチンに立っている。

二つのキッチンには同じ設備が用意されており、どちらにも不公平がないよう配慮されていた。


炭火用のコンロ、調理台、各種調理器具、そして新鮮な食材が整然と並んでいる。


グラーノは白いコック帽を被り直し、貴族らしい優雅な仕草で調理台を確認している。


一方のロイラは慣れた様子で包丁の切れ味を試し、食材の状態を入念にチェックしていた。


「ルールは簡単! 審査員たちが双方の料理を食し、『どちらを毎日食べたいと思うか』投票していただきます!」


観客席からざわめきが起こる。


「なるほど簡単だな」


「でも審査員席に誰もいなくない?」


「そういやそうだな……」


疑問の声が飛び交う中、メリアは得意げに胸を張った。


「それでは審査員の発表を行います! 皆様、入り口で配った整理券をご覧ください!」


観客たちは一斉に手元の整理券を見る。

番号が記載された小さな紙切れを、改めてまじまじと眺めていた。


「その整理券に記載された番号で抽選を行い、選ばれた七名が審査員となります!」


会場が一瞬静まり返り、次の瞬間、爆発的な歓声に包まれる。


「なるほど、整理券はこのためか……!」


「エンターテイメントしてるなあ」


「俺も当たるかな!」


観客たちの興奮が最高潮に達した時、グラーノが手を上げた。


「ちょっと待ってくれないかネ」


メリアは振り返る。


「ハイ、グラーノ氏なんでしょう」


「そこの子猫君が審査員席……八番目に座っているように見えるが、どういうことかネ?」


グラーノが指差した先には、『特別審査員』と書かれた札が置かれた席に座るスフィアの姿がある。


腕組みをして、どこか満足げな表情を浮かべていた。


「まさか自分の主張する料理に投票するなど言わんだろうネ?」


グラーノの言い分はわかる。

利害関係者が審査員では公平性に欠けるだろう。


「言わねーよ。理由はあんだ」


スフィアが立ち上がり、観客席に向かって声を張る。


「あんたは庶民料理と貴族料理を食べてる。だが俺は庶民料理しか食べてない。俺は俺の納得のために貴族の料理と食べ比べたいだけさ。俺に投票権はないから食べるだけだな」


観客席からは納得の声が上がる。

この場でしっかりと納得するために料理を食べ比べたいというのは理解できる話だ。


「……なるほど。まあ投票権がないという事なら言うことはないかネ」


グラーノも渋々ながら納得する。

発起人としても、料理人としてもスフィアの理屈を認めざるを得なかった。


その時、ブルが大きな抽選箱を抱えてステージに現れる。

木製の箱には手を入れる穴が開いており、中で紙がカサカサと音を立てていた。


「それでは一人ずつ番号を読み上げますので、当選した選ばれし者たちは前へどうぞ! あ、草食の方は申し訳ありません。その場合、別途食事券を用意するので再抽選とさせていただきますね!」


「いきまーす」


ブルが抽選箱に手を入れ、最初の紙を引き出す。

そして大声で番号を読み上げていく。


「第一番、154番の方ー!」


観客席の一角から「やったー!」という声が上がり、一人の冒険者風の男性が立ち上がる。


「第二番、67番の方ー!」


今度は商人風の女性が手を上げ、嬉しそうに前に向かっていく。


抽選が進む中、メリアの表情には満足げな笑みが浮かんでいた。

その笑顔は、どこか計算高さを感じさせる。


(普通なら審査員を呼ぶとなればギャラは発生するし予定を合わせたり色々手間がかかりますが、これなら観客は盛り上がってギャラは発生しない! 上手くいきましたねえ!)


メリアの考案したこの仕組みは、コストを抑えながら観客の満足度を最大化する、まさに一石二鳥の作戦だった。

選ばれた審査員は料理を食べるという事自体が報酬となるため、ノーギャラでも不満は出ないだろう。


一方、特別審査員席に座るスフィアもまた、似たような笑みを浮かべている。

その表情は明らかに何かを企んでいる顔だ。


(この理屈なら俺はタダで両方の飯を食える! せっかくの料理勝負を指くわえて見てるだけなんて我慢できるかよ!)


スフィアの食い意地と機転が見事に合致した瞬間だった。

投票権がないという制約はあるものの、それは問題ではない。

彼が貴族料理を味わえる絶好の機会を逃すはずがないのだ。


「なんか二人とも悪い顔してる……」


抽選を担当していたブルは、メリアとスフィアの表情を見て小さくため息をつく。


ブルの素直な感想が、会場の喧騒に紛れて呟かれた。

彼だけが、この料理勝負の裏で蠢く二人の思惑に気づいているようだった。


果たして、この料理勝負はどのような結末を迎えるのか――観客たちの期待と興奮は最高潮に達し、ついに本格的な戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。



◆◆◆◆



しばらくして、審査員席には七名が着席していた。


冒険者風の男性が緊張した面持ちで身を乗り出し、隣では商人風の女性が興味深そうに料理台を眺めている。

年配の職人らしき男性は腕組みをして落ち着いた様子だ。

若い女性は手帳を取り出して何やらメモを取る準備をしている。


獣人の審査員たちも多彩だった。

狼獣人の男性は鋭い嗅覚で既に食材の匂いを嗅ぎ分けようとしており、猫獣人の女性は優雅に座りながらも瞳は料理台に釘付けになっている。

熊獣人の大柄な男性は、その巨体に似合わぬ繊細な表情で料理人たちの動きを観察していた。


全員が肉食可能な種族であり、鶏肉料理を心から楽しみにしている様子が伝わってくる。


「さて、それでは審査員も出揃いましたので、料理を始めていただきましょう! 合図をお願いします!」


メリアの声に応じて、ブルが舞台横に設置された大きな銅鑼の前に立つ。

その銅鑼は会場全体に響き渡るよう、特別に用意された巨大なものだ。


「それでは料理……開始ッ!」


ブルが力強く銅鑼を叩く。

響き渡る音に合わせて、グラーノとロイラが同時に動き始めた。


「さて、料理が出来上がるまで暇だな……」


スフィアが特別審査員席でつぶやいた時、メリアの驚愕の声が会場に響く。


「おおっと! グラーノ氏が取り出したのは極楽鳥の中抜きだァ――!」


グラーノの手には、通常の鶏とは明らかに異なる大きな鳥の肉があった。

美しい虹色の羽毛の名残が僅かに残る、見るからに高級そうな食材が一匹分丸ごと用意されている。


「ハァ!?」


スフィアが特別審査員席から立ち上がる。

その声は会場全体に響き渡った。


――極楽鳥。


それは大型鳥類種の魔獣である。

その名の通り極彩色の美しい羽毛を持ち、肉は芳醇で深い旨味を持つことで知られている。


しかし美味である分、多くの捕食者に狙われる宿命を背負った魔獣でもあった。

そのため極楽鳥は独特の生態を進化させている。

自分を狙ってきた敵を巧妙に罠にかけ、返り討ちにした後で死骸に残った魔力を吸い尽くすのだ。


この魔力吸収により、極楽鳥は強大になり肉はさらに美味になるという好循環を生み出すという、非常に好戦的で狡猾な魔獣として冒険者たちからも恐れられていた。


「なんだよそれ! 材料違うとか反則だろ!」


スフィアの抗議に、グラーノは鼻で笑う。


「道理の知らんやつだネ。良い料理には良い素材が必要なのだヨ」


「あれはグラーノ氏の自腹で用意された品で、今回の料理勝負のために特別に取り寄せたものだそうです」


メリアが冷静に説明する。


「ちなみに事前に申請をして通ってます。スフィアさんは代理人の申請を事前にしてないですよね?」


「……ぐにゅう……」


スフィアが言葉に詰まる。


「私だって悪魔ではないので事前申請くれてればニワトリキング用意しましたよ。でも突然で用意できなかったんです」


メリアの説明は論理的で、反論の余地がない。


「グラーノ氏が自腹で揃えた品の同等品をこちらで用意するのは、それこそフェアではないですしね」


「それは……そうだけどよ……」


「一応市場で用意できるうちでは一番いいのにしてるんでそれで我慢してください。だから普段から連絡省くなって言ってるじゃないですか」


メリアの正論攻撃に、スフィアは完全に沈黙する。


「……ギャフン!」


「ふふん、子猫君の鳴き声は心地いいネ」


グラーノが勝ち誇ったように極楽鳥の下ごしらえを始める。


一方、ロイラは動じることなく市場で調達された上質な鶏肉の処理に取りかかっていた。

プロの料理人らしく手際よく皮を剥ぎ、余分な脂を取り除いていく。


「グラーノ氏は極楽鳥を大胆にも丸ごと使用するようです!」


メリアの実況が続く。グラーノは極楽鳥を贅沢に使い、胸肉、もも肉、手羽と部位ごとに分けて調理を開始していた。


「おお、あの手つき!」


「流石に美食家で料理人なだけはあるな!」


観客席から感嘆の声が上がる。


「対するロイラ氏は堅実な手法で鶏肉を捌いています! 無駄のない動きは長年の経験を物語っていますね!」


ロイラの包丁さばきは職人そのものだった。

一切の無駄がない動きで、鶏肉を最適な大きさに切り分けていく。


グラーノは大量のバターとクリームを用意し、濃厚なソース作りに取りかかる。

香草をふんだんに使い、贅沢な香りが会場に漂い始めた。


「なんという香り……!」


「これは期待できそうだ」


観客たちの期待が高まる中、ロイラは対照的にシンプルな調味料を選んでいた。

塩、胡椒、そして数種類のスパイス。素材の味を活かす方向性のようだ。


「ロイラ氏は素材重視の調理法を選択! 対してグラーノ氏は贅沢な食材に更なる贅沢を重ねる構成!」


両者の方向性が明確に分かれてきた。

グラーノの料理台からは芳醇で重厚な香りが立ち上り、ロイラの台からは清らかで食欲をそそる香りが漂ってくる。


「この勝負、どうなるのでしょうか――!?」


メリアの煽り文句と共に、料理勝負はさらなる白熱を見せようとしていた――。

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