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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第三話 子供たちと山菜

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山菜料理

夕暮れが近づく山道を、一行は孤児院へと向かって歩いていた。


西陽が木々の間から差し込み、足元の石ころや落ち葉を金色に染めている。

風は心地よく、鳥たちのさえずりが静かな山道に響いていた。


スフィアが振り返りながら呟く。


「結果的には大収穫だったな」


群牙猪に吹き飛ばされた山菜は戦闘後に子供たちと修道女、メリアが懸命に拾い集めていた。

スフィアが群牙猪を解体している最中に子供たちは再度山菜の収集を行う余裕さえ生まれた。

結果として、当初の予想を遥かに上回る大量の食糧を調達できたのである。


現在、大量の山菜や群牙猪の毛皮、牙などの素材はブルが背負い、スフィアもかなりの量の肉を抱えていた。

ブルの背中には巨大な荷袋が三つほど縛り付けられており、その重量は相当なものだが彼の怪力をもってすれば軽々と運べる。


メリアは歩きながら手帳を広げ、ペンを走らせていた。


「今回の群牙猪は依頼対象ではなくギルドの管理から外れた偶発遭遇個体だから素材や肉は総取りで、毛皮と牙がこのくらいの売値で……」


計算に熱中するメリアの表情は朝に見せたようなだらしない顔つきになっている。

目が細くなり、口元が緩んで、まるで金貨を数えているかのような恍惚とした表情だ。


「ねーちゃんの顔きもい」


荷物を持ちながら歩いている男の子の一人が、率直な感想を口にする。


「言ってやるな」


スフィアが一応フォローだけは入れておく。

フォローだけは。


一方、修道女は恐縮そうに頭を下げている。


「今回は子供たちを守っていただき、ありがとうございます……」


その声には心からの感謝が込められていた。

もし三人がいなければ、子供たちが群牙猪に襲われていたかもしれない。


「あ、いえ。これも仕事内容のうちですし……子供たちが無事でよかったです」


ブルは謙遜しながら答えた。


その時、ブルの肩の上から小さな声が聞こえる。


「ブルお兄ちゃんすごーい! たかーい!」


花を見せてくれた女の子のアンナがブルの肩に乗っていた。

地面から三メートル以上の高さで、彼女にとっては見たことのない景色が広がっている。


「僕も乗りたいー!」


「あたしもー!」


他の子供たちも口々に要望を出し始めた。


「あはは」


ブルは照れくさそうに笑う。


頼もしいところを見せたブルは、すっかり子供たちの人気者になっているようだ。

群牙猪との戦いで見せた勇気ある姿が子供たちの心をがっちりと掴んでしまった。


そんな光景を見ていたスフィアが、ふと修道女に話しかける。


「そーだ。あんた、ちょっと話があんだけどさ」


「なんでしょう」


修道女は首を傾げた。


「俺肉食だから野菜食わねーんだ。なんで山菜料理は良いからこの肉分けてくんねーかな。俺の分の追加報酬ってことで」


スフィアは抱えている群牙猪の肉を軽く持ち上げてみせる。

彼はほぼ完全な肉食主義で、野菜類はほとんど口にしない。

正確には少しは口にできるが、食べすぎるとお腹を壊すのだ。


ちなみに普通の猫とは違い、玉ねぎなどは少量ではあるが食べられたりする。

猫と猫獣人は違うのだ。


「ええ、ええ。もちろんよろしいですよ」


修道女は快く承諾した。


そして、少し考えるような表情を浮かべてから続ける。


「よろしければ、ウチの孤児院がよく保存食を買っている工房の場所もお教えしましょうか。持ち込みのお肉があればベーコンや燻製肉、干し肉などの加工ができますし、追加のお肉の購入もできますよ」


スフィアの目が輝いた。


「マジかよ! あんた良い人だ!」


予想以上の好条件に、スフィアのテンションが一気に上がる。

肉を加工してもらえるなら保存も利くし、長期間美味しい肉を楽しむことができる。


スフィアはブルとメリアの方を振り返った。


「つーわけで俺は今から行ってくる」


「え、今からです? 別に孤児院に戻ってからでも……」


メリアが驚いたような声を上げる。


「今はブルに夢中だが孤児院に戻ったらまた追い掛け回されるのが目に見えてる。なんで俺は用事もねえしもうバックレる。これ孤児院の分な!」


スフィアは自分の分の肉の一部を修道女に手渡すと、残りの肉を抱えて早足で歩き始めた。


「じゃあな!」


あっという間に、肉を抱えたスフィアの小さな後ろ姿が山道の向こうに消えていく。


「判断が早い」


メリアが呆れたように呟いた。



◆◆◆◆



孤児院の食堂には、温かな夕食の香りが漂っていた。


長いテーブルには、メリア、ブル、修道女、そして十数人の子供たちが席に着いている。

テーブルの上には、今日の山菜をふんだんに使った料理が並んでいた。


メインは群牙猪の肉をたっぷりと使った山菜の煮込み。

厚切りの肉に、フキノトウ、ワラビ、タラノメなどの山菜が彩りよく加えられている。

コトコトと長時間煮込まれた肉は箸でほぐれるほど柔らかく、野菜の甘みと肉の旨みが絶妙に絡み合っていた。


大きな土鍋には、山菜がたっぷり入ったスープが湯気を立てている。

群牙猪の骨で取った出汁をベースに、山で採れたキノコや野草を加えた滋養豊かなスープだ。

表面には美味しそうな油の膜が張り、香草の香りが食欲をそそる。


小皿には、フキノトウの天ぷらやワラビのおひたし、タラノメの胡麻和えなど、山菜それぞれの特色を活かした料理が並んでいる。

どれも丁寧に調理されており、素材の味を最大限に引き出していた。


しかし、ブルの前だけは料理の内容が異なっている。


彼の皿には、動物素材を一切使わない完全草食用の料理が並んでいた。

山菜の煮物は野菜の出汁のみで調理され、スープも干し昆布とキノコで取った精進だしを使用している。

肉の旨みはないが、野菜本来の甘みと香りが際立った優しい味わいの料理だ。


「猫さんがいないー」


「スフィアお兄ちゃんどこ行ったの?」


「つまんない!」


子供たちが口々に不満を漏らす。


「これこれ、お客様にはお客様の都合があるのよ」


修道女が優しく窘めた。


「でも猫さんとまだ遊び足りない!」


「しっぽふわふわだったのにー」


子供たちの抗議は続く。

どうやら、スフィアの愛らしさは完全に子供たちのハートを掴んでしまったようだ。


「きっとまた会えるわよ。それよりも、今日は皆でお祈りをして、美味しいお食事をいただきましょう」


修道女の言葉に、子供たちは渋々ながらも手を組んだ。


「天の神様、今日も一日を無事に過ごすことができ、ありがとうございます」


修道女の祈りの言葉に、子供たちも小さな声で続く。


「美味しい食事を与えてくださり、ありがとうございます。困ったときに助けてくださる人たちがいることに、感謝いたします」


メリアとブルも、敬虔に手を組んで祈りに参加している。


「これからも、みんなが健康で幸せに過ごせますように。聖なる光の加護を」


「聖なる光の加護を」


全員の声が揃って響いた。


「それでは、いただきます」


「いただきまーす!」


子供たちの元気な声と共に、夕食が始まった。


スプーンですくった山菜スープを一口飲むと、野菜の深い旨みが口いっぱいに広がる。

群牙猪の骨から出た濃厚な出汁が、山菜の野趣あふれる味わいを包み込み、まろやかで複雑な味を作り出していた。

キノコのシャキシャキとした食感と、野草のほろ苦い風味が、スープに奥行きを与えている。


「わあ、美味しい!」


「このお肉、すっごく柔らかい!」


子供たちが目を輝かせながら食事を頬張る。


煮込み料理の肉は、長時間の調理によってとろけるような食感になっている。

フォークで軽く押すだけでほぐれ、口に入れると肉の繊維がほろほろと崩れていく。

群牙猪特有の野性味のある肉の味わいが山菜の苦みや甘みと調和して、他では味わえない複雑で豊かな味を生み出していた。


フキノトウの天ぷらはサクサクと軽い食感で、子供たちにも好評だ。

衣は薄くてパリッとしており、中のフキノトウは苦みの中に春の香りが感じられる。


ワラビのおひたしは、シャキシャキとした歯ごたえが心地よい。

山菜特有のぬめりが残っており、だしの味が良く染み込んでいる。

噛むたびに野山の青々とした香りが鼻に抜けていく。


タラノメの胡麻和えは、ほんのりとした苦みの中に胡麻のコクと香ばしさが絡み合っている。

タラノメの穂先の部分は特に柔らかく、春の新芽らしい瑞々しさが感じられた。


「ブルさんのお料理も美味しそうですね」


メリアがブルの皿を覗き込む。


ブルの山菜煮物は、動物性の出汁を一切使わずに調理されているが、市場で購入したという干し昆布とキノコの旨みが野菜の甘みを引き立てている。

肉のような旨みはないが、代わりに野菜本来の優しい味わいが前面に出ており、まさに草食動物らしい食事だった。


「うん、とても美味しいよ」


ブルは満足そうに答える。


彼の精進スープは澄んだ琥珀色で、野菜とキノコだけで取ったとは思えないほど深い味わいを持っている。

昆布の旨みとキノコの香りが基調となり、山菜の野性的な風味がそれを彩る。

動物性の濃厚さはないが、その分すっきりとして飲みやすく、野菜の持つ自然な甘みが口の中に広がっていく。


「お肉ないと物足りなくないの?」


一人の女の子が素直に聞く。


「大丈夫だよ。僕たちミノタウロスは草食だから、これで充分なんだ」


ブルは微笑んで答えた。


「でも野菜だけでそんなに大きくなるの?」


「そうだよー。野菜や穀物をたくさん食べて、この体格になったんだよ」


子供たちは感心したような表情を浮かべる。

野菜だけでブルのような巨体になるというのは、彼らにとって驚くべきことだった。


食事が進むにつれて、食堂は温かな雰囲気に包まれていく。

子供たちの笑い声、スプーンやフォークの音、そして美味しい料理の香りが混じり合って、まさに家族的な夕食の時間を作り出していた。


窓の外では夕暮れが深まり、食堂の明かりがより一層温かく感じられる。


ここに集まった全員は、食事を通じて楽しいひと時を過ごしたのであった――。

現実の動物が食べたらダメなネギ類の他、チョコなども大丈夫ですし甘味もイケます。

これはグルメ物なのに「猫が食べられない素材はあれこれだからこの料理はダメ」などの事態が起こらないようにするためです。

でもせっかくの獣人設定なので肉食と草食設定は残しつつファジーに決めます。

とはいえ、いくら食べても大丈夫でも本作を読んで「猫にチョコあげよう」など思われても困るので、そのものを食べる描写は控えめで。

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