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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第二話 草原と貴族冒険者

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狂戦士

今度はスフィア一行三人が、別の離れた個体に向かった。


群れから十分な距離を置いた場所で、一頭の黒鉄牛がのんびりと草を食んでいる。

こちらに気づいていない様子で絶好のターゲットだ。


なお、ピエールのライバルたる黒鉄牛とは別個体である。

なんか勝手にピエールがライバルとして彼?に熱い視線を送っていたので、倒すのは気が引けたのだ。


「そういやメリア」


スフィアが歩きながら声をかけた。

三角の耳をぴょこぴょこと動かしている。


「なんです?」


メリアは振り返りながら答えた。


「あのピエールっての見た感じ貴族だよな? それにしちゃお前普段通りっていうか……媚びたりしねえんだな?」


スフィアの素朴な疑問だ。

普通なら貴族相手には下手に出るものだが、メリアは特に態度を変えていない。


お金が好きならば、なおさら下手に出るのが普通だろう。

見た感じ、金目当てにすり寄って恋人になることも考えていなさそうだ。


「私がお金目当てにすり寄ると? 知らないんですかスフィアさん」


メリアは振り返って、ふふん、と少し得意げな表情を浮かべた。


「他人のお金は私のお金じゃないんですよ」


その堂々とした物言いに、スフィアは少し面食らった。

金色の瞳を丸くして驚いている。


「お、おう」


「そもそもですね、私が好きなのは私が管理できて好きに使えるお金でして、他人のお金にはそこまで興味はありません」


メリアは力強い口調で力説した。


「私は嫌ですよ、お金持ち相手にプライド捨ててすり寄るの。お金は大事ですが相手をお金ありきの存在とは見たくないですね」


なるほど、金は好きだが人としてのプライドは守っているようだ。

少なくとも金のために魂を売るタイプではないとわかる。


「まあ借金の時は手段を選んでいられない状況だったので別ですが」


「たくましいやっちゃな」


スフィアは感心したように頷いた。


「もちろんパーティーのお金はみんなのために使うのでご心配なく。さて……」


メリアは話題を切り替え、目標の黒鉄牛を指差した。


近くには、こちらに気付いていない黒鉄牛がいる。

平和そうに草を食んでおり、警戒している様子は全くない。


メリアが首を傾げながら戦術について尋ねた。


「ここからどうするんです?」


「ブルに任せようかと思ってる。ブル」


スフィアは指でブルの方を指しながら簡潔に答えた。


「うん」


ブルは大きく頷いて、大きな手斧と金属製の大きな棍棒を手に取り、前に出た。

その武器は確かに迫力があり、見るからに威力がありそうだった。


「近くで見ると大きい手斧ですねえ」


メリアが手をかざして大きさを測るような仕草をし、感心したように呟いた。


「実家から持ってきた使い古しの伐採用斧だよ。林業してたんだ」


「へー……あれ? 林業の伐採用の斧? それはもしかして両手斧なのでは」


あのサイズの斧は普通の人間はもちろん、牛獣人でも両手で扱うのが精一杯なのだが、ブルは片手で軽々と振り回している。

しかし、メリアは他の牛獣人を知らないため「牛獣人凄いなー」と呟いており、これがブルの特別な膂力によるものだとは気づいていない。


その時、ブルが深く息を吸い込んだ。

大きな胸が膨らんで戦闘態勢に入る。


そして――。


「モオオオオオオオオッ!!!」


物凄い音圧の咆哮が周囲に響き渡った。


空気が震え、地面が微かに振動する。

その迫力は、まさに野獣の雄叫びそのものだった。


「いっ……!?」


メリアは思わず両手で耳を塞いだ。

あまりの音量に鼓膜が痛くなり、バランスを崩しそうになる。


一方のスフィアは慣れた様子で三角の耳をぺたんと頭に付けて、特に動じる様子もない。


「なんだ!?」


その咆哮は遠くのピエールたちのところにも届き、メイドたちによる治療途中だった三人が思わず身を乗り出した。


ブルは咆哮と同時に突進を開始した。


その巨体が地面を蹴るたびに、ドンドンという重い音が響く。

まるで小さな地震のような振動が草原に伝わっていく。


そして黒鉄牛の手前で、ブルは大きな棍棒を振り上げて地面を力任せに殴打する。


ドガァン!


凄まじい衝撃音とともに地面が大きく砕け、草と土が舞い上がった。

まるで爆弾が炸裂したかのように土が巻き上がり、黒鉄牛の視界を一瞬遮る。


黒鉄牛は突然の咆哮と衝撃に驚愕し、脅威を感じて慌てて逃げようとした。


しかし、舞い上がった土に紛れたブルが棍棒を振り上げ、逃げ惑う黒鉄牛の側面に一撃が叩き込まれる。


一発でノックアウトされた黒鉄牛は、宙を舞って地面に倒れ伏したまま動かなくなった。


しかし、その騒ぎを聞きつけたのだろう。

群れから二頭の黒鉄牛が脅威を感じて襲い掛かってくる。


「モオオオッ!」


ブルは再び咆哮を上げながら、追加の敵に立ち向かった。


追加の黒鉄牛が突進してくるのを見定めると、ブルは左手の手斧を盾のように構えて正面から受け止めた。

黒鉄牛の角と手斧の刃が激突し、金属音が響く。

しかし、ブルの膂力は圧倒的で、魔獣の突進を完全に止めてしまった。


そのまま右手の棍棒を振り上げ、受け止めた黒鉄牛の頭部に向かって振り下ろす。

重い一撃が炸裂し、二頭目の黒鉄牛も意識を失って倒れ込む。


もう一頭が横から襲い掛かってきたが、ブルは振り返りざまに棍棒を横薙ぎに振り抜いた。

完璧なタイミングで魔獣の突進を迎撃し、これも一撃で沈めてしまう。


戦闘は開始から数十秒で終了した。

その様は戦士というよりモンスター、怪物を思わせる。


そしてブルは黒鉄牛を仕留めた姿勢のまま、ぶふー、と息を吐いた。


「僕の両腕は、二度破壊の嵐を起こす……!」


「あいつのフレーズ気に入ったの?」


スフィアは呆れたようにツッコんだ。


そして馬車の近く、少し離れた場所から一部始終を見ていたゼノが、呟くように口を開く。


「狂戦士……」


その声には、納得と畏敬の念が込められていた。


戦闘後の惨状を見たメリアは、両手で口を覆いながら思わず声を漏らす。


「うわあ」


目の前には三頭の黒鉄牛が倒れており、周囲の草は踏み荒らされている。

地面にできたクレーターや亀裂がブルの戦闘力の凄まじさを物語っていた。


スフィアは短剣を取り出して、吹き飛んで気を失った黒鉄牛にとどめを刺しながら肩をすくめてあっけらかんと言った。


「あんな恥ずかしい名前付くだけあるだろ?」


その言葉には弟分への信頼と、少しばかりの自慢が込められている。


『狂戦士』


第三位冒険者である彼に付いた二つ名は伊達ではないのであった――。


普段臆病かどうかと、戦いのときに肝が据わるかどうかは別。

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