表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第二話 草原と貴族冒険者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/74

紙一重の勝利

自己紹介が終わったところでピエールが華麗に前に出た。


「さて、それでは冒険者活動を始めようじゃないか。まずは我々が戦うとしよう!」


そう宣言すると、彼は腰の剣を華麗に抜き放った。

装飾の施された美しい剣身が陽光を受けて輝き、確かに見栄えは良い。

背後ではメイドたちが再び反射板で光を当て、演出は完璧だ。


「我が剣は、破壊の風を巻き起こすっ!」


大げさなポーズとともに宣言するピエール。

その堂々とした態度には、確かに人を惹きつける何かがあった。

カリスマというやつだろか。


「か、かっこいい!」


ブルが素直に感嘆の声を上げた。

大きな瞳を輝かせて、まるで憧れの英雄でも見るかのような表情である。


「そうか?」


それに対してスフィアは普通に冷静だった。


ちなみに黒鉄牛は、単体ならば第四位冒険者でもなんとかなる魔獣である。

アレッタとゼノのような実力者なら十分対処可能な相手だ。


アレッタとゼノは手慣れた様子で、群れから離れている個体に目を付けた。

経験豊富な冒険者らしく、戦術的な判断は優れているようだ。


「では我々が前に出て戦いますので、ピエール様は後ろで援護を」


ピエールに援護を頼むが、その真意は明らかに「邪魔だから下がっててほしい」というもの。

苦笑いを浮かべながら、アレッタはできるだけ丁寧に伝えようとしていた。


しかし。


「不要ッ!」


ピエールの拒絶は即座だった。


「えっ」


アレッタが驚いた表情を浮かべる。


「高貴なる者、民の規範であれ! 僕が前に出ずしてどうするッ!」


ピエールは胸を張って宣言した。

その表情には確固たる信念が込められている。


実力が伴っていれば立派な発言である。


実力が伴っていれば。


「えっ」


アレッタの困惑はさらに深まった。


「さあ行くぞ二人ともッ! 我らの絆の力を見せるのだッ!」


ピエールは剣を天に向けて掲げながら、壮大な宣言を行った。


「こないだ会ったばかりなんですが!?」


アレッタの必死の抗議が響く。

雇われたばかりで絆などあるはずがない。


「案ずるな! 絆の深さと絆を育んだ時間は……関係ないッ!」


「限度がありますよねッ!?」


ピエールは最近会ったばかりという事実を気にしておらず、アレッタの声が裏返った。


「総員、突撃ッ! 僕に……続けェッ!!」


ピエールは華麗に突撃を開始した。

その勇ましい姿は確かに格好良いが、戦術的には無謀極まりない。

狩りの駆け引きとか有利な戦場の構築は?


「うわああああ!? ああもうっ!!」


アレッタは慌てて後を追った。

ゼノも無言で駆け出す。


雇い主を見捨てるわけにはいかないのだ。

スフィア一行は、その様子を茫然と見つめていた。

一方、メイドと執事たちは大きな声援で主人を送り出している。


「……絆の深さと育んだ時間は関係ないって、良い言葉なんですけどねえ……」


「でも時間が浅すぎて絆も寝耳に水だよね」


「育むどころか首も据わってねえ赤ん坊状態だろ」


三人はそれぞれ好き勝手に感想を言い合う。


そして戦闘が始まった。


ピエールは華麗に剣を振り上げ、黒鉄牛に向かって突進する。


「はああああああっ!」


雄々しく叫びながら剣を振り下ろそうとしたその瞬間、黒鉄牛の太い角がピエールの脇腹に直撃した。


「うわああああ!」


ピエールの体は放物線を描いて宙を舞い、派手に地面に転がった。

華美な鎧がガチャガチャと音を立てて、草原に土埃が舞い上がる。


「うおおおおおっ!」


素早く立ち上がったピエールが再び突撃を敢行する。

今度は連続で剣を振るおうとしたが、一撃目を外した瞬間に黒鉄牛の頭突きが腹部にクリーンヒット。


「ぐわあああああ!」


ピエールは再び宙を舞い、今度はより遠くまで飛ばされた。

着地の際に鎧の留め具が外れて、派手な音を立てて地面に散らばる。


追いついたアレッタとゼノがフォローに入ろうとするが、その時には既にピエールは三度目の突撃を敢行していた。


「でりゃああああああっ!」


今度は回転しながら斬りかかろうとしたピエールだが、重なったダメージによるめまいで足元がふらつき、自ら転倒。

そこに黒鉄牛の後ろ蹴りが炸裂した。

その蹴りは敵に対する攻撃というより、煩わしい相手を追い払うようなものだ。


「のわあああああっ!」


ピエールの身体は弧を描いて飛び、着地と同時に草原を数回転がった。

華美な羽根飾りが散らばり、剣も手から離れて遠くに飛んでいく。


「あの、一旦退きませんか!?」


「まぁだまだァァァァ!!」


アレッタが必死に退却を提案したが、ピエールは既に立ち上がっていた。

泥まみれになりながらも、不屈の精神を見せるピエール。

しかし、その時には既に黒鉄牛が次の突進を開始していた。


「危ない……!」


ゼノが身を挺してピエールを庇おうとしたが、間に合わない。

黒鉄牛の角がピエールを下から跳ね上げ、今度は空中で一回転してから落下した。


「うぐおおおおおっ!?」


大きな音とともに地面に倒れ伏すピエール。

さすがに今度は立ち上がるのに時間がかかった。


アレッタが駆け寄って必死に止めようとしたが、ピエールの闘志は衰えない。


「やるではないか、黒鉄牛……我がライバル! だがこの程度で……」


よろめきながらも剣を拾い上げるピエール。

いつの間にか黒鉄牛をライバル認定している。

黒鉄牛もいい迷惑である。


ボロボロでも立ち上がるその姿は勇敢だが、客観的に見れば無謀以外の何物でもない。


そして、更に十数分の時が経過。

結局、三人はボロボロになって戦闘を終了した。


「紙一重だったな……! 紙一重の敗北……惜敗……いや、紙一重だったということは実質互角の勝負だった……!」


ピエールは息を切らしながらも、なぜか満足そうな表情を浮かべていた。

服は汚れ、髪は乱れ、鎧の一部は外れているが、その目には達成感らしきものが宿っている。


ちなみに先ほどまで激戦を繰り広げたピエールのライバルたる黒鉄牛は、外敵を排除し終わって再びのんびりと草を食べ始めている。


「負けず嫌いすぎる」


ブルが率直な感想を述べた。


「明らかに惨敗でしたが」


メリアも同様に現実を指摘する。


「あれを互角にするあたり、こいつの面の皮は相当分厚いな」


スフィアの評価は辛辣だった。


「足元の花を踏まぬように気を遣った結果互角ともなれば、今回の戦いは実質勝利だったと言っても過言ではないだろう……」


髪をさらりと指で払いながら言うピエールの理論はさらに飛躍していた。

なんだこいつ。


「凄い、あれ勝利判定なんだ」


ブルが純粋に驚いている。


「見渡す限り緑一色の草原で、花は一つも見当たりませんが」


メリアが冷静に周囲を見回すが、確かに草原には草しか生えていない。


「こいつの面の皮、ミスリルかなんかか?」


スフィアの毒舌は止まらない。


黒鉄牛とピエールの戦い。

それはピエールの勝利に終わったらしい。


肉を狩れてないし当人はボロボロ。

黒鉄牛に至っては無傷だが、本人が勝利と言っているならそうなんだろう。


再び草原に響く鳥の鳴き声が、近づいては遠ざかっていった――。

ピエール「勝利だとも(確信)」


そっかー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ