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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第二話 草原と貴族冒険者

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パーティーの頭脳役

パーティー登録の手続きが完了すると、三人は受付カウンターから少し離れた依頼掲示板の前に移動した。


大きな木製の掲示板には、色とりどりの依頼書がぎっしりと貼り出されている。


魔獣討伐、素材採取、護衛任務、調査依頼など、様々な種類の仕事が冒険者たちを待っていた。

朝の時間帯ということもあり、他にも数組のパーティーが依頼内容を吟味している。


受付カウンターのマチルダは書類の整理をしながらも、時折三人の方に視線を向けていた。

新しく結成されたパーティーがどのような方針で活動していくのか、職業柄気になるところである。


(それにしても、あのメリアって子、第六位なのになんであの二人と一緒にいるのかしら……上手く取り入ってるって感じじゃなさそうだけど)


マチルダの目にはメリアが単なる階級の低い便乗者には見えなかった。

むしろ、三人の間には対等な関係性があるように感じられる。


メリアのことはパーティー申請時に少し聞いた。

スフィアが先日初めて会ったばかりの元商人と聞いているが、既に自然な連携が取れているのが不思議である。


「何か依頼でも請けます?」


メリアが掲示板を見上げながら提案する。

元商人らしく、早速収入について考えているようだ。


「肉が食える依頼が良いな。いっぱい食えるとなおいい」


スフィアの返答は実に彼らしく、食い気優先。


金色の瞳を輝かせながら掲示板を眺めている。

彼にとって冒険の最大の目的は美味しい肉を食べることであり、報酬は二の次である。


ブルが掲示板の一枚を指差した。


「じゃあこれは? 高級料理屋の依頼で、黒鉄牛の肉調達。魔獣の肉だから報酬も割高だよ」


その大きな指先が示した依頼書には確かに魅力的な報酬額が記載されている。

黒鉄牛という魔獣の肉は美味であり、高級料理店では重宝される食材らしい。


メリアがふと気になって尋ねた。


「……ブルさん、牛を狩ることに抵抗は?」


ミノタウロスであるブルにとって、同じ牛の魔獣を狩ることに心理的な負担があるのではないかと心配したのだ。


「無いよ? 牛と牛獣人は似てるけど別物だから」


しかしブルはあっけらかんと答えた。


「あと僕は草食だから。肉食べたりしないのもあるし食料として見てないから特になんとも」


なるほど、確かに草食性の獣人にとって魔獣は食料としての価値がない。

ゆえに客観視しやすいのだろう。


メリアは納得した表情で頷いた。


「あ、そういう」


「んじゃ、これでいいな?」


スフィアが依頼書を引っ張り出しながら言った。


「馬車で二日ほどの草原にいるらしいから乗れる馬車探さねーと」


黒鉄牛の生息地は街から離れているため、移動手段が必要になる。

それに重い肉を持ち帰ることを考えれば馬車は必須だった。


ブルが困ったような表情で付け加える。


「僕が乗れる乗合馬車少ないもんね」


その巨体を考えれば当然の悩みである。

普通の乗合馬車では荷重に耐えられないし、座席も窮屈になってしまう。

他の客もいる上に大型の獣人も入れる乗合馬車となると、選択肢は大幅に限られてしまう。


そこに、メリアが待ったをかけた。


「ちょっと待ってください。乗合馬車に乗るのではなく、行商人の馬車の護衛依頼をついでに受けましょう」


「護衛依頼?」


スフィアが首を傾げた。


「はい、スフィアさんとブルさんの戦力を遊ばせる手はありません」


メリアは身を乗り出して説明を始めた。


「我々はお金を稼げて商人は安心を買えるWIN-WINの関係ですよ」


一つの移動で複数の収入源を確保する発想は、まさに商人的思考。

その目には金貨マークが浮かんでいるように見える。


「……でも僕らが行く方面の護衛依頼はここにはないよ?」


ブルが掲示板を見回しながら疑問を呈する。


確かにギルドの掲示板を見る限り、黒鉄牛の生息地方面への護衛依頼は見当たらない。

大抵の護衛依頼は主要街道筋に集中しており、草原地帯への依頼は珍しいのだ。


「まあここで請けられたらそれが一番良かったんですが……」


メリアは少し残念そうに肩をすくめる。


「現地、すなわち馬車の停留所で直雇用しかありませんね」


その言葉に、スフィアの表情が困惑に変わった。


「停留所の直雇用……?」


「はい、冒険者ギルドの依頼は依頼をする際にも手数料がかかるんです」


そして語られるメリアの説明は、商人側としてのギルド依頼制度。

なんでも規模に関わらず、冒険者ギルドへの依頼は一定の手数料を支払わねばならないらしい。

そこから規模、距離に応じて補正がかかり、正式な依頼料を設定する仕組みだ。


「手続きも多少面倒ですしね。大きな隊商はその辺必要経費と割り切ってますが、もっと小さな隊商や個人レベルの行商人は手間と資金節約に停留所で護衛専門の傭兵と個人契約を結ぶんです。冒険者ギルドの依頼では個人レベルの行商とか見かけないでしょう?」


「そういえば見かけないね。大きな隊商ばっかりだ」


ブルが納得したように大きく頷く。


言われてみればギルドで見かける護衛依頼は大規模なものばかりで、個人の護衛依頼は貴族相手でもなければほとんど見たことがない。


「個人レベルだとギルドに払う手数料も痛いですからねえ」


「契約の不履行とか契約金持って逃亡とかはどうなるんだそれ」


スフィアが実際的な心配を口にした。

確かにギルドを通さない個人契約となると、トラブルが発生した際の保証が気になるところだ。


「この辺の街道筋でそんなことしたら街に入ってすぐ捕まりますね」


メリアの返答は明快だった。


「そんなの横行したら誰も直雇用しなくなるから、直雇用を収入源にしてる人たちは必死ですよ」


「ああ、護衛傭兵連中の横の繋がりが強いのか」


「そんな業態が成立しないように目を光らせあってるんだね……」


スフィアが理解した表情で頷き、ブルも感心したような声を上げる。


「それにしてもメリアさん詳しいね」


「この辺の通商の業態にちょっと興味があって調べたんです」


メリアは照れくさそうに頬をかいた。


「流石は元商人」


スフィアが感心したように呟く。


やがてメリアは戦略的な役割分担について話し始めた。


「ブルさんは見るからに強そうなんで私の後ろで胸張っててください。寡黙な重戦士として売り込みます」


その提案に、ブルは素直に頷いた。


「はぁい」


大きな身体を少し反らせて迫力のある雰囲気を醸し出す。

普段の気弱さを隠せば、頼りがいのある戦士に見えるだろう。


スフィアが自分の役割を尋ねた。


「俺は?」


「スフィアさんは昨日渡したワイバーンの逆鱗の首飾りあるでしょう? あれ着けててください」


メリアの指摘で、スフィアは首元に下げられた小さな鱗の首飾りを確認する。


「これか? これがあるとどうなるんだ?」


「逆鱗ってのは貴重で、市場にまず流れない素材なんです」


市場にまず流れない素材を首から下げている。

ということは――。


「それを持ってるってことはワイバーンと直接戦って倒した証になります。その線で売り込みましょう。護衛交渉はお任せください」


つまりワイバーンの逆鱗を持っているということは、確実にワイバーンと戦った経験があることの証明になる。

それだけで護衛としての信頼性は格段に上がるだろう。


「超任せた」


「よろしくお願いします」


スフィアは軽く手を振って全面的に任せる意思を示し、ブルも丁寧に頭を下げる。


その様子を受付カウンターから見ていたマチルダは、一人納得したように頷いていた。


(なるほど、あの子は頭脳役かぁ)


あの二人が来てもう半年だが、まだ半年でもある。


色々と人間の常識が足りず危ういところがあったが、彼女がいれば安定するだろう。

実力はあっても世間知らずな部分が多かった二人に適切な助言者が加わったことで、今後の活動はより効率的になるに違いない。


(たまに、あの二人を良いように扱おうとしてた連中居たけど、そういう連中が悔しがりそうねぇ)


マチルダは少し意地悪そうに微笑んだ。

これまでスフィアとブルの世間知らずにつけ込もうとした冒険者たちが何人かいたが、メリアの加入によってそうした心配もなくなるだろう。


三人がギルドの重い扉を押し開けて外に出ていく様子を見送りながら、マチルダは安心したような表情を浮かべる。

新しく結成されたパーティーが今後どのような活躍を見せてくれるのか楽しみだ。


三人の新たな冒険が、今始まろうとしていた――。


ギルドの設定で「冒険者ギルドの依頼が正規。他は闇依頼」みたいな扱いを見たことありますが、全ての依頼を冒険者ギルドが扱ってると業務量がヤバすぎるので、こういう依頼の需要もあるんじゃないかなあ、と思う次第です。

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