序章
長編の初投稿となります。
目新しい要素は控えめで、獣人、グルメ、ファンタジーという使い古された素材で調理していきます。
初見の方は王城パートは最悪飛ばしてもいいので、ひとまずすぐ出てくるワイバーン実食まではお読みいただきたく存じます。
世界を呑み込まんとする竜がそこにいた。
天を摩するほどの巨躯。
光を吸い込む漆黒の鱗。
呼吸をするたびに大気を震わせ、ただそこに在るだけで生物としての格の違いを見せつける黒き竜。
対するは、海より迫る青き壁。
自然現象すら手玉に取った大津波が竜へと押し寄せる。
その波頭に乗るのは常識を覆す規模の大艦隊。
無数の船が波に乗り、飛沫を上げて死地へと突撃する光景はまさに壮観であった。
その先頭。
波の頂点を滑るように駆けるのは、戦場には似つかわしくないほど豪奢な装飾が施された一隻の巨船。
その甲板に、彼らは恐怖にすくむことなく立っていた。
「もうすぐ接敵ですね」
風に美しい銀髪をなびかせ、少女が冷静に距離を測る。
その瞳に宿るのは計算と信頼。
隣に立つ、同じく銀色の髪を持つ妙齢の美女が深紅の唇を吊り上げて獰猛に笑った。
その身から立ち昇る魔力は、並の魔術師を圧倒するほどの圧力を持っている。
「フフ、腕が鳴るな。久々に本気で暴れられそうだ」
そして、その後ろに控えるのは黒く重厚な鎧に身を包む戦士。
彼はその拳を固く握りしめ、前を見据える。
「僕も頑張るよ。勝って帰るんだ」
三者三様、歴戦の猛者たち。
だが、この奇妙な一行の中心にいるのは彼らではない。
船首、一番竜に近い場所。
そこに小さな影が仁王立ちしていた。
灰色の毛並みを持つ猫の獣人。
人間の腰ほどしかないその背丈は黒き竜の爪一本にも満たないだろう。
愛らしい丸みを帯びたフォルムに、ぴんと立った三角の耳。
一見すれば愛玩動物と見紛うその姿。
彼が身に纏うのは蒼鱗の鎧。
背負う純白の剣は、その身の丈に不釣り合いなほどの存在感を放っている。
そして何より、その金色の瞳。
眼前に迫る絶望的な巨竜を見上げながら、その瞳孔は恐怖に縮こまるどころか獲物を狙う捕食者の如くギラギラと輝いていた。
世界の命運?
正義と悪の決戦?
そんな高尚な理屈は彼の前では何の意味も持たない。
グゥゥゥゥゥ~~~。
波音に負けじと彼のお腹が可愛らしく響く。
それは空腹の合図。
生命としての、根源的な欲求の叫び。
彼は口の端から鋭い牙を覗かせ、舌なめずりをして笑う。
竜ごときが彼の食欲を止められるものか。
「さあ――狩りといこうじゃねえか!」
小さな猫獣人が剣を引き抜くと同時に物語の幕が上がる。
これは、食欲という名の武器を以て竜を倒す、とある猫の物語である。
多くの方にお読みいただきたいので、気に入る部分があれば評価と感想をお願いいたします。




