第三十六話 波紋の余韻
倉庫の中は、朝の光と舞う埃で静かに揺れていた。
エリシアは楽器を抱え、弓をゆっくりと握る。
肩の重み、顎当ての冷たさ、指先に残る弦の跡。
音はまだ出ない。
しかし胸の奥で、共鳴の頂点が波紋となり、微かに余韻を残して広がっていた。
楽器の木肌が揺れる。
指先に伝わる軋みは音ではなく存在そのものの呼吸。
長年の触れ合いと弾かれた痕跡が、エリシアの体と呼吸に寄り添い、胸の奥で波紋となって広がる。
低い声の人物が倉庫の奥で影だけを浮かべる。
肩幅、背筋、長い指先の微細な動きが空気を揺らす。
目は暗がりに沈み、表情は読み取れない。
存在感だけで場の中心を支配し、波紋の余韻を伝える。
「余韻を感じろ、胸の奥まで」
低く響く声が空間を震わせる。
音としてではなく、振動として胸に届く。
楽器を通して、エリシアの胸の奥に旋律・光・影・心の余韻が広がる。
エリシアは弓を滑らせる。
木肌の感触、肩の重み、指先の微かな軋み。
音は出ない。
しかし胸の奥では、触れた旋律と揺れる影、重なる光、心の揺れが波紋として余韻を描く。
影が一歩近づく。
肩の傾き、背筋の角度、指先の微細な動き。
問いかけと答えを紡ぐ微細な振動が、光・影・楽器の木肌と交わり、胸の奥で波紋の余韻を形作る。
朝の光が木肌に差し込み、影が床に揺れる。
弓を引く手の動き、木肌の揺れ、影の動きが重なり、音はなくても胸の奥で余韻が確かに響く。
エリシアは小さく息を吐き、弓を止めない。
肩の重み、指先の感触、木肌の温かさ。
音はなくても、波紋の余韻が胸の奥で確かに生きていた。




