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第二十九話 響く存在

倉庫の中は、朝の光と微かに舞う埃で柔らかく満たされていた。

エリシアは楽器を抱え、弓をしっかり握る。

肩の重み、顎当ての冷たさ、指先に残る弦の跡。

音はまだ出ない。

しかし胸の奥で、重なる光と共振が一つに結びつき、存在として響き始めていた。


楽器の木肌が揺れる。

指先に伝わる軋みは音ではなく、存在そのものの呼吸。

長年の触れ合いと弾かれた痕跡が、エリシアの体と呼吸に寄り添い、胸の奥で響く存在を形作る。


低い声の人物が倉庫の奥で影だけを浮かべる。

肩幅、背筋、長い指先のわずかな動きが空気を揺らす。

目は暗がりに沈み、表情は読み取れない。

存在感だけで場の中心を支配し、微細な問いかけとして響きを放つ。


「その存在を感じろ」

低く響く声が空間を震わせる。

音ではなく、振動として胸に届く。

楽器を通して、エリシアの胸の奥に重なる光・影・旋律の存在が確かに響く。


エリシアは弓を滑らせる。

木肌の感触、肩の重み、指先の微かな軋み。

音は出ない。

しかし胸の奥では、触れた旋律、揺れる影、重なる光が一つの存在として共鳴し、胸に刻まれる。


影が一歩近づく。

肩の傾き、背筋の角度、指先の微細な動き。

問いかけと答えを紡ぐ微細な振動が、光・影・楽器の木肌と交わり、胸の奥で響く存在として形を持つ。


朝の光が木肌に差し込み、影が床に揺れる。

弓を引く手の動き、木肌の揺れ、影の動きが重なり、音はなくても胸の奥で存在として響く。

エリシアは小さく息を吐き、弓を止めない。

肩の重み、指先の感触、木肌の温かさ。

音はなくても、響く存在が胸の奥で確かに生きていた。


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