第二十八話 重なる光
倉庫の中は、朝の光が柔らかく差し込み、埃がゆらりと舞う。
エリシアは楽器を抱え、弓をしっかり握る。
肩の重み、顎当ての冷たさ、指先に残る弦の跡。
音はまだ出ない。
しかし胸の奥で、初めての共振が光と重なり、微かに震え始めていた。
楽器の木肌が揺れる。
指先に伝わる軋みは、音ではなく存在そのものの呼吸。
長年の触れ合いと弾かれた痕跡が、エリシアの体と呼吸に寄り添い、胸の奥で光と旋律が重なる。
低い声の人物が倉庫の奥で影だけを浮かべる。
肩幅、背筋、長い指先の微細な動きで空気を揺らす。
目は暗がりに沈み、表情は読み取れない。
存在感だけで場の中心を支配し、問いかけの光を示す。
「光は重なる。感じるままに」
低く響く声が空間を震わせる。
音ではなく、振動として胸に届く。
楽器を通して、エリシアの胸の奥に光と共鳴する旋律が生まれる。
エリシアは弓を滑らせる。
木肌の感触、肩の重み、指先の微かな軋み。
音は出ない。
しかし胸の奥では、触れた旋律と揺れる影、心の揺れが光と重なり、初めて明確な形となる。
影が一歩近づく。
肩の傾き、背筋の角度、指先の細かな動き。
問いかけと答えを紡ぐ微細な振動が、光・影・楽器の木肌と交わり、胸の奥で重なる光として響く。
朝の光が木肌に差し込み、影が床に揺れる。
弓を引く手の動き、木肌の揺れ、影の動きが重なり、音はなくても胸の奥で光が旋律と共鳴する。
エリシアは小さく息を吐き、弓を止めない。
肩の重み、指先の感触、木肌の温かさ。
音はなくても、重なる光が胸の奥で確かに生きていた。




