第二十四話 揺れる心
倉庫の中は、朝の光に包まれ、埃が舞いながらゆらりと揺れる。
エリシアは楽器を抱え、弓を握る手に意識を集中する。
肩の重み、顎当ての冷たさ、指先に残る弦の跡。
音はまだ出ない。
しかし胸の奥で、見えない旋律が微かに震え、心の奥まで届く。
楽器の木肌が揺れ、指先に伝わる軋みは音ではなく、存在そのものの呼吸。
長年の触れ合いと弾かれた痕跡が、エリシアの体と呼吸に寄り添い、胸の奥で微かな心の動きを描く。
低い声の人物が倉庫の奥で影だけを浮かべる。
肩幅、背筋、長い指先の微細な動きで空気を揺らす。
目は暗がりに沈み、感情は読み取れない。
しかし存在感だけで場の中心を支配し、微かな問いかけを投げかける。
「心も揺れる。感じるがいい」
低く響く声が空間を震わせる。
音ではなく、振動として胸に届く。
楽器を通して、エリシアの胸の奥に、見えない旋律と共鳴する心の揺れが生まれる。
エリシアは弓を滑らせる。
木肌の感触、肩の重み、指先の微かな軋み。
音は出ない。
しかし胸の奥では、触れた旋律と影、光の微かな振動が重なり、初めて心の奥に響く感覚となる。
影が一歩近づく。
肩の傾き、背筋の角度、指先の細かな動き。
問いかけと答えを紡ぐ微細な振動が、光・影・楽器の木肌と交わり、胸の奥で心の揺れと共鳴する。
朝の光が木肌に差し込み、影が床に揺れる。
弓を引く手の動き、木肌の揺れ、影の動きが重なり、音はなくても胸の奥で心が揺れる旋律が生まれる。
エリシアは小さく息を吐き、弓を止めない。
肩の重み、指先の感触、木肌の温かさ。
音はなくても、揺れる心が胸の奥で確かに生きていた。




