表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/36

第二十三話 見えない旋律

倉庫の中は、朝の光が柔らかく差し込み、埃がゆらりと舞う。

エリシアは楽器を抱え、弓をしっかり握る。

肩の重み、顎当ての冷たさ、指先に残る弦の跡。

音はまだ出ない。

しかし胸の奥で、重なった振動が見えない旋律として響き始めていた。


楽器の木肌が微かに揺れる。

指先に伝わる軋みは、音ではなく存在そのものの呼吸。

長年の触れ合いと弾かれた痕跡が、エリシアの体と呼吸に寄り添い、胸の奥で形を持たない旋律を描く。


低い声の人物が倉庫の奥で影だけを浮かべる。

肩幅、背筋、長い指先の微細な動きで空気を揺らす。

目は暗がりに沈み、表情は読み取れない。

それでも存在だけで空間の中心を支配し、微かな問いかけを投げかける。


「見えない旋律を感じるか」

低く響く声が空間を震わせる。

音ではなく、振動として胸に届く。

楽器を通して、エリシアの胸の奥に、存在するが見えない旋律の輪郭が浮かび上がる。


エリシアは弓を滑らせる。

木肌の感触、肩の重み、指先の微かな軋み。

音は出ない。

しかし胸の奥では、触れた旋律と揺れる影、光の微かな振動が一つに重なり、初めて見えない旋律として認識される。


影が一歩近づく。

肩の傾き、背筋の角度、指先の細かな動き。

問いかけと答えを紡ぐ微細な振動が、光・影・楽器の木肌と交わり、胸の奥で見えない旋律の形を作る。


朝の光が木肌に差し込み、影が床に揺れる。

弓を引く手の動き、木肌の揺れ、影の動きが重なり、音はなくとも見えない旋律が胸の奥で確かに響く。

エリシアは小さく息を吐き、弓を止めない。

肩の重み、指先の感触、木肌の温かさ。

音はなくても、見えない旋律が胸の奥で生きていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ