第二十話 初めての輪郭
倉庫の中は、朝の光と微かな埃の揺らぎで満ちていた。
エリシアは楽器を抱え、弓をゆっくりと握る。
肩の重み、顎当ての冷たさ、指先に残る弦の跡。
音はまだ出ない。
しかし胸の奥で、触れた旋律と揺れる影が微かに輪郭を帯びていた。
楽器の木肌が、まるで自らの意思を持つかのように揺れる。
指先に伝わる軋みは、音ではなく存在そのものの呼吸。
長年弾かれてきた木は、エリシアの体と呼吸に自然に寄り添い、共鳴を輪郭として形作る。
低い声の人物が倉庫の奥で影だけを浮かべる。
肩幅、背筋、長い指先の微細な動きが空気を揺らす。
目は暗がりに沈み、表情は読み取れない。
しかし存在感だけで、空間全体を支配し、問いかけの輪郭を示す。
「初めて、輪郭が見える」
低く響く声が空間を震わせる。
音としてではなく、振動として胸に届く。
楽器を通して、エリシアの胸の奥に共鳴の輪郭が生まれる。
エリシアは弓を滑らせる。
木肌の感触、肩の重み、指先の微かな軋み。
音は出ない。
しかし胸の奥で、触れた旋律と揺れる影が重なり、初めて輪郭を持った形として現れる。
影が一歩近づく。
肩の傾き、背筋の角度、指先の微細な動き。
問いかけと答えを繋ぐ微細な振動が、音のない共鳴として胸に届く。
朝の光が木肌に差し込み、影が床に揺れる。
弓を引く手の動き、木肌の揺れ、影の動きが重なり、音のない旋律の輪郭を描く。
エリシアは小さく息を吐き、弓を止めない。
肩の重み、指先の感触、木肌の温かさ。
音はなくても、初めての輪郭が胸の奥で確かに生きていた。




