第十八話 初めての共鳴
倉庫の空気は、朝の光で淡く温かみを帯びていた。
埃が舞い、微かに光を反射する。
エリシアは楽器を抱え、弓を握る手に意識を集中する。
肩の重み、顎当ての冷たさ、指先に残る弦の跡。
音はまだ出ない。
それでも胸の奥で、触れた旋律が微かに震え、初めて共鳴を生む兆しがあった。
楽器の木肌が揺れる。
指先に伝わる軋みは、音ではなく存在そのものの振動。
長年の呼吸のように、エリシアの体と調和し、共鳴の予感を胸に残す。
低い声の人物が倉庫の奥で影だけを浮かべる。
肩幅、背筋、長い指先の微細な動きで空気を揺らす。
目は暗がりに沈み、表情は読み取れない。
しかし存在感だけで、場の中心を支配し、微かな動きで問いを示す。
「感じるか、初めての共鳴を」
低く響く声が空間を震わせる。
音としてではなく、体全体で感じる振動。
楽器を通じ、エリシアの胸の奥に共鳴の感覚が広がる。
エリシアは弓を滑らせる。
木肌の感触、肩の重み、指先の軋み。
音は出ない。
しかし胸の奥で、触れた旋律が他の存在と微かに重なり、共鳴を生む。
影が一歩近づく。
肩の傾き、背筋の角度、指先の微細な動き。
問いかけと答えを繋ぐその微妙な振動が、音のない共鳴として胸に届く。
月明かりと朝の光が混ざり、影と木肌の揺れが弓の動きと重なる。
音のない旋律が、光と影、楽器と人の間で初めて共鳴を持った瞬間。
エリシアは小さく息を吐き、弓を止めない。
肩の重み、指先の感触、木肌の温かさ。
音はなくても、胸の奥で初めての共鳴が生きていた。




