魔王様を待っている
「聖女様ばんざい」
今日は、聖女の私が魔王を討伐した記念祭。
国民は口々に、私を称え感謝する。
まったく、バカな人間どもだ。
私は魔王様の配下なのに。
人間と同程度の攻撃力しか無い魔族としてできそこないの私に、魔王様は人間殲滅の重要な任務を与えてくださった。
人間のふりをして人間社会に入り込む。
魔王様の命で、私は人間の国に潜りこんだ。
当時の人間の国は治安の悪い所が多く、私の潜り込んだところも一時間に一回は犯罪が発生する場所だった。
私は聖女を名乗った。
標準的な人間を装うより人間社会でも浮いてる奴に扮する方が、魔族だとばれにくいと偽聖女になることを魔王様が命じてくださったからだ。
私の見た目は、人間社会では弱者の若い女で、犯罪者達の格好の標的になった。
持ち物は強奪され、面白半分に殴られ、性のはけ口にされた。
潜入は順調で魔族だとばれることはなかった。人間の暴力なんぞ、魔族の私にとっては痛みも感じない。ベタベタ抱きつかれるのはうっとうしかったが、後で魔王様に消し炭にされるやつらだ、気にするまでもない。
私は犯罪者達に踏みにじられても、本当のあなたは正しい人なのですと言い続けた。
聖女とはそうするらしい。
貧しい人々に無償で食料配ったりして聖女ぽいことをして何年かが過ぎ、あるとき犯罪者の一人が私に狼狽えながら喚く。
「どうして、おまえは俺を憎まないんだ」
そいつは、私にさんざん暴力をふるった奴だった。
私は魔王様にもらったマニュアル通りに答える。
「あなたは環境のせいで、悪いことをしてしまっただけです。あなたは被害者なのです。本当のあなたはやさしい人です。私はわかってます」
そいつは大泣きして、土下座をして私にいままでのことを謝罪してきた。
私はマニュアル通りに、にっこり微笑んであなたにされたことは気にしてませんと言った。
そいつは改心などと言うものをして、二度と犯罪をせず、私の信者になった。
よくわからないが、これも魔王様の計画通りなのだろう。
そいつの改心をきっかけに、私をうっぷん晴らしにしていた者達が、次々と私の信者になっていった。
町の治安は急激に良くなり、そのため景気も良くなった。それまで、私と関りなかった人達も、私のことをほめてくるようになった。
私の信者は増えていき、町は健全化していった。
そして、町のほとんどの者が私の信者となり、その町では犯罪が発生しなくなった。
私をトップとした宗教は、町からちょっとずつ勢力を伸ばしていき、とりこんだ地域の治安を改善させていった。
ひとつの地域の治安改善した結果が、女神の目にとまり、私は女神の加護を受けることになった。
これは傑作だった。
魔王様の部下である私が、女神を騙して祝福を受けたのだ。
さすがは魔王様だ。すべて計算通りなのだろう。
女神公認の聖女になったため、私の宗教は急激に広まっていった。
国の半分以上を勢力下に置き、支配下の治安を改善していった。
国も私の存在を認め、国の聖女として正式に認定された。
国の聖女になった私に、女神は魔王討伐を命じてきた。
私は戸惑ったが、魔王様の計画通りなのだろうと、私は魔王様の討伐に行く。
魔王軍の幹部様と戦うこととなり、私は形だけの攻撃をした。
幹部様は、私の攻撃に悲鳴を上げ消滅した。
なるほど。
私は理解した。
私の攻撃力は魔族の中でも最低で、幹部様を傷一つつけることはできない。
人間を騙して私の評判をよくするために、茶番劇をするわけだ。
私は次々と魔族を倒していく演技をし、魔王様の所にたどり着いた。
「待って、お前には女神の加護がのせられているから、攻撃力が・・・」
さすが魔王様。迫真の演技だ。
私の攻撃に、演技の断末魔を上げて、消滅する魔王様。
本当の断末魔のようだ。
魔王を倒したことになった私は、女神や人間達に讃えられた。
馬鹿なやつらだ。
私は国のトップとなり、この国から犯罪がほぼ無くなり、人々の生活は向上を続けた。
だが、その幸せな生活も、死んだことになっている魔王様が私に一言命じれば終わることになる。
私が魔王様の部下であることを知ったら、人々は絶望するだろう。
いまから、楽しみだ。
おわり




