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第二話:羅生門の鬼と、従者黒鉄の誓い -2

朝の光が森の木々の間から差し込み、街道を歩く二人の姿を照らす。彼らの足取りは軽く、その表情には、新たな旅への期待と、固い決意が満ちていた。


道中、二人は小川のほとりで休憩を取ることにした。

澄んだ水が流れ、魚影がちらつく。太郎は父から受け継いだ槍を器用に使い、あっという間に数匹の魚を釣り上げた。


「よし、今日の朝食はこれだな」


太郎が満足げに言うと、黒鉄は慣れない手つきで魚を串に刺し、焚き火にかざした。しかし、彼女の料理の腕前は、剣の腕前とは裏腹に、壊滅的だった。


「それにしても、黒鉄は本当に料理が苦手なんだな。この魚も焦げ付いているぞ。はははっ」


太郎は、黒鉄が用意した朝食の魚を見て、くすりと笑った。魚は半分以上が炭と化し、香ばしいどころか、焦げ臭い匂いが漂っている。


「む…若様には、私がいる限り、腹を空かせるような真似はさせませんから。修行いたします。いつか、若様を唸らせる料理を作ってご覧に入れます!」


黒鉄は、少し頬を膨らませながらも、真剣な眼差しで太郎を見つめた。

その言葉には、太郎のために尽くしたいという、彼女の深い愛情と、不器用ながらも努力しようとする健気さが込められていた。街道の脇には、野の花が咲き乱れ、穏やかな日差しが降り注いでいた。


昼過ぎ、二人は街道沿いの小さな料理屋に立ち寄った。


木造りの簡素な店だが、旅人や地元の人々で賑わっている。香ばしい出汁の匂いや、焼魚の匂いが食欲をそそる。太郎と黒鉄は、奥の席に腰を下ろし、温かい汁物と握り飯を注文した。旅の疲れを癒やすように、ゆっくりと食事を始める。


その時、隣の席から、旅人たちのひそひそ話が聞こえてきた。


「なあ、聞いたか?羅生門にいるという鬼の噂だ」


「ああ、聞いた。あれはただの鬼ではないらしいぞ。近づく者全てを喰らい尽くすという…」


太郎と黒鉄は、顔を見合わせ、静かに聞き耳を立てた。彼らの耳に、鬼への深い恐怖が滲み出た会話が届く。


「羅生門の鬼…あれは、人間ではどうにもならんぞ。近づかない方がいい。喰われるぞ」

「街の者も、恐れて門を開けようとしない。夜になれば、あの門から鬼の気配が…恐ろしいのう」


太郎は、握り飯を置くと、真剣な表情で黒鉄を見つめた。


「黒鉄。羅生門の鬼の噂だ。父の仇を討つため、そしてこれ以上被害を広げないためにも、まずはあの鬼を討つべきだろう」


黒鉄は、太郎の言葉に迷いなく頷いた。


「はっ。若様のお考え、承知いたしました。この黒鉄、若様のお供をいたします」


二人の瞳には、固い決意の光が宿っていた。食事を終え、二人は再び旅路につく。


夕暮れ時。空は茜色に染まり、遠くの街のシルエットが、夕焼けの中に浮かび上がっていた。羅生門の鬼が棲むという街へ向かう途中、薄暗い林の中から、別の下級鬼が一体、太郎たちに襲いかかってきた。


鬼は、醜悪な顔に鋭い牙を剥き出し、鋭い爪を振りかざして、獰猛な表情で襲いかかる。その体からは、腐敗した肉と血の匂いが漂い、あたりに不快な瘴気を撒き散らしていた。太郎は即座に父から受け継いだ槍を構え、応戦する。黒鉄も刀を抜き、太郎の隣に立つ。二人の間に、一瞬の緊張が走る。


「人間どもめ!この先の街の食料になる前に、ここで喰ってやる!」


鬼が、下卑た笑みを浮かべながら叫ぶ。


「させるか!父の仇、そして村の者の無念を、お前のような下級鬼に踏みにじらせはしない!」


太郎は、怒りに燃える瞳で鬼を睨みつけ、槍を突き出す。


「若様、お任せを!」


黒鉄は、太郎の言葉に呼応するように、素早く鬼の側面へと回り込んだ。林の中での激しい攻防が始まった。木々の葉が、風と鬼の動きで激しく揺れる。



太郎は神の力の一部を無意識に使い、鬼を圧倒する。


彼の槍は、微かに桃色の光を帯びた。それは、まるで桃源郷の朝焼けを宿したかのようであり、同時に、秘められた神の力の片鱗を現していた。太郎は、その槍を鬼の巨体へ向けて、迷いなく突き出した。


「ぐおっ!?」


鬼は、その醜悪な顔を苦痛に歪ませ、不意の衝撃に呻き声を上げた。槍の切っ先が、鬼の分厚い皮膚を容易く貫き、その巨体を真正面から吹き飛ばしたのだ。

まるで巨大な岩が弾かれたかのように、鬼の巨体が数本の木々を根元からへし折りながら後方へと吹き飛んでいく。土煙が爆発のように舞い上がり、森全体に轟音が響き渡った。


しかし、その瞬間、太郎の槍から放たれた桃色の光は、さらに激しさを増し、制御できずに暴走し始めた。彼の瞳は、金色に激しく明滅し、その輝きはまるで灼熱の太陽のようだった。

全身から、抑えきれない神気が迸り、周囲の空気がびりびりと歪む。地面の小石が浮き上がり、木々の葉が不自然に震えだす。


暴走しかける太郎を止めようと、黒鉄が電光石火の速さで彼の前に立ちはだかる。彼女の顔には、太郎の力を恐れる迷いと、それでも若様を守ろうとする鋼のような強い意志が浮かんでいた。


「うおおおおおっ!消えろぉぉぉぉ!」


太郎の叫びが、森全体を震わせるかのように響き渡る。その声には、怒りだけでなく、制御不能な力への恐怖が混じっていた。


「若様!いけません!その力は…!制御を…!」


黒鉄は、必死に太郎に呼びかける。その声は、彼の暴走を止める唯一の希望だった。


「な、なんだこの力は!?」


鬼は、太郎の圧倒的な力に怯え、後退する。その巨体が、恐怖に震えているのが見て取れた。


暴走した太郎の攻撃をかわし、体勢を立て直した鬼が、黒鉄のわずかな隙を突き、電光石火の速さで襲いかかった。


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