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第二話:羅生門の鬼と、従者黒鉄の誓い -1

挿絵(By みてみん)



旅立ちの朝。


清々しい朝日に照らされた村の門は、まだ人影もまばらで、ひっそりとしていた。遠くから鶏の鳴き声が聞こえ、朝露に濡れた草木が、朝日にきらめいている。太郎が家を出ると、既に鈴蘭が門の傍らで待ち構えていた。


彼女は、父と兄の仇を討つという固い決意を胸に、武士の装束を身につけ、腰には二本の刀を差している。

その凛とした立ち姿は、まるで朝靄の中に立つ一本の剣のようだった。彼女の琥珀色の瞳には、揺るぎない決意と、太郎への秘めたる想いが宿っている。


「若様。旅に出られるのであれば、この鈴蘭、お供させてください」


鈴蘭の声は、朝の冷たい空気の中に、確かな響きを持っていた。


太郎は、鈴蘭の姿を見て、一瞬言葉を失った。彼女を危険な旅に巻き込みたくないという思いと、彼女の覚悟がぶつかり合う。


「鈴蘭…危険な旅だ。お前を巻き込むわけにはいかない」


太郎の言葉に、鈴蘭は静かに首を振る。


「ならば、この力、ご覧ください。若様を一人で行かせるわけにはいきません。この命、若様のために捧げると誓った身」


鈴蘭は、自らの決意を示すかのように、腰の刀に手をかけた。その仕草には、迷いが一切ない。


村の広場は、まだ誰もいない静寂に包まれていた。


朝露に濡れた土の匂いが、あたりに満ちている。広場の中心に立つ太郎と鈴蘭は、互いに距離を取り、静かに構え合った。鈴蘭は、腰から二本の刀を抜き放つ。朝日に照らされた刀身が、鈍い光を放つ。

彼女の構えは、まるで水面に映る柳のようにしなやかでありながら、その瞳の奥には、鋼のような意志が宿っていた。


「参ります、若様」


鈴蘭の声が、静寂を破る。その声は、かつて太郎の後ろを無邪気に追いかけていた少女のものではない。


鈴蘭は、まるで風が舞うかのように、一瞬で太郎の間合いに踏み込んだ。

鍛え上げられた剣の腕前と人間離れした身体能力で、彼女は太郎を圧倒した。


右手の刀が、まず太郎の顔面を狙って閃く。太郎は父から受け継いだ槍を横に払い、その一撃を受け止めるが、その衝撃に腕が痺れる。間髪入れず、左手の刀が、まるで蛇のように太郎の懐へと滑り込む。


「っ…!」


太郎は、その速さに舌を巻いた。これまで幾度となく手合わせをしてきたはずの鈴蘭が、まるで別人かのように洗練された剣技を見せている。

彼女の二刀流は、流れるように美しく、しかし力強かった。刀と槍がぶつかり合う甲高い音が、広場に響き渡る。


鈴蘭は、一歩も引かない。

流れるような足捌きで太郎の槍のリーチをかわし、瞬時に体勢を立て直しては、次々と斬撃を繰り出す。その動きは予測不能で、まるで嵐のようだった。


太郎は、その猛攻を捌くのに精一杯で、反撃の糸口すら掴めない。鈴蘭の刀は、時に風を切り裂くように鋭く、時に水面を滑るように滑らかに、太郎の防御をすり抜けようとする。


「若様を守るのが、私の役目。この程度で、若様の足手まといにはなりません」


鈴蘭の声には、一切の迷いがなかった。その言葉は、彼女がこの数年、どれほどの覚悟を持って修行に打ち込んできたかを物語っていた。

父と兄の仇を討つため、そして何より、若様を守るために、彼女は自らの才能を限界まで開花させていたのだ。


太郎は、鈴蘭の剣の重み、速さ、そして何よりもその意志の強さに、圧倒されていた。

彼女の琥珀色の瞳は、彼を試すような、しかし深い信頼が宿っている。それは、幼い頃から変わらぬ、太郎への一途な想いの表れでもあった。


鈴蘭は、太郎のわずかな隙を見逃さなかった。右手の刀で槍を弾き、太郎の体勢が崩れたその一瞬、左手の刀を素早く繰り出した。その切っ先は、微塵も揺らぐことなく、太郎の喉元にぴたりと突きつけられた。


風を切る音さえ止まり、広場に静寂が戻る。


「っ…速い!本当に強いな、鈴蘭!まるで風のようだ!」


太郎は、鈴蘭の剣技に感嘆の声を上げた。彼の顔には、驚きと、そして納得の表情が浮かんでいる。その瞳には、かつての後ろを追いかける幼馴染ではなく、一人の優れた武士として、鈴蘭を認める光が宿っていた。


「(剣を太郎の喉元に突きつけ、微かに微笑む)これで、お分かりいただけましたか?若様」


鈴蘭は、微かに微笑んだ。その笑顔には、達成感と、太郎への確かな想いが込められていた。彼女の心臓は、激しい剣劇の興奮と、太郎に自分の力を認めさせた喜びで高鳴っていた。


「…ああ、分かった」


太郎は、静かに頷いた。鈴蘭の覚悟と実力を認めざるを得なかった。彼は、その瞬間に、鈴蘭がただの幼馴染ではなく、自らの命を預けられる「剣」として、共に戦う存在になったことを理解した。


「鈴蘭…いや、お前は今日から、俺の剣だ。その強き意志と、揺るがぬ忠誠を以て、俺の道を切り開く『黒鉄』と呼ぶことにしよう」


太郎の言葉に、鈴蘭の瞳が大きく見開かれた。彼女に与えられた「黒鉄」という名は、一族の役割を示すものとして、彼女自身も認識していたが、太郎の口から語られるその響きは、これまでとは全く異なる重みを持っていた。

それは、彼女の覚悟と実力、そして何より太郎への忠誠を、彼が深く理解し、認めてくれた証だった。彼女の胸に、熱いものが込み上げてくる。


「はっ…!この鈴蘭…いえ、黒鉄、若様のために、この命、惜しみなく捧げます!」


鈴蘭は、感極まった表情で深々と頭を下げた。その声には、新たな決意と、太郎への揺るぎない忠誠が込められていた。太郎は、その頭を優しく撫でた。この瞬間から、彼女は太郎の「黒鉄」として、その傍らに立つことを誓ったのだ。


太郎は黒鉄の強さと決意を認め、共に旅に出ることを決めた。


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