第十九話:ヤマタノオロチの襲来、絶望、そして覚醒 -4
「若様……! ま、眩しい~! なんて力だ……!」
黒鉄は、驚きに目を見開いた。彼女の琥珀色の瞳は、光を放つ太郎に釘付けになる。
「すっげぇ……!若造が、神様みたいになってやがる! いや、本当に神様になったのか!?」
八重は、豪快な笑みを浮かべた。その瞳には、驚愕の色が浮かんでいる。
「乙姫様、太郎兄ちゃんが……! 玉手箱の力、すごいね!」
琥珀は、悲鳴にも似た声を上げた。彼女の顔には、驚きと、わずかな恐怖が浮かんでいる。
『玉手箱の力が、太郎殿の神力を最大限に引き出しています……! しかし、この代償は……!』
葛の思考が、太郎の心に響いた。彼女は、魔法陣の光を強め、太郎を支えようとした。
太郎は覚醒した力で「天神浄化」の魔法を放つ。
この強力な浄化の力は、ただ攻撃するだけでなく、ヤマタノオロチの闇のエネルギーを弱体化させ、巨大な体にいくつもの明確な隙を作り出す。
ヤマタノオロチの体が、浄化の光で侵食されていく。
「【天神浄化】!お前の闇は、俺の光で打ち払う! ヤマタノオロチ、終わりだ!」
太郎の声が、広間に響き渡る。その声には、覚醒した神としての確かな威厳が宿っていた。
「ぐあああああああ!体が……! な、なんだこの力は……! 我の体が……!」
ヤマタノオロチは、苦痛に咆哮を上げた。その巨体が、浄化の光に侵食され、微かに揺らぐ。
『ヤマタノオロチの力が……弱まっている……! 今が、好機です!』
葛の思考が、太郎の心に響いた。
太郎の覚醒した力と、彼の浄化魔法によって生まれた隙を逃さず、黒鉄たちは最後の、そして最大の総攻撃を仕掛ける。彼らの瞳には、勝利への確信が宿っている。
「みんな!今だ!一斉攻撃だ! この一撃で、全てを終わらせる!」
太郎の叫びが、広間に響き渡る。
「はっ! 若様のために!」
黒鉄は、力強く応え、ヤマタノオロチの首の一つへと駆け出した。
「行くぞー! ヤマタノオロチ、覚悟しな!」
琥珀は、元気いっぱいに叫んだ。
黒鉄の「双剣・犬牙乱舞」、八重の「大地鳴動・剛斧」、琥珀の「猿影斬」、天音の「風切りの一矢」、穂積の強化された小槌の一撃、葛の正確な支援、そして乙姫の「水龍召喚」が、八つの首に同時に叩き込まれる。
その攻撃は、彼らの絆の力を象徴するかのように、一つに束ねられている。
「【双剣・犬牙乱舞】! この恨み、晴らします!」
黒鉄の刀が、ヤマタノオロチの首の一つを切り裂く。
「【大地鳴動・剛斧】! これで終わりだ!」
八重の斧が、別の首を叩き潰す。
「【猿影斬】! どこ見てるの~?」
琥珀は、素早く動き、ヤマタノオロチの目をくらませ、別の首にクナイを突き立てる。
「【追尾の矢・翼閃】! 弱点はそこです!」
天音の矢が、正確に別の首の急所を射抜く。
「【小槌・巨大化の祝福】! お兄ちゃんのために!」
穂積の小槌が、太郎の槍をさらに巨大化させ、ヤマタノオロチの本体へと大ダメージを与える。
「【癒やしの魔法陣・雀の涙】! 皆さま、集中を!」
葛の魔法陣が、仲間たちの力を最大限に引き出し、回復を促す。
「【水龍召喚】! 海の精霊たちよ、力を貸せ!」
乙姫の召喚した水龍が、残る首を拘束し、動きを封じる。
渾身の一撃を受けたヤマタノオロチは、断末魔の叫びを上げ、その巨大な体は光となって四散する。
鬼ヶ島全体を覆っていた瘴気が完全に晴れる。
空には、清々しい青空が広がる。太陽の光が、広間全体を照らし出す。
「ば、馬鹿な……この私が……! ぐあああああああああああ! 人間どもめ……!」
ヤマタノオロチが、断末魔の叫びと共に光となって消滅する。
(ヤマタノオロチが光となって消滅する音)
「やったー!倒したー! 太郎兄ちゃん、すごい!」
琥珀は、喜びの声を上げた。彼女の小さな体が、ぴょんぴょんと跳ねる。
「へっ、ざまぁみろ! 見事だぜ、若造! みんな、よくやった!」
八重は、豪快な笑みを浮かべた。その顔には、達成感が浮かんでいる。
太郎は勝利を確信し、その場に崩れ落ちた。
玉手箱の代償か、彼の体に一時的な負荷がかかり、全身から光が失われ、疲労困憊の表情を浮かべた。
しかし、すぐに黒鉄たちが駆け寄り、彼を支える。彼の顔には、疲労と、達成感が入り混じっている。
「(息を切らしながら)……やった……! みんな……ありがとう……」
太郎は、力なく呟いた。
「若様!ご無事ですか!? 若様……! 心配いたしました……!」
黒鉄は、太郎の傍らに駆け寄り、その無事を確認した。彼女の琥珀色の瞳からは、安堵の涙がこぼれ落ちていた。
『玉手箱の代償が……しかし、太郎殿の神力で、代償は軽減されたようです。すぐに回復させます』
葛の思考が、太郎の心に響いた。彼女は、魔法陣を展開し、太郎の傷を癒やし始めた。
「ああ……なんとか。みんな……ありがとう……。この勝利は、みんなで掴んだものだ……」
太郎は、力なく微笑んだ。
清められた鬼ヶ島に、勝利の光が差し込む。太郎は黒鉄たち一人ひとりに感謝の言葉を伝え、共に戦い抜いた深い絆を確かめ合う。疲労困憊だが、彼らの顔には達成感と、確かな希望が満ちている。
「みんな……本当に、ありがとう。お前たちがいてくれたから、俺はここまで来られた。この絆こそが、俺の真の力だ」
太郎は、仲間たち一人ひとりの顔を見つめ、心からの感謝を伝えた。
「若様……」
黒鉄は、太郎の傍らに立ち、その横顔を見つめた。彼女の琥珀色の瞳には、太郎への深い愛情が宿っている。
「太郎兄ちゃん、もう大丈夫だよ! 琥珀、太郎兄ちゃんのこと、ずっと見てたよ!」
琥珀は、太郎の腕に抱きつき、純粋な笑顔を見せた。
「あなたの力と、私たちの絆が、勝利を掴みました。太郎殿……お見事です」
天音は、静かに呟いた。彼女の白い羽が、安堵に微かに震える。




