第十七話:海坊主討伐、そして鬼ヶ島へ -3
海坊主の猛攻に、仲間たちが再び窮地に陥る。
海坊主は、鈍くなった動きを嘲笑うかのように、さらに強力な水流を放った。船体が激しく揺れ、仲間たちが波に飲み込まれそうになる。
太郎は限界が近いことを悟り、意を決して、残っていた最後のきびだんごを取り出す。
きびだんごは、最後の光を放っている。
「くそっ……!このままでは……! みんなが……! もう、これしかない……! この一撃に、全てを賭ける……!」
太郎は、焦りの声を上げた。彼の瞳は、きびだんごの包みに釘付けになる。
「(きびだんごの包みを取り出し)これが最後だ……! みんな……俺に、力を貸してくれ! このきびだんごに、俺たちの絆を込める!」
太郎は、残りのきびだんごを仲間たちに分け与える。きびだんごの力が、黒鉄たちの能力を限界以上に引き出す。彼らの体が光り輝き、力が漲る。その光は、海坊主の放つ水流をも押し返すかのように、力強く輝いた。
「若様……! きびだんごが……! こんなにも力が……! 体が熱い……!」
黒鉄は、驚きに目を見開いた。彼女の全身に、活力が満ちていくのを感じる。
「うおおおお!力がみなぎる~! 体が軽い! これなら、どんな海坊主でもぶっ飛ばせる! やったー!」
琥珀は、元気いっぱいに叫んだ。その瞳は、興奮でキラキラと輝いている。
「へっ、最高だぜ! 太郎の力、最高だぜ! 来い、海坊主! 俺の斧で、お前を真っ二つにしてやる!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を構えた。彼女の全身から、漲る力が感じられた。
太郎の「桃源郷の鼓舞」と、きびだんごの力で増幅された黒鉄たちのチート級の能力が連携し、海坊主を追い詰めていく。全員の全力が海坊主に集中する。彼らの攻撃は、海坊主の巨体を揺るがし、その体を削り取っていく。
「【桃源郷の鼓舞】!みんな、行くぞ! この一撃で、決める! 海坊主、終わりだ!」
太郎の叫びが、嵐の海に響き渡る。
(一斉攻撃)
「グアアアアアアアアアア! ば、馬鹿な……! この私が……! ぐあああああああ! 人間どもめ……!」
海坊主は、断末魔の叫びを上げ、その巨体は光となって四散する。嵐は収まり、荒れていた海は穏やかさを取り戻す。空には太陽が顔を出し、彼らの勝利を祝福する。乙姫は遠くからその光景を、驚嘆の表情で見守っている。
「やった……! 倒した……!」
太郎は、安堵の息をついた。彼の全身から、緊張が解け、力が抜けていくのを感じた。
「倒しました、若様! お見事です! 若様のお力、そして皆さまの連携、見事でした!」
黒鉄は、太郎の傍らに駆け寄り、その無事を確認した。
『なんて力……! そして、あの団子……。太郎殿の力は、我らの想像を遥かに超えている……。この者たちならば、鬼ヶ島を……。この海の未来は、彼らに託された……』
乙姫の思考が、太郎の心に響いた。彼女の瞳は、太郎たちの圧倒的な力と団結力に驚嘆していた。
疲労困憊の一行だが、勝利の喜びに満ちている。きびだんごは全てなくなり、彼らは次なる試練を、真に自分たちの力と絆だけで乗り越えていく覚悟を固める。彼らの顔には、達成感と、確かな希望が満ちていた。
「きびだんごはもうないが……俺たちには、みんながいる! この絆がある限り、俺たちは負けない! どんな困難も、乗り越えてみせる!」
太郎は、仲間たち一人ひとりの顔を見つめ、心からの感謝を伝えた。
「はい!若様! どこまでも、お供いたします! 若様の道ならば、どこまでも!」
黒鉄は、太郎の言葉に、迷いなく応えた。
「お腹すいた~! でも、海坊主倒したから、お魚いっぱい食べられるかな~! 乙姫様、美味しいお魚、くれるかな~?」
琥珀は、腹をさすりながら、少し残念そうに呟いた。
「へっ、まだまだいけるぜ! 次は鬼ヶ島だ! どんな鬼が待ってるか、楽しみだぜ! 俺の斧が唸るぜ!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を肩に担いだ。彼女の瞳には、新たな冒険への期待が宿っている。
◆
海坊主討伐に成功した太郎たちを、乙姫が温かく出迎えた。
彼女は船に乗って太郎たちの元へ近づいてくる。その姿は優雅で、海の精霊のようだった。海面は、乙姫の登場と共に、完全に穏やかになっていた。
「あなた方の力、誠に見事です。まさか、あの海坊主を討ち倒すとは……。竜宮の者たちも、きっと喜ぶでしょう。海の民の長年の苦しみが、これで報われます」
乙姫の声は、透き通るように澄んでおり、太郎たちを称賛した。その瞳には、深い感謝の念が宿っている。
「乙姫様……! お迎え、ありがとうございます。海坊主を討ち果たせて、何よりです」
太郎は、乙姫に深々と頭を下げた。
「さあ、竜宮城へお戻りください。あなた方の労をねぎらい、感謝の意を表したいのです」
乙姫は、優雅な手つきで、太郎たちを竜宮城へと誘った。
海面が再び渦を巻き、光の道が彼らの足元に現れる。その道は、海の底へと続いているようだった。光の道は、海底へと続く階段のように、彼らを導いていく。
竜宮城の広間へと戻った太郎たちは、乙姫の用意した豪華な宴で迎えられた。
海の幸がふんだんに並び、海の精霊たちが奏でる音楽が広間に響き渡る。
疲労困憊だった彼らだが、乙姫の温かいもてなしと、海の平和を取り戻した喜びに、心から安らいでいた。
「乙姫様、このような盛大な宴まで……ありがとうございます」
太郎は、乙姫に感謝の言葉を伝えた。
「太郎兄ちゃん、お魚美味しいね~! きびだんごはないけど、これならお腹いっぱいになるね!」
琥珀は、目を輝かせながら、海の幸を頬張った。
「へっ、竜宮城の飯は、なかなかやるじゃねぇか!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、酒を酌み交わした。
◆
宴の最中、乙姫は太郎にそっと近づいた。
彼女の表情には、太郎への個人的な好意がにじみ出ており、他の黒鉄たちはその様子を密かに牽制し合う。乙姫の優雅な立ち振る舞いは、他の黒鉄たちとは異なる、成熟した魅力を放っていた。
「太郎殿……あなたの力、そしてそのお優しさ……忘れられません。この海の平和は、あなた方のおかげです」
乙姫の声は、優しく、しかしどこか切なげだった。彼女の瞳には、太郎への深い想いが宿っている。
「乙姫様……?」
太郎は、乙姫の言葉に、わずかに戸惑った。
「(乙姫を睨みながら)……この海の女……!」
黒鉄の心の声が、彼女の心臓に熱く響いた。彼女の琥珀色の瞳は、乙姫を鋭く見据えている。
宴が終わり、乙姫は太郎に、神秘的な装飾が施された「玉手箱」を差し出した。玉手箱は、海の底の光を閉じ込めたかのように、淡く輝いていた。その輝きは、竜宮城の真珠の輝きにも似ていた。
「太郎殿、あなた方には、この海の平和を取り戻してくださったことへの感謝の証として、これを差し上げましょう。
これは、我が竜宮に伝わる最後の切り札、玉手箱です。絶大な力を秘めていますが、その使用には大きな代償が伴います。最終手段としてお使いください。あなたの命に関わるほどの代償が……。どうか、慎重に……」
乙姫の声は、静かだが、その中に重い警告が込められていた。
「玉手箱……!?」
太郎は、その美しい箱に、驚きに目を見開いた。
「乙姫様、そのような危険なものを、若様に……! 若様に何かあったら、どうするおつもりですか!」
黒鉄が、乙姫の言葉に、警戒の声を上げた。彼女の琥珀色の瞳は、玉手箱と乙姫を交互に見つめる。
「乙姫殿、その代償とは、具体的にどのような……? 詳しくお聞かせいただけますか?」
天音は、冷静に問いかけた。
太郎は玉手箱を受け取り、乙姫に感謝を伝えた。
乙姫は太郎に意味深な視線を送り、別れの言葉を告げると、水の中へと消えていく。船は鬼ヶ島へ向けて静かに滑り出す。乙姫は、太郎たちの旅の行方を案じているようだ。彼女の姿が完全に水中に消えると、海面は穏やかな波紋を残すだけだった。
「ありがとうございます、乙姫様。大切に使わせていただきます。必ず、この使命を果たします。乙姫様のご期待に、必ず応えてみせます」
太郎は、玉手箱を固く握りしめ、水中に消えた乙姫に向かって深々と頭を下げた。
「(微笑み)……あなたの旅が、実り多きものとなりますように。太郎殿……。海の精霊たちが、あなた方を守りますように……」
乙姫の声が、海の彼方から聞こえてくるようだった。
「約束通り、船を。鬼ヶ島へお連れしましょう。さあ、こちらへ。この船が、あなた方を鬼ヶ島へと導きます」




