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桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討ち、愛しき仲間たちと世界を救う~  作者: ざつ


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第十七話:海坊主討伐、そして鬼ヶ島へ -2

船は竜宮城を後にし、海坊主の領域へと向かって静かに進んでいた。

海面は穏やかで、月明かりが海を照らし、幻想的な光の道を作り出している。


しかし、船が海坊主の領域に近づくにつれて、空の色は徐々に暗くなり、海面も不穏な波紋を広げ始めた。潮風は冷たさを増し、遠くから不気味な唸り声が聞こえてくる。

それは、巨大な海の怪物が、彼らの存在に気づき、その領域を侵されたことに怒りを覚えているかのようだった。


「若様、海坊主の気配が強まっています。この海域は、彼の領域……。警戒を怠らぬよう……。いつ、どこから襲われるか分かりません……!」


黒鉄は、船の舳先に立ち、鋭い視線で周囲を警戒した。彼女の琥珀色の瞳は、海の奥に潜む危険を探ろうとしていた。船の甲板に、足元をしっかりと踏ん張る。


「うわ~! なんか嫌な感じがする~! 空が真っ黒だよ~! 海坊主って、どんな姿してるのかな~? 怖いよ~!」


琥珀は、身をすくませ、太郎の袴の裾をぎゅっと掴んだ。彼女の小さな体が、恐怖に微かに震える。海坊主の邪気が、彼女の肌をぴりぴりと刺すように感じられた。


「この魔力……海坊主の邪気です。気を引き締めましょう。彼の攻撃は、予測不能なものとなるでしょう。海の魔力を操る乙姫殿ですら、単独では討てぬ相手……」


天音は、冷静な声で指示を飛ばした。彼女の白い羽が、微かに緊張に震える。弓を持つ腕に、力が漲る。


「へっ、海坊主か! 望むところだぜ! どんなデカい奴でも、俺の斧でぶっ飛ばしてやる! 海の鬼だろうと、陸の鬼だろうと、俺の敵じゃねぇ!」


八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を肩に担いだ。彼女の瞳には、強敵との戦いへの闘志が宿っている。全身から、漲る力が感じられた。


『皆さま、海坊主の魔力は、精神にも影響を及ぼします。心の乱れが、命取りになるでしょう。回復に努めますが、皆さまも集中力を切らさぬよう……。特に、海の邪気は、精神を蝕みます』


葛の思考が、太郎の心に響いた。彼女は、魔法陣の光を強め、仲間たちを後方から支えた。その表情は、いつも以上に真剣だった。


その時、船の目の前の海面が、まるで意思を持ったかのように大きく波打ち、巨大な影が彼らの船へと迫ってきた。


それが、海坊主だった。





漆黒の巨体が海面から隆起し、船を飲み込もうと襲いかかる。

その姿は、巨大な岩山が海から現れたかのようであり、その目からは、邪悪な光が放たれていた。

海坊主との戦闘は激しさを増し、船は嵐の海で激しく揺れ動く。太郎たちは足場を取られ、思うように攻撃できない。荒れ狂う波が船を飲み込もうとする。


「グオオオオ!人間どもめ!この海に沈め! 我の領域を荒らす愚か者どもめ! 貴様らの命、ここで終わりだ!」


海坊主が、咆哮を上げて船へと襲いかかる。その巨体から放たれる水流が、船を激しく揺さぶる。船体が、まるで木の葉のように翻弄される。


「くっ……この波では……! 船が傾く……! 攻撃が当たらない……! これじゃ、まともに戦えない……!」


太郎は、槍を構え、海坊主の猛攻に耐えようとするが、船の揺れに足場を取られ、思うように動けない。彼の全身が、波に打ち付けられるたびに揺れる。


「若様、船が……! このままでは、転覆してしまいます! 皆さま、船にしがみついてください!」


黒鉄は、太郎を庇うように船の甲板に踏ん張った。彼女の武士の装束が、激しく波風になびく。船の揺れに抗いながら、必死に体勢を保つ。


「ぐおおお!踏ん張れねぇ! 船が揺れすぎだぜ! これじゃ、斧も振るえねぇ! ちくしょう、どうするんだ!?」


八重は、豪快な笑みを浮かべながらも、船の揺れに苦戦していた。彼女の巨体すら、波に翻弄される。斧を構える腕が、波に打ち付けられるたびに揺らぐ。


その混乱の中、小柄な穂積が素早く動く。彼女は、船の舵が激しく揺れているのを見て、あることを閃いた。彼女の瞳に、確かな光が宿る。


「お兄ちゃん、見ててね! 穂積が、船を安定させてあげる! 穂積の力、見てて!」


穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、純粋な笑顔で励ます。その小さな体が、揺れる船の上で必死に踏ん張る。


「【小槌・巨大化の祝福】!」


穂積は、小槌を掲げ、船の舵に黄金の光を放った。

すると、舵は驚くべき速さで巨大化し、荒れる波の中でも船を安定させることに成功する。

船体が、波に抗うかのように、しっかりと海面を捉えた。

巨大な舵が、波の猛攻を押し返す。

船は波を切り裂き、安定を取り戻した。


「穂積、すごい! 船が……安定した!? これで、戦える! みんな、反撃だ!」


太郎は、穂積の機転に驚き、感嘆の声を上げた。彼の瞳には、新たな希望が灯る。


「まさか、舵を巨大化させるとは……! 穂積殿の機転、見事です! これで、若様も戦える!」


黒鉄は、驚きに目を見開いた。彼女の琥珀色の瞳は、安定した船体と、穂積の小さな姿を交互に見つめる。


「わー! 船が揺れない! 穂積ちゃん、すごいね! これで、海坊主をぶっ飛ばせる! やったやったー!」


琥珀は、元気いっぱいに叫んだ。彼女の顔には、喜びが浮かんでいる。


船が安定したことで、黒鉄と八重は前線へと躍り出る。「双剣・犬牙乱舞」と「大地鳴動・剛斧」を繰り出し、海坊主の水の攻撃を真っ向から受け止め、反撃していく。二人の攻撃が海坊主に命中し、巨大な水しぶきが上がる。


「【双剣・犬牙乱舞】!若様のために! この海坊主、私が討ち取ります! 八重殿、援護を!」


黒鉄は、二本の刀を構え、海坊主の水の攻撃を切り裂いた。彼女の剣舞は、流麗でありながらも力強く、水の奔流をいなす。刀身が水流を切り裂くたびに、甲高い音が響く。


「【大地鳴動・剛斧】!この斧、喰らえ! 邪魔だ、海坊主! 黒鉄、任せとけ!」


八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を振りかざした。彼女の斧の一振りは、海坊主の巨体を揺るがし、水しぶきを上げる。斧の刃が、海坊主の体表を深く抉る。


「グアアアア! 小賢しい人間どもめ! この程度で、我を倒せると思うな! 無駄だ!」


海坊主は、苦痛に咆哮を上げた。その巨体が、怒りに震えている。


琥珀は「猿影斬」で素早く海坊主の周囲を撹乱し、天音は「風切りの一矢」で遠距離から海坊主の弱点を狙い撃つ。穂積は「小槌・結界の祝福」で仲間たちを防御する。


「【猿影斬】!こっちだよ~! 海坊主、目が回るでしょ! 幻惑で、動きを止めてあげる!」


琥珀は、素早く海坊主の周囲を駆け巡り、幻惑の魔法で海坊主の目をくらませる。その素早い動きは、海坊主の巨体には捉えきれない。


「【風切りの一矢】!弱点はそこです! 海坊主の核を狙います! 琥珀殿、その隙を!」


天音は、上空から指示を出し、弓を構えた。彼女の白い羽が、風を切り裂き、矢の軌道を正確に導く。矢は、海坊主のわずかな隙間へと吸い込まれていく。


「【小槌・結界の祝福】!みんなを守るよ! お兄ちゃん、頑張って! 穂積の結界、もっと強くなるよ!」


穂積は、小槌を掲げ、黄金の光を放つ結界を太郎たちの周囲に展開した。結界は、海坊主の水の攻撃を受け止め、彼らを水から守る。


葛は「癒やしの魔法陣・雀の涙」を展開し、仲間の傷を癒やしながら、アイテムボックスから生成した特殊な薬で海坊主の動きを鈍らせる。全員がそれぞれの役割を完璧にこなし、連携を見せる。


『【癒やしの魔法陣・雀の涙】!皆さま、ご無理なさらないで! 体力の消耗が激しいです! 回復を急ぎます! 天音殿、海坊主の動きに乱れが生じました!』


葛の思考が、太郎の心に響いた。彼女は、魔法陣を展開し、仲間たちの疲労を回復させていく。


『(薬を投げつけ)これで動きが鈍るはず。海坊主の魔力の流れが乱れました! 今が好機です!』


葛は、アイテムボックスから取り出した特殊な薬を海坊主へと投げつけた。薬は、海坊主の体に命中し、その巨体が、微かに揺らぐ。


「ぐっ……なんだこの薬は……! 体が……重い……! 小賢しい真似を……!」


海坊主が、苦痛に呻き声を上げた。その動きが、明らかに鈍くなる。


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